四十三 クラリック消滅

 二〇二五年、十月十九日、日曜、十二時過ぎ。

 ミサイル迎撃後。

 地球防衛軍中部師団宇宙防衛隊特務コマンドのステルスヴィークル編隊が、G市O区の大東重工G工場と大東重工G航空研究所へ、高高度レーザーパルス攻撃を行なった。


 攻撃終了後。

 ステルスヴィークル編隊が大東重工G工場の広大な離着陸ポートに降下した。編隊中央に着陸したのは、指令機のロータージェットステルス戦闘爆撃ヴィークルだ。


 指令機の指令専用ディスプレイに、情報収集衛星が捕捉した透視映像と各ヴィークルの探査波による映像を合成した、大東重工G工場と大東重工G航空研究所の透視映像が現われた。航空研究所には白く輝く二体の身体放射がある。


 地球防衛軍中部師団宇宙防衛隊特務コマンドを指揮する司令官の梨田は、ディスプレイを各ヴィークルへの指示映像に切り換えた。

「各機クルーは機内に待機。探査波エコーを監視し、身体放射波探査を続行しろ。

 特務コマンドは、装備で身体放射波探査を続行し、ターゲットを殲滅しろ。

 この区域に一般人は居ない。居るのは全て奴らだ。

 容姿が女子どもでも、躊躇せずに殲滅しろ。

 よし、行け!」


「司令官は、本機から指示をしてください」

 指令機から降りようとする梨田司令官を、コクピットの機長が気づかった。

「私が行かねば、誰が奴らを見極める?」

 梨田司令官は、機長とクルーに笑顔を見せた。


「セルから抜け出た奴らは、単体で攻撃しないのですか?」

 梨田司令官の横で、宇宙防衛隊特務コマンド指揮官が訊いた。


「奴らの精神と思念は単独存在できない。たとえ単体で行動できても、我々の身体放射波探査に引っかかる。我々以上に鮮明な反応が出る・・・」

 梨田司令官はディスプレイを工場と航空研究所の透視映像に戻した。

「倒れた二人を見ろ。この色が何を示す?」

 損傷した身体と千切れた部位のどちらも紫から白へ発光し、放射エネルギーが人間以上だと示している。

「わかりました」

 梨田司令官は臨戦態勢の指揮官とともに、指令機を降りた。


 梨田司令官は装備のバトルアーマーから、流線形の本体に槍の穂先のような銃身が付いた繋ぎ目のない滑らかな銀色の分子破壊銃を抜き、ハンマー部を引いた。

「背後を頼む・・・」

 梨田司令官は、宇宙防衛隊特務コマンド指揮官を見た。

「了解しました」

 宇宙防衛隊特務コマンド指揮官はレーザー銃を構えた。その場を囲む三名の特務コマンドとともに、梨田司令官の身辺警護体制をとった。


 情報収集衛星の探査で、大東重工G航空研究所のコントロールデッキが、G航空研究所の地下サイロのミサイルの発射と、G工場とW市のW工場のミサイルの発射を管理している事実が判明している。



 大東重工G航空研究所の対衝撃ガラスで囲まれた発射コントロールデッキに、二人の男が倒れていた。

 一人はメガネをかけた白髪まじりの髪の河本だった。高級な紺のスーツは、航空研究所の屋根を昇華して到達したレーザーが腹部を焼失してぽっかり大穴が開き、その大穴から焼け焦げた床のコンクリートが見えている。レーザーで焼かれた部位は焦げて出血は無い。

 もう一人は顔の半分を焼失した頭部と、首から下だけの身体に分離している。

 梨田司令官は、生存している各身体部位から二人を身元確認した。


 精神生命体のニオブは、ネオロイドやペルソナやレプリカンの頭部にいるわけではない。セルが破壊すれば、精神生命体もセルと同じにエネルギーバランスを崩し、破壊したセル間隙から、時間とともに精神エネルギーが拡散して消滅する。

 注意しなければならないのは再生だ。切断分離した部位同士を近づければ、精神生命体はセルを再生して、元のネオロイドやペルソナやレプリカンに再生する。

 ただし、セル再生の主体が神経細胞の再生にあり、数週間に大量の精神エネルギーを使う。その間、精神生命体はネオロイドやペルソナ、レプリカンとしての活動ができない。


 梨田司令官はスカウターで、清州地球防衛軍総司令官へ映像通信した。

「清州、こいつは河本だ。こっちは村野だ」

「セルごと消滅しろ。消滅時に実体が知れる」

 清州地球防衛軍総司令官が命じた。

「了解、このまま映像を送る」

 話しながら梨田司令官は分子破壊銃を河本に向けた。


「やめろ。お前たちアーマーに、我々クラリックを裁く権限はない」

 河本は、破壊されたセルの腹部から漏れる精神エネルギーを、自己の精神エネルギーで止めていたが、自己拡散覚悟で全精神エネルギーを使い、梨田司令官の精神と身体に、破壊の思念波を浴びせた。

 思念波を浴びた梨田司令官のバトルスーツが白紫に発光した。

「裁かない。亜空間ターミナルは消えた。クラリックは逃げられない。この世から消えてもらうだけだ」

 梨田司令官はトリガーを引いた。


 一瞬に河本の身体が収縮し、砂を崩すように細かな塵になり、昇華するように消えた。その瞬間、河本の身体形状が淡い光で残り、白く発光した鷹になったが、それもすぐさま消えた。

 さらに梨田司令官は村野に分子破壊銃を向けてトリガーを引いた。

 村野の身体が消える一瞬、村野の姿が淡い光で残り、白色発光した鳥の形になり、すぐに消えた。


「司令官。最初からその銃を使用すればよかったのでは?」

 宇宙防衛隊特務コマンド指揮官は梨田指揮官の特殊武器を見て、遠隔攻撃を考えている。

「遠隔操作では、誰が消えたかわからんだろう」

「そうですね・・・」

 宇宙防衛隊特務コマンド指揮官はレーザー銃を構えたまま、三名の特務コマンドとともに、梨田司令官の身辺警護を続行した。


 梨田司令官は考えていた。

 人間として生活しているクラリックがいきなり一般人の前から消えれば問題になる。それに、人間として行動していた奴らの実体が知れない。

 奴らは政府に通常の地対地ミサイルだけを発射した。もし、ミサイルに核弾頭を搭載していればこうはゆかない。現代の核弾頭搭載ミサイルはターゲット付近で迎撃されれば起爆する。奴らがそれを使わなかったのは、何としてもこの社会を支配したいからだ・・・。

 それにしては攻撃がお粗末だ。政府を攻撃すれば、八重洲の大東重工本社も被害を受ける。なぜ、簡単に叩き潰される攻撃をしたのだろう・・・。

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