二十四 震災復興審議官捕獲

十八時〇六分。

国土建設省に併設された震災復興省二五階の屋上に、特務部コマンドの大型ロータージェットステルス高速戦闘装甲搬送ヴィークルと三機の小型ロータージェットステルス高速戦闘ヴィークルが、無灯火消音で着陸した。


「作戦開始、展開しろ!」

 幸田指揮官が特務コマンドに命じた。

 SP姿の特務部コマンドが庁舎内へ入った。地上も、無灯火消音の搬送装甲ヴィークルから降りたSP姿の特務コマンド数十名に包囲された。

 特務コマンドは分子破壊銃と防御シールド発生器を携帯している。



 十八時十一分

「捕獲開始」

 分子破壊銃を構えた特務コマンド十五名が、震災復興省十八階、震災復興審議官執務室に入った。


 審議官は執務机でディスプレイ端末を操作している。

「審議官、我々に同行してください。震災復興コンサートのプロモーション映像を提出してください」

 幸田指揮官は、分子破壊銃を鷹栖震災復興審議官にむけた。

 スカウターが鷹栖審議官の身体放射波をスキャンし、インジケーターがクラリック階級ビショップ位のCL2を表示した。

 スキャン結果は特設映像通信で、本間と佐伯、全特務コマンドに伝えられている。


「SPが何事です?」

 眼鏡の奥の細い目を輝かせ、自信に満ちた表情で鷹栖審議官が幸田を見ている。

「検警特捜庁、検警特捜本局特務部、特務コマンドです。抵抗は無駄です」

 幸田は分子破壊銃を眼で示した。

「両手を頭に置き、静かに立ってください。

 震災復興コンサートのプロモーション映像を提出してください」


「わかりました。抵抗しません。

 震災復興コンサートのプロモーション映像はありません。処分しました」

 審議官は両手を頭上にあげ、ゆっくり椅子から立ちあがり、不敵な笑みを浮かべて幸田たちを見ている。その瞬間、特務コマンドたちの周囲が白紫の球状に輝いた。防御シールドが鷹栖審議官の放つ思念波を弾きかえしている。


「抵抗は無駄だ」

 幸田は、運動機能麻痺にセットした分子破壊銃のトリガーをひいた。

 審議官が倒れた。同時に、特務コマンドたちは審議官に磁場拘束衣(磁界発生電導繊維拘束衣)を着せて、拘束衣内に液体窒素ガスを充填し、身体を凍らせ捕獲した。


 かつて、捕獲したクラリックは、搬送装甲ヴィークルの金属球体カプセルの、超低温捩状球状磁界が囲む空間に収容し、地球防衛軍関東師団、宇宙防衛隊入間基地内の、時空間管理部へ移送し、巨大な金属球体カプセル・Higgs Destroyerの超低温捩状球状磁界内に幽閉された。

 クラリックを超低温捩状磁界内に閉じめるのは、田村たちを狙撃したクラリックの狙撃銃を分析した結果から導いた理論だ。



「身体を破壊しろ!私を消滅しろ!」

 身動きのとれない審議官が叫んだ。

「プロモーション映像はどこにある?」

「そんな物はない。処分した」


「佐伯本部長!プロモーション映像を処分したといってます。口を割らせますか?」

 特設回線の複数同時映像通信で、幸田が佐伯に伝えた。

「無理でしょう。震災復興審議官を捕獲してください」

「了解しました。

 審議官を連れて行け。銃を破壊消滅にセットしろ」

 幸田の指示で、特務コマンドは分子破壊銃をセットした。


 室外に待機する特務コマンドが、ストレッチャーを室内に入れた。

 特務コマンドたちはすばやく審議官を乗せ、拘束器具で固定し、磁場発生ネットをかけて金属ベルトで身体を固定、冷凍保存保護シートでおおった。これで、患者をストレッチャーで運んでいるようにしか見えない。





 十八時十四分。

「捕獲完了。撤収する。全員、警戒を怠るな」

 ストレッチャーとともに、幸田は室外へでた。捕獲に三分かかった・・・。


 回廊の左右を特務員が警護している。その間を、幸田はストレッチャーとともに進む。

「階段を行け!」

 エレベーターに閉じこめられたら、対処に時間がかかる。

 ここは十八階、屋上まで七階の移動だ。


 特務コマンドがストレッチャーをエレベーターホール横の階段へ移動させたその時、スカウターが警報を発した。CL3だ。

「来るぞ!撃てっ!」

 幸田が叫んだ瞬間、弾かれたうように審議官執務室の隣のドアが開き、三人の男が跳びだして幸田指揮官に思念波を浴びせた。幸田指揮官の防御シールドが白紫に発光した。同時に、特務コマンドたちが分子破壊銃を放った。


