三 壊滅指示

 アナウスは熱帯雨林の湿地だ。植物など豊富な生態系が維持されているほか、地下にはあらゆる天然資源が埋蔵している。特に脚光を浴びているのが鉱物の単結晶体、いわゆる宝石だ。だが、利用は宝飾のためではない。コヒーレンスのためだ。純度の高い結晶体は高値で取り引きされるため、採掘目的の不法入植者が後を絶たない。


 これまでは国家レベルの入植だけで、民間レベルの入植は無かった。

 しかし高純度の結晶体が発見されると、非合法に民間組織がコロニーを建設して鉱物資源を採掘しはじめた。バスコたちは、惑星イオスのイオス共和国監視監督省の中央総監視監督本部、トニオ・バルデス監視監督官の指示を受けて、全ての非合法民間組織のヒューマノイドを捕獲して、監視隊に引き渡してきた。

 つまり、バスコたちはイオス共和国監視監督省、中央総監視監督本部直属の賞金稼ぎだ。


 今度の得物は収斂進化した異星体エイプの、ネオテニーだ。

 エイプは我々と同じ二足歩行のヒューマノイドだ。惑星入植能力を持ち、兵器と武器を持っている。彼らの好戦的かつ獰猛さは、彼らの歴史が物語っているが、ヒューマとは異なる祖先を持つのエイプにも関わらず、収斂進化した姿はヒューマと同じなため、ヒューマはヒューマ社会にエイプが存在していることすら認識していない。


「ターゲットは新たに現れた全員か?エイプにヒューマが紛れてないのか?」

 バスコはコントロールポッドに現れている3D映像のフォーカスを、アナウスを流れるニガル川上流に絞った。

 巨大ドームの4D探査映像が、〈ガジェッド〉のコントロールデッキとコントロールポッドに現れた。国家レベルで入植した際に使われたコロニー用の惑星移住用戦艦だ。


 エイプを捕獲すれば、ヒューマを捕獲したと勘違いされる。エイプだと示すのは難しい。どうやってエイプを識別する?

 エイプは我々のリナル銀河内から来たのか?それともリナル銀河外から来たのか?

 故郷のコンラッドシティは、リナル銀河のカオス星雲、リオネル星系(恒星リオネル)惑星イオスにある。リオネル星系にいるヒューマノイドはヒューマだけだ。

 ここはリナル銀河カオス星雲アルギリウス星系の、第二惑星アルギランだ。かつてここにはヒューマノイドはいなかった。惑星アルギランに入植したのは、我々惑星イオスのヒューマだけだった・・・。


 惑星イオスのコンラッド州監視監督総本部は、いつものように説明無しだ。オレたちで情報を集めろと言うことか・・・。

 トニオ・バルデス監視監督官は何してるんだ。イオス共和国の一級監視官でコンラッドシティ監視監督本部の本部長である監視隊長から、監視監督省の中央総監視監督本部の、本部監視監督官に昇格した途端、オレたちをこんなアルギランの辺境地に送りこんで、ここを管理監視していた監視隊はこのアルギランに顔を出さなくなった・・・。

 監視隊長から本部監視監督官に昇格できたのは、クピが渦巻銀河ガリアナのテレス連邦共和国へ、異星体アイネクの駆除を要請して、テレス連邦共和国軍警察総司令官マリー・ゴールド大佐が異星体アイネクを駆除してくれたお陰だぞ・・・。


「バスコ!聞えるか?見えてるか?

 聞えなければ、バスコの開発した4D映像通信に不備がある証拠だぞ」

 バスコの思いを聞いていたかのようにトニオ・バルデス監視監督官が4D映像通信

で、〈ガジェッド〉のコクピットとコントロールポッドに3D映像化した。


 オリオン国家連邦共和国代表の戦艦〈オリオン〉提督、指揮官の総統Jが言ってたが『呼ぶより謗れ』とはよく言ったものだ・・・。

「ああ、しっかり見えて聞えてる。オレとクピの開発に不備はないぞ!」

「いや、クピ。すまないね」

「はあい。だいじょうぶ。隊長の考えは筒抜けだよ~」


「そうか。クピには筒抜けだったなあ。

 マリー。元気か?いつも、綺麗だな!」

「隊長もお世辞が上手になったわね。

 ところで、新情報は何?早く話してね。

 もうすぐニガルに着く・・・」

 ニガルはニガル川上流の大きな市だ。


「マリーはバスコとクピより仕事熱心だ。

 今回のスクランブルは他銀河からの浸入だ。鉱物資源採取ではない。

 浸入自体が目的だ」

「何のために?」


「テレス連邦共和国軍警察総司令官マリー・ゴールド大佐からの情報だ。

 マリー・ゴールド大佐の精神共棲体である、オリオン国家連邦共和国代表の指揮官・総統Jから、マリー・ゴールド大佐を通じて、

『惑星ガイアの害獣エイプが逃げた。生死と形態の有無に関わらず捕獲して欲しい』

 と要請があった。

 エイプは惑星ガイア支配を企む異星体レプティリアの傀儡だった。

 レプティリアは、精神生命体ニオブの末裔の一族・フェルミに意識内進入してフェルミを支配し、エイプが惑星ガイアを支配するよう、フェルミをエイプに精神共棲させた。

 だが、エイプの好戦的かつ獰猛な凶暴性は暴走し、惑星ガイアを破壊しかねなくなった。

 そこでレプティリアは、エイプに意識内進入したままのフェルミを再利用するため、エイプを惑星移住用戦艦に乗せて放った。30日前の事だ・・・。

 以上の要請により、今回の指示は、エイプの壊滅だ」


「了解した」とマリー。

「何ともヘビーな指示だな!」

 バスコは、早くも、ヒューマの中からエイプを見つける方法を考えている。

「ヘビーだね~。エイプの戦艦は、惑星移住用戦艦と同じなんだね・・・」

 クピが気になることを言った。

「では、頼むぞ!」

 4D映像通信が閉じた。

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