四十二 クラリック殲滅作戦

 二〇二五年、十月十九日、日曜。

 永田町と霞ヶ関の路上に着陸した小型ロータージェット戦闘ヴィークルによって、周辺の交通が規制された。永田町と霞ヶ関周辺を囲んで防空シールドが張られている。周辺道路に、一般ヴィークルも人もいない。

 配備されたミサイルランチャーヴィークルの上で、迎撃用高性能小型ミサイルが薄曇りの空を睨み、周囲を水陸両用装甲ヴィークルが警備している。


「捕獲した八重洲と丸の内の連中はどうする?」

 国家議会対策評議会評議委員長執務室(通称、評議委員長執務室)の洋田評議委員長は、端末のディスプレイに現われた映像を見た。


 ディスプレイの隅に、地球防衛大臣の清州地球防衛軍総司令官が現れて言う。

「予定通り、カプセルに捕獲した。意識思考探査と思考記憶探査をカプセル内で行なう」

 捕獲したクラリックは、装甲搬送ヴィークルの球状磁場カプセルに捕獲し、地球防衛軍関東師団、宇宙防衛隊入間基地内の、時空間管理部へ移送し、巨大な球状磁場カプセルに幽閉する。クラリックを球状磁場に捕獲するのは、省吾たちを狙撃したクラリックの狙撃銃を分析して得た結果から導いた理論だ。


「芳牟田と近藤はどうした?河本と村野は?」

 芳牟田は大政同志会の総裁だ。

「四人とも所在不明だ。芳牟田がアーク・ヨヒムだ。近藤はヨヒムの側近のレド。河本と村野は、レドの部下のコラドとリノックだ」

 清州がそう答えた。


「ヨヒムの親衛隊系列か・・・。大政同志会は?」

 投資顧問会社大政同志会は、行政機関に対抗するための経済界の裏組織だ。大政同志会の象徴は経済という欲望だ。右翼ではない・・・。洋田はそう思った。

「大政同志会は存続してる。特務コマンドの映像を見よう・・・」

 清州がそう言うと映像が隅に引き、ディスプレイに広いオフィスが現れた。スーツ姿の男女が働いている。

「・・・ネオテニーだけだ。どうする?」

 清州は洋田に訊いた。

「全て君に任せる」


「了解した。古田指揮官。予定通り、組織を公的機関に変えてくれ」

「わかりました」

 オフィスの四隅に、フル装備のバトルアーマーにバトルスーツの身を包んだ、地球防衛軍特務コマンドが数名ずつ立っている。オフィスの者たちに特務コマンドは見えないらしく、いつものように証券取引や金融取引を行なっている。


 古田特務コマンド指揮官は、右側頭部のスカウター端末に、オフィスの緯度と経度と高度と現地時間を入力し、上空に静止している三機の情報収集衛星に、思考記憶探査を指示した。

 三機の情報収集衛星が、同時到着の特殊電磁パルスを発射し、オフィスが一瞬に電磁パルスの干渉波で薄紫の光に包まれた。オフィスの者たちから、投資顧問会社大政同志会に関する全ての意識と記憶が消え、新たに公的金融機関の意識が残った。

「完了した。ただちに移動する」

 ディスプレイからコマンドの映像が消えた。



 ディスプレイの隅の清洲が拡大した。洋田の考えを理解して言う。

「長時間の送信は奴らに気づかれる。特務コマンドの送信を待つしかない・・・」

 ニオブの思念波を使えば、梨田と本間と佐伯の状況は一目瞭然だが、ニオブの思念波は芳牟田に知れる。また、地球防衛軍と検警特捜局が装備する通信機器は軍需企業で作った物ばかりだ。吉牟田は通信機からも我々の状況を知る。今は我々が独自開発した、特務コマンドの通信システムの映像を待つしかない・・・・。


 その時、ディスプレイの隅に緊急退避信号が現われた。日本上空の情報収集衛星が、帝都に向けて発射された十個の飛行体をレーダー捕捉している。ただちに、政府周辺に配備されたミサイルランチャーヴィークルが迎撃ミサイルを発射した。

「来たぞ。迎撃ミサイルを発射した」

 ディスプレイの清洲がそう言った。


 評議委員長執務室に緊急アラームが鳴った。

 新任の国家議会対策評議会官房長官が、執務室に跳びこんできた。

「評議委員長!地下へ非難してください!首都に向けてミサイルが発射されました!」


「わかりました・・・」

 洋田は官房長官に笑顔で答え、ディスプレイを見た。

「清州、地下へ非難すべきか?」

「心配するな。富士上空で迎撃する」


「発射地点は?」

「G市O区とW市の二箇所、大東重工だ・・・。

 中部師団がスクランブルして総攻撃した」

 中部師団とは、地球防衛軍中部師団宇宙防衛隊だ。

 大東重工を制圧するのにどれくらいかかるのか、と洋田は思った。


「梨田は必ず東重工を制圧する」

 ディスプレイの清州は笑顔を見せた。

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