 分子破壊銃のエネルギー波が、思念波を弾きとばし、周囲の窓ガラスが破壊して塵のようにフロアに降り注ぎ消滅した。

 三人の身体は一瞬に収縮し、砂を崩すように細かな塵になり、昇華するように消えた。その瞬間、三羽の梟が淡い光で残り、白く発光したが、それもすぐさま消えた。


「秘書官の柳瀬、武田、森村です」

 特務コマンドが特設複数同時映像通信でそう伝えた。

「周囲を警戒しろ!まだいるはずだ!」

 幸田が指示した。

 

 スカウターを通じて特設複数同時映像通信で、特務コマンドの視野と会話の全てが、特務コマンド全員と指揮系統へ伝えられ、国家議会対策評議会情報本局、情報集約センターと法務省検警特捜庁、検警特捜本局で記録されている。



 かすかにエレベーターのチャイムが聞こえる。スカウターのスキャン映像に、色彩をなくしたドア枠とCL3の身体放射波が現れた。エレベーター内をスキャンした特務コマンドがいう。

「クラリックだ!」


 チャイムが鳴り、エレベーターのドアが開いた。福田信助震災復興大臣が現れた。

 その瞬間、幸田は、福田に分子破壊銃を放った。

 福田の身体が消える一瞬、白色発光した鷹が現れて消えた。

「本部長!エレベーターが、亜空間転移ターミナルだ!

 全員、省内のエレベーターをスキャンしろ。クラリックをすべて消滅しろ!

 本部長、何か妙です。クラリック反応が増えてる・・・。

 省内立体スキャン映像を送ってください」


「了解」

 佐伯はタブレットパソコンでプロミドンに、震災復興省内立体スキャン映像表示を指示した。

 省内立体スキャン映像にも、色彩をなくしたエレベーターのドア枠が現れ、庁舎内に亜空間路が連結している。佐伯は亜空間ターミナルを閉じるよう、プロミドンに指示した。

「亜空間転移ターミナルを閉じる。移動してくれ」


「了解・・・。行けっ!」

 ストレッチャーの脚が折りたたまれ、特務コマンドとストレッチャーは広い階段を登ってゆく。



 佐伯は、メガネ端末に送られた映像を見ながら思った。

 階段には何もない。もう、震災復興省内にクラリックは現れないだろう・・・。

 だが、クラリックが省内スキャンに捕捉されなかったのは、なぜだ・・・。これまで、省庁はプロミドンの防御シールドで守られ、内部にいる者は常に身体放射波をスキャンされ、クラリックは確認されなかった・・・。

 いや、クラリックの審議官がいた。スキャンは信頼できないのか・・・。

 そんなことはない。これまでのスキャンでクラリックはいなかった・・・。

 今も立体スキャンで、クラリックが存在していないことを確認してる・・・。


 本間がいう。

「佐伯君、トンネル効果だ・・・」

 佐伯は閃いた。

「幸田!聞いただろう。セル凍結磁界強度を二倍にし、磁界拘束域をセルの一.五にしろ」

 

「了解!セットする!」

 幸田指揮官はスカウターを使い、磁場拘束衣(磁界発生強化電導繊維拘束衣)の磁界強度を二〇〇パーセント、磁界拘束有効範囲をセルの一五〇パーセントに再設定した。

「捕獲クラリックの他に、クラリック反応なし・・・」

 スカウターで省内立体スキャン映像を確認しながら幸田がいう。

 十八時十八分。

「移動する。

 警戒を解くな!搬送班、警戒を怠るな。ヴィークルに積んでも、第一級厳戒態勢だ」

「了解、指揮官!」

 幸田指揮官の指示に特務コマンドが応答している。



「佐伯君!我々は巨大ディスプレイがある主要地区へ行き、特務コマンドを指揮する!

