十一 日記不履行

 二〇二五年、八月八日、月曜。

 理恵はN市W区の省吾の自宅から以前と同じように仕事へ行き、菅野が送ってきた荷物を確認して不足な物を送ってもらった。省吾も妻の荷物を送った。全てを送ったつもりだったが、理恵が菅野に不足な物を送ってもらったように、省吾の妻も、あれが足りない、これがあるだろう、と言ってきた。ヴィークルで十分ほどの距離に暮らしながら、二人とも法律上の配偶者に会う気はなかった。


 省吾は仕事の合間に、タブレットパソコンの日記がまだ実現していないのに気づいた。

 マリオン、なぜだ?

 省吾は日記を書いた日付と内容を確認した。


 二〇二五年、三月十四日、金曜。

『全てがクラリックのまちがった経済理論から始まった・・・。今後、世界経済の破綻から、新たな秩序下で、世界規模の国家連邦が編成される・・・』


 二〇二五年、七月九日、水曜。

『経済のために危険な原子力政策を立案実行した政府の責任者と、原発事故を起こした電力会社の責任者は、個人資産を以って原発事故の国民に対する保障と賠償を行ない、子孫に対しても賠償責任を負わせる。

 そして、公務員特別措置法を廃止する。

 福島原発事故後に制定された「原発廃止・自然エネルギー発電法」を確実に実行する』

 原発事故の賠償責任。公務員特別措置法の廃止。

「原発廃止・自然エネルギー発電法」の確実実行。


 二〇二五年、七月二十日、日曜。

『国民生活を考えず、馬鹿ばかり言っている内閣と政府の人間を、全て更迭せねばならない。内閣にしろ政府にしろ、国民を思う首長を探さねばならない。そして、震災復興をしなければならない』

 新内閣と新政府の樹立。


 二〇二五年、七月二十一日、月曜、海の日。

『日本に生じている災害と、それに付随する事故は、

「奮い立て国民、政府を建て直せ」

 との警告だ。馬鹿げた政治を行なっている政府が変わらぬ場合、現政府を解体して国民本意の新たな政府にしなくてはならない・・・』

 直接民主制の政府樹立。


 いずれの日記も実現していない。

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