三 巨大球体型宇宙戦艦〈オリオン〉

 グリーゼ歴、二八一五年十一月十日。

 オリオン渦状腕深淵部、アッシル星系、惑星ナブール、静止軌道上。

 ナブル砂漠、オアシスミルガ上空、巨大球体型宇宙戦艦〈オリオン〉。



 コクピットの3D映像で、小惑星規模の黒く巨大な球体型宇宙戦艦〈オリオン〉が〈V2〉に近づいた。巨大艦体中央から〈V2〉に向って赤い誘導ビームが走った。

「確認光がルペソ将軍に感知されるよ」

 ラプトのホイヘンスが惑星ナブールの地上から監視しているだろうとJは思った。

「心配ない。〈オリオン〉の多重位相反転シールド内だ」とカムト。

「ビームを捕捉。自動航行にする」とパイロットのガル。


〈V2〉のドライブが停止した。誘導ビームに牽引されて、〈V2〉は〈オリオン〉の中央に近づいてゆく。

 3D映像で〈V2〉の正面に、〈オリオン〉の中央が接近した。照明の無い小さな入口が見える。そうではない。〈オリオン〉があまりに巨大なため、これから〈V2〉が入る入口が小さく見えている。


〈V2〉が入口を越えた。背後で隔壁のダイアフラムが閉じた。

〈オリオン〉内部は明るく照明され、〈V2〉の数十倍もの巨大な空間が、〈オリオン〉の中央へ続いている。〈V2〉はそのままビームに牽引されて〈オリオン〉の中へ進んだ。

 背後で次々に巨大エアーロックのダイヤフラムが閉じている。


「カムト。ラプトも連れてきたのか・・・」

 コクピットに男二人の3D映像が現れた。

「分子生物学者で精神科学者のトーマス・バトンと、特殊兵器と装備開発者の物理学者、ピーター・プランクだ。二人はバトルスーツとバトルアーマーの開発者だ。

 トーマスは私の父の宏治の友人で、母ゆりの父大隅悟郎教授の友人だ」

 カムトは、挨拶する二人に、JとDとKを紹介した。

「詳しい事は、PDガヴィオンの意識記憶管理システムで確認してくれ。説明するよりその方が早い」

 カムトは頭部を指さして、記憶を転送できると説明した。


〈V2〉が停止した。周囲からシールドされたボーディングブリッジが伸びて〈V2〉を係留している。

「到着だ・・・」

 Jたちは〈V2〉からボーディングブリッジへ移動して三重のエアーロックを抜けて、予備室を抜けて〈オリオン〉のブリッジに隣接したホールに入った。



 ホール内の円形テーブルに、カムトと十五名のトムソ、特殊兵器と装備開発者の物理学者ピーター・プランク、分子生物学者で精神科学者のトーマス・バトン、トムソたちを支援する十六名の補佐官、JとDとKと三機のPePe、PDアクチノンとPDガヴィオンのアバターが着いた。


 Jは説明する。

「挨拶は抜きにするよ。

 ホイヘンスはデロス星系惑星ダイナスの、ディノスの皇帝ホイヘウスに意識内進入してネオロイドにしていた。

 そのあと、ホイヘンスはグリーズ国家連邦共和国防衛軍総司令官のヒューマ、コロン・デ・ルペソ将軍をネオロイドにしてモーザを使い、ここアッシル星系のラプトの惑星ナブールに逃れたの。

 今は、この惑星ナブールの犯罪武装勢力を掌握するラプトの将軍をネオロイドにしてルペソを名乗ってるよ。犯罪武装勢力は、ナブール政府はもちろん国民戦線とも対立してる。

 ホイヘンスは強力な電磁パルス兵器を持ってるよ。グリーズ共和国防衛軍総司令官のルペソ将軍をネオロイドにしてたから、グリーゼ艦隊の全ての兵器の知識を持ってるはずだよ」とJ。


 ここアッシル星系惑星ナブールのナブール政府は、惑星ナブールの資源を独占して、近隣の惑星へ販売し、利益を独占している。レッズ星系の惑星シンア、ロッカールは、ナブール政府を支援して資源を輸入している。これら惑星ナブールと惑星シンアと惑星ロッカールは、電磁パルス兵器を持っていない。

 惑星ナブールの国民戦線は、民主国家樹立をめざしている。ベスチ星系の惑星コビアンと惑星オセアンと惑星エウロネは、国民戦線を支援している。これらも、電磁パルス兵器を持っていない。