 いつプロモーション映像が再生されるか、香住司令官が調べてくれる。

 私の考えが正しければ、プロモーション映像の亜空間にいるアーク・ルキエフが、主要地区に設置された巨大ディスプレイからネオテニーへ精神共棲するはずだ」

 本間は、タブレットパソコンに同調させたスカウター端末を装着し、特設複数同時映像通信を確認して、タブレットパソコンを持って執務室から廊下へでた。

「鷹栖審議官の他にクラリックが現れたのは、ビショップ位のせいだ」

「トンネル効果に至った理由は、何ですか?」

 佐伯は本間につづいて廊下へでた。

「ショウゴが説明したように・・・」

 本間は歩きながら説明した。



 二〇二五年十月十九日、東亜重工M工場とM宇宙航空研究所の捜査査察の際、検警特捜庁、検警特捜本局特務部特務コマンドと、地球防衛軍宇宙防衛隊コマンドの地球防衛軍特務コマンド部隊司令官を務めた本間と、部隊指揮官を務めた佐伯は、地下に建設されたの巨大宇宙艦のスキップにより、東亜重工M工場とM宇宙航空研究所が自己崩壊した後、レプリカンのショウゴとリエを保護した。

 それ以後、国家議会対策評議会情報本局で、洋田国家議会対策評議会評議委員長と統括情報官の本間情報本局長が、レプリカンのショウゴとリエを保護している。


 ショウゴは、クラリックのアーク・ヨヒムたちが乗艦した宇宙艦を時空間に幽閉する経緯を語った際、アーク位の思考について、プリースト・ヨダの論文を説明した。

 東亜重工M工場の居住区の警備員ヨダは、クラリックの思考領域について、現実に関する思考と仮想事象の思考の違いを研究したプリーストだった。

 どちらの思考も思考領域に亜空間領域を構成するが、クラリックの仮想事象の思考は、現実思考より強固な亜空間を構成する。クラリック階級の活動の根本が、この思考による茫漠たる亜空間構成にあるのを知り、ヨダは、アーク位がニオブの支配階級として君臨しつづけた理由の糸口を見つけ、研究成果を披露した。

 その結果、禁断の領域に足を踏みいれたヨダは、クラリックの反感をかい、学識研究系列の地位を剥奪され、セキュリティゲート警備員の地位と研究論文分類整理の地位を与えられた。


 研究論文と呼んでいるが、実質的な論文ではない。研究結果の理論的体系化概念である。論文の分類整理は、どのプリーストがどんな概念を、そのプリーストの系列として継承しているかを把握する『記憶作業』で、左遷だった。

 これは、セル化した身体内に存在するクラリック階級が、同種類の精神を有する精神生命体の集合体の系列、つまり精神エネルギーマスだから可能なのだ。精神生命体の系列が継承する概念は、同じニオブであるアーマー階級についても同様だ。


 ショウゴはヨダの理論を使って、ショウゴの論文

『思念波攻撃でターゲットの精神を亜空間へ転移させる』

 を完成させ、思念波攻撃を可能にした。

 同時に、閉じた他の時空間へターゲットを転送することと、爆破システムが独自の時空間や亜空間に存在する、使用者のみが爆破解除可能な兵器誘導システムを完成させ、これをクラリックのアーク・ヨヒムたちの宇宙艦に使用した。

 結果、アーク・ヨヒムたちが乗艦した宇宙艦は、内部を破壊され、艦自体の時空間を閉じたまま、アーク・ヨヒムたち自身が思考で構成した亜空間を漂っている。



 本間と佐伯は、上り高速エレベーターに乗った。屋上二十五階に本間統括情報官専用、中型ロータージェットステルス高速戦闘装甲搬送ヴィークルが待機している。


「クラリックのアーク位は、思考で複数の亜空間を構成し、我々の時空間に進入逃亡するが、ビショップの思考は、単一亜空間の構成だけで、簡単には亜空間転移できないため、スキャンで捕捉できなかった・・・。

 プロミドンの防御シールドや磁場拘束衣の磁場を強化して隔離空間を狭めれば、精神エネルギーマスの、単一亜空間しか構成できないビショップの鷹栖は、シールドから漏れだし、分散して他の者に意識内進入した・・・。鷹栖を拘束すると他のクラリックが現れたのは、そのためだ」

 本間は説明をつづけた。

「アーク・ルキエフはプロモーション映像に亜空間を構成してその中にいる。映像が再生されれば、ルキエフのエネルギーマスが再構成される・・・」

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