二 モアの卵

 巨大な目がコクピットのドームからこっちを見ている。コクピットのディスプレイにも拡大した目が現れてコクピット内を見ている。同時に、巨大な獣脚類を連想する獰猛な頭部が現れて〈ガジェッド〉がゆさゆさと揺れた。


 コクピットのコントロールデッキにボールが転がった。クピの頭くらいのボールだ。

 クピがボールを格納しなかったのかと思っていると、ボールが半円を描くように転がってバスコの足元に転がってきた。


「逃げろおっ!スクランブルだ!急げっ!発進しろっ!

 スキップ(時空間移動)するヒマはないぞっ!」

 バスコは大声で発進を指示した。手には卵料理の皿とフォークを持ったままだ。


「了解!発進!」

 クピがそう言った途端、〈ガジェッド〉が急発進した。反動でバスコは休息室の隔壁に叩きつけられた。だが、卵料理の皿は持ったままだ。卵料理はこぼれていない。


 クソッ!モアの奴め!だが、何でだ?!」

 もしかして・・・。

「クピ!卵をいくつ持ってきた?」

「ふたつだよ!」

「戻れ!卵を返すんだ!」

 バスコは卵料理の皿を床を置いた。床に転がっている卵を持ってコントロールポッドのシートに座った。コントロールポッドに身を固定するとバスコの脳内インプラントがバスコの思考を感知して、コントロールポッドが後部搭乗ゲートへ移動して後部攻撃配置に着いた。バスコはコントロールポッドの卵を牽引ビーム捕捉して、マニュピュレーターを使って卵を後部搭乗ゲートの廃棄物排出口に置いて廃棄物排出口を開いた。


「モアの真上に滞空しろっ!」

「了解!」

 マリーの操作で〈ガジェッド〉がモアの真上に滞空した。

 バスコのコントロールポッドの3D映像に、地上のモアと、後部搭乗ゲートの廃棄物排出口の卵が現れた。バスコは牽引ビーム捕捉した卵をマニピュレーターを使って地上のモアの背に降ろした。モアは一羽ではない。すでに群れになっている。


 卵が返されるとモアの群はおとなしくなった。そして、バスコの岩窟住居があるアルギリアンから、モアの生息地があるディノルニス草原へ移動していった。



「アナウスへ飛行する!」とマリー。

「了解!」

〈ガジェッド〉はスクランブルの目的地アナウスへ向けて飛行した。


「クピ。モアの巣に卵はいくつあった?」

 バスコのコントロールポッドが後部攻撃配置からコクピットへ移動した。

「13個だよ。輪のように丸く並んでたよ。他の巣は11個だったから、二つ持ってきたんだよ」

 バスコのコントロールポッドに、クピが記憶しているモアの巣の3D映像が現れた。卵がなくなって、それまで卵があった位置がはっきりわかる。


「卵を取ったら、残りの卵を等間隔で円形に配置するよう説明しただろう。

 この状態では、卵の数をかぞえられないモアでも、卵を取られたのはわかる」

「モアって、知能が高いんだね。次から気をつけるよ・・・」


「次はないぞ。奴ら、記憶はいいんだ。今回の件は子々孫々に伝えられるんだ。

 クピは卵を取る時、モアに見られたか?」

「見られてないよ」

「それなら、一安心だな」


「でも、どうして〈ガジェッド〉がわかったんだろうね」

「モアの卵は特殊な電磁波を発して自分の位置を親に知らせるんだ」

「うわっ、大変!皆のお腹の中が、モアのターゲットになるよっ!」

「だいじょうぶだ。加熱すれば分子運動が停止して電磁波を発しなくなる」

「ホットしたよ!」

「ホットな卵料理だったぞ!」

 バスコはコントロールポッドのコンソールを見た。目的地のアナウスに関する情報が3D映像で現れている。

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