八 時の概念、分子記憶の概念

 有機体にかぎらず、生命体が重力場の異なる二つの時空間に居住した場合、体内分子挙動はその時空間の重力場に相応し、それぞれの時空間における生命体の時間感覚と精神的進化に相異が生ずる。この比較は、重力場を感知できる状態や形体で、双方の惑星に生存した場合の比較であり、二つの時空間に同時に居住できないため、それらの時間感覚の相異を厳密に語るのは非常な困難をともなう。


 ガイアの重力場に比較すると、ロシモントの重力場はガイアの十倍あり、重力場がおよぼす精神エネルギー負荷も十倍に達する。その結果、ガイアの重力場における我々の思考速度は、ガイアに誕生した場合の十倍になり、ガイアではロシモントの時間を十倍長く感じる。つまり、ロシモントの一秒をガイアでは十秒に感じるのである。これは、我々のような精神生命体が精神活動量を一定にして客観的に比較した場合であり、どちらかの惑星に生息している形ある生命体には、明らかに比較できない現象である。


 重力場が増せば、それに抗する有機体の分子構成原子は大質量化し、分子は高分子化する。生命体の組織は質量の大きな原子による高分子組成の組織になる。

 ガイアの生命体にくらべ、かつてロシモントに生息した生命体は、はるかに緻密頑強な構成の体内組織を維持していた。ロシモントとガイアの、同一種に近い、と考えられる個体間で説明すれば、ロシモントの生命体の保有分子数は、ガイアの生命体よりはるかに多く、分子の保有エネルギーも高かった。


 これは、ロシモントに生息した生命体の体内組織が優れていたのではなく、ロシモントの生命体がガイアの生命体より、高い重力場に抗する構成組織と、精神活動の基になる生命エネルギーを、より多く必要としたのを示すだけである。その結果、組織分子に記憶される精神情報量は、ガイアの生命体にくらべはるかに多い。



 我々の時間感覚は、ロシモントの重力場で我々の肉体を構成した組織分子によって培われた。精神生命体になった現在の我々は、重力場に影響されにくいが、精神活動速度を変化させて、時間感覚をガイアに合わせのが可能だった。


 説明するまでもなく、時間概念の基盤は、生命の誕生から死までと、惑星ロシモントの自転周期である。

 我々精神生命体が、ガイアの地上に生息する知的生命体である類人猿のネオテニーと精神共棲して、我々が彼らの精神エネルギーと意識の両レベルを高めた場合、我々の時間概念の基盤が、ネオテニーの時間概念になること意味する。


 ガイアの現状のネオテニーの平均寿命は、ガイアの時間概念で思考するなら、三十歳程度であり、ロシモントの時間概念では三年に相当する。

 一方、我々の平均寿命は、我々精神生命体が拡散しないかぎり、つまり、我々の系列の精神エネルギーマスと意識、我々個々の精神エネルギーと意識が拡散しないかぎり不滅である。


 惑星ロシモントの時間感覚で精神活動する我々に、ガイアを周回する六隻の円盤型偵察艇は、めまぐるしく変化するガイアの生命現象を伝えた。

 精神生命体の我々は、かつて肉体を有したロシモントの重力場における思考速度を維持したまま、ガイアを監視し、観察した。

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