五十一 東南アジア・オセアニア国家連邦構想

 二〇二五年、十月十九日、日曜、午後。

「プロミドンが、ショウゴとリエを他所へ転送した・・・。

 視覚映像が現われない・・・」

 N市W区の省吾の家の居間で、省吾がそう話している間に、テレビが緊急ニュースを告げた。



《緊急ニュースをお伝えします。政府の緊急発表をお伝えします。

 本日十五時十六分、地球防衛軍宇宙防衛隊コマンドと検警特捜庁検警特捜局特務部コマンドの混成部隊『地球防衛軍特務コマンド』が、地球防衛軍へ軍備供給している東亜重工M工場と宇宙航空研究所の捜査査察に入りました。

 しかし、研究所と工場が陥没崩壊したため、地球防衛軍特務コマンドの捜査査察は難航しています。研究所と工場の陥没崩壊は、工場と研究所の地下から一キロメートル四方、地下十階分以上に相当する土砂が消滅したためと発表しまたが土砂消滅の原因は不明です。

 なお、宇宙航空研究所から、核分裂物質が装填されていない新型爆縮レンズによる高性能核弾頭の小型ミサイルが発見されました。東亜重工は政府から、このようなミサイル開発を許可されていません。政府に向けて発射する計画だったようです。

 宇宙航空工学の専門家は、

「地下の土砂消滅を、地下で建造された宇宙船が地下から亜空間航行したため」

 と解説していますが、現在の科学技術で、このような亜空間航行できる宇宙船は存在しません。


 政府は、今回の軍需企業の政府恫喝とテロに合衆国政府が関与している、と発表しています。

 政府発表によれば、新体制に変わる以前の洋田内閣が合衆国に対し、日本の領土問題に協力しなければ日米安保条約を破棄する旨を打診していた事を明らかにしています。

 これに対し、合衆国は、協力をほのめかしながら、日本を環太平洋経済協定に引きこみ、東南アジア・オセアニア経済圏協定を切り崩す方針を打出していました。

 そして、北方領土、竹島、尖閣諸島に侵略したロシア、韓国、中国と対立するのは合衆国の国益に反するとの思惑から、日本領土に侵略するロシア、韓国、中国について論評を拒み、日本政府に協力的でありませんでした。


 新体制成立後、地球防衛軍の存在により日本政府は合衆国政府に対して、

「日本にのみ負担を強いて日本の領土問題に集団的自衛権を行使せず、日本の国益を得られない日米安保条約を完全に破棄する」

 と述べてきました。

 今回の事件で、合衆国政府が商務省を通じて日本の経済界、特に軍需企業に圧力をかけ、日本政府の転覆をもくろんでいた事実が浮きあがってきました。

 現在の民主的な日本政府と違い、大国政府は各国が経済を最優先している、民主国家ではない、資本主義による独占的な国家と言えます。


 これに対し、東南アジア・オセアニア経済圏協定を締結している諸国は、自国が真の民主国家になる事を望んでいます。

 東南アジア・オセアニア諸国では、こうした大国に侵略されるのを防ぐため、各国が、東南アジア・オセアニア国家連邦構想を提唱しています。

 今月末日に開催される、南島サミットで、事実上の、東南アジア・オセアニア国家連邦が成立するのは確実です。


 現在、これらを踏まえたと思われる発表が、合衆国から成されています。

 合衆国政府は、

「商務省を通じた日本の経済界への圧力は、商務省内に存在する経済界寄りの一部勢力によるものであり、合衆国政府の本意ではなく、日米合同捜査を行ない、合衆国政府の正義を明らかにする」

 と述べています。

 合衆国政府の発表を受け、日本政府は、地球防衛軍中部師団宇宙防衛隊コマンドの梨田司令官と、検警特捜庁検警特捜本局の本間本局長と、N検警特捜部の佐伯部長からなる、地球防衛軍と検警特捜庁の混成チーム、『地球防衛軍特務コマンドチーム』を派遣する方針を固めました。


 合衆国政府はさらに、北方領土、竹島、尖閣諸島等に侵略している各国が、即時に日本領土から撤退するように、

「これまで、合衆国政府は合衆国の国益を考慮して侵略国に配慮してきたが、これら侵略国の横暴は際限がない。

 日米安全保障条約が締結されている限り、日本領土を侵略している国々に対し、日本政府とともに集団的自衛権を強力に行使する。

 合衆国政府はこれらの発表を、国連安全保障理事会で公式発表する」

 と公式発表しました。

 また、東シナ海と南シナ海の各諸島に関しても、同様の声明を発表し、東南アジア・オセアニア経済圏協定を指示する旨を発表しました。


 日本政府は合衆国政府の発表内容には触れず、日本領土と領海と領空を侵犯侵略した者に、賠償金と極刑を課す旨を発表し、現在、竹島と北方領土に侵入している者たちに、逮捕礼状を発行しました。

 日本政府の発表に、ロシア、中国、韓国は、軍事力で対抗する、と反論していますが、すでに北方領土では、現地に留まり、日本に帰化を希望する住民が、ロシア本土への移住を遥かに上まわっている、と現地メディアが衛星放送で緊急発表しています・・・・》



「合衆国が東南アジア・オセアニア経済圏協定を認めた。

 これで南米諸国とEUも、東南アジア・オセアニア経済圏協定を認める・・・。

 ロシアと中国と韓国と北朝鮮はイデオロギーが異なる。互いに協力しても、東南アジア・オセアニア経済圏協定の諸国に逆らえば孤立する。

 これで、確実に国家連邦が成立する。しばらく様子を見よう・・・」

 省吾は、テレビからタブレットパソコンへ視線を移した。


「ショウゴとリエが気になる?」

「うん、二人の思念があるべき所に戻っても、二人は我々の個性を受け継ぐ・・・。消滅はしないと思う・・・」

 省吾はマリオンの言葉を思いだしている。


 理恵は省吾の背に腕をまわして抱きしめ、頬に頬を寄せた。

「ありがとう。二人を気づかってくれて」

「もしかして、リエも妊娠してるのか?」

「そうかもしれない。そうでないかもしれない・・・」

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