「PD。ホイヘンスの兵力を分析できる?」

 JはPDアクチノンのアバターを見つめた。

「分析してあります。兵器性能とモーザの時空間スキップ性能は私たちと互角です。

 ホイヘンスは惑星ナブールでモーザを発展させてAIモーザを完成し、遺跡内で新たな戦艦〈ホイヘンス〉建造しました」

 PDアクチノンが兵器の比較を3D映像で示した。


「時空間スキップドライブも完成したのか?」とカムト。

「〈ホイヘンス〉の転移推進は亜空間スキップドライブです。

 私たちは時空間スキップドライブと物質転送スキップ(時空間スキップ)が可能です。

〈ホイヘンス〉は転送スキップできません」とPDガヴィオン。


 Jは三星系の勢力が気になった。

「このまま武装勢力が攻撃すれば、アッシル星系、レッズ星系、ベスチ星系は降伏して、ホイヘンスに支配されるね」

 政府軍は攻撃部隊を壊滅されて、武装勢力の兵力がどれほどのものか確認している。政府軍攻撃部隊壊滅の情報は、国民戦線とそれらを支援するベスチ星系の惑星コビアンとオセアンとエウロネにも伝わっているはずだ。

 政府軍には新たな兵器を開発する能力も期間も無い。惑星ナブールを支援するレッズ星系の惑星シンアと惑星ロッカールにも、新たな兵器を開発する能力も期間も無いだろう。


「ホイヘンスを三星系から追いだす方法はないか」

 カムトはそう言った。精神思考するためにシールドを張ってクリプトビオシスしそうだ。

「カムト、固化しないで考えてね!」

「わかってる!」とカムトは不満げだ。

「まず、表向きは互角の戦いをするよ!

 あたしたちの新勢力が惑星ナブールに存在することを示すんだ。

 それで、三星系がホイヘンスに降伏しなくなるはずだよ」とJ。

「よし、レーザーパルスナノビームで攻撃しよう」とカムト。


 かつて、ヘリオス星系惑星ガイアで、Jの両親たちはPDガヴィオンに指示し、情報収集衛星からナノ単位に絞った強力なレーザーパルスナノビームを放って、武装勢力の武器を破壊した。武装勢力がシールドを持っていなかったから可能だった。

 これまで惑星ナブールにシールドが無かったが、ホイヘンスはシールドを持っている。最初の攻撃で主兵力を壊滅できるか否かで全てが決まる。


「ねえ、PD。ホイヘンスの主兵力は何?どこにあるの!」

「しばしお待ちください」

 PDアクチノンが探査している。


 しばらくすると、〈オリオン〉の空間に5D座標が現れた。

「Jが呼んだように、今後、ルペソ将軍の呼び名は『ホイヘンス』に統一してください。

 5D座標の光点の大きさは、ホイヘンスの武装勢力の兵力数を、黄色から赤色への光度は兵力強度を示しています。したがって、ホイヘンスの主兵力はここです」


 PDアクチノンが5D座標のナブル砂漠のオアシスミルガの巨大遺跡を示した。

 PDガヴィオンが説明する。

「あのナブル砂漠の砂は酸化ロドニュウムです。ホイヘンスがあの遺跡に留まる理由は酸化ロドニュウムです」

「何てことだ!」

 あの広大な砂漠全てがロドニュウムの露出した鉱脈だなんて・・・。

 Jをはじめ、カムトたちトムソとトーマス・バトンたちエンジニア、そして補佐官たちは言葉を無くした。


 短期間では変化しないロドニュウム鉱石が、膨大な時空の変遷で酸化物に変化した。酸化ロドニュウム鉱石を還元してロドニュウムを生成するには、とてつもないテクノロジーを必要とするが、完全なるロドニュウムを生成できた暁には、それらに費やした研究と時間を超越した結果を手に入れることになる。

 なぜなら、ロドニュウムはこの時空間で最強の金属であり、酸化物も希少で貴重なのだ。

 しかしながら、酸化物を還元して完全生成するテクノロジーは、まだこの時空間では確立されていない。PDの能力を除いた場合の話だ・・・。


「ホイヘンスも、酸化ロドニュウムの還元技術を確立していません」

 PDアクチノンはホイヘンスの兵器の装甲を探査してそう説明した。

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