十九 ローラン㈤ パルティアの襲撃
私とカミーオは旅館へ急いだ。その時、狼の遠吠えが響いた。
ローランのあちこちから、犬の遠吠えが狼に応えた。
ローランに犬は少ないはずだ。
「何でしょう?」
カミーオがふりかえった。
その瞬間、背後に、私は強烈なタタールの意思圧力を感じた。
「伏せろっ」
一瞬に、我々を衝撃波と爆発音が襲い、周囲の旅館の屋根が吹き飛んだ。
「火薬だ!」
城壁の外から、夜空に大量の火の玉が飛んできた。大量に火矢も飛んでくる。
火の玉は家々の屋根に当たって炸裂し、火矢は屋根を燃えあがらせた。
ローランの都は至る所から火の手があがっている。
ふりかえると、通りで駱駝の背から荷を降ろしていたパルティア人がいない。馬屋から火の手があがっている。
広場に、周囲の家や旅館から、ローランの民が跳びでてきた。皆、戸板や鍋で、飛んでくる火矢から我が身を守っている。
私の旅館から、妻モーレと娘マリオン、カミーオの妻シャオリンと息子ヤガルが跳びだしてきた。妻たちを追って、剣をかざした男たちが旅館から走ってきた。
「走れ!子供たちを守るんだ!」
私とカミーオは、私の旅館へ走った。背後から奇声が聞こえ、大量の矢が飛んできた。私とカミーオは思念波で矢の方向を捕捉し走った。
『ローラン宮から地下通路を偵察艦へ急行してる!』
カイオスとキーヨが思念波で伝えてきた。
「船へ逃げろっ!」
私はネオテニーの習性で叫んだ。
私の声を聞いたモーレとシャオリンは、子供たちの手を引いて大通りをローラン宮へ走った。
都市国家ローランのすぐ近くをローラン川が流れている。大声で船といっても、クラリックが意識内侵入していないパルティア人は、船を偵察艦と思わず、川舟としか思わない。
パルティア人がローラン川へ走った。逃げ惑う人々に襲いかかり、火矢が飛びかう中を、剣で次々にローランの民を殺戮していった。
ローラン軍と民が反撃に出た。宮殿周囲に集まり、集団で盾を立てて防御壁を作り、逃げ来る民を宮殿内へ保護し、パルティア人に弓矢を放った。城壁の上からもローランの民がパルティア人に弓矢を放っている。
東西の城門が打ち破られ、パルティア軍が雪崩れこんできた。
「はやく、宮殿へ行け!」
私とカミーオは身を盾にして、子供たちと妻たちを守った。
子供たちを、兵士の盾の防御壁の内へ走らせた、その時、盾の防御壁に間隙ができた。その光景が燃え盛る家々の炎に浮かびあがった瞬間、パルティ軍が大量に矢を放った。
無数の矢が盾に当たり、凄まじい衝撃になった。盾の間隙を抜けた大量の矢が、我々と妻たちの背に突き刺さった。子供たちの手足にも矢が刺さっている。
モーレは倒れると同時に、マリオンに意識内入射して、マリオンの脚の神経ネットワークを一時的に遮断した。
私は思念波でマリオン伝えた。
『マリオン。母さんがマリオンの傷を治す。キーヨに保護してもらうからね』
『わかった、父さん』
『モーレ、マリオンを頼む。
その間に、私がモーレを修復する』
『あなたも早く!』
『わかってる。マリオンが先だ』
『カミーオ、シャオリン。
ヤガルを修復して、収容に備えろ。
その間に私が二人を修復する。ある程度修復したら自己修復してくれ』
私は、倒れているカミーオとシャオンリンに思念波で伝え、マリオンの脚から二本の矢を抜き、モーレの背からも矢を抜いた。
『わかりました。
ヨーナも早く修復を・・・』
『子供たちが先だ・・・』
『わかった・・・』
カミーオとシャオリンがヤガルに密着したまま意識内入射した。私はヤガルの脚から矢を抜き、カミーオとシャオリンからも矢を抜いた。
『キーヨ。
偵察艦で子供たちを保護し、パルティア軍を殲滅しろ!』
『今、偵察艦へ急いでる。
最初にヨーナたちを収容する』
『先に、子供たちを保護してくれ。
我々は自己修復して、民を救出する』
キーヨに伝えている間に、マリオンとヤガルの身体と神経ネットワークが修復された。
私はモーレに意識内入射して身体を修復し、モーレが自己修復できるまで回復したのを確認して、自己修復しているカミーオとシャオリンに意識内入射した。
自己修復した我々は、精神共棲したローランの民の死に瀕した精神エネルギーに代って神経ネットワークを維持し、身体細胞に新たな精神エネルギーフィールドと生体エネルギーフィールドを増殖して破損した組織細胞を修復した。
『艦とプロミドンを起動した。子供たちを収容する』
キーヨが思念波で伝えると同時に、我々の目前からマリオンとヤガルが消えた。
『数十人を収容した。全員倒れてる。
子供たちに意識内進入した精神エネルギーマスが多すぎる!
これでは、子供たちの神経ネットワークがもたない!
子供たちの神経ネットワークの精神エネルギーフィールドは、小舟に多勢の人を詰めこんだ状態だ!
収容した民の多くが瀕死状態だ!』
キーヨは収容した子供たちを、偵察艦のプロミドンで思考記憶探査して伝えてきた。
ヘリオス艦隊の全系列的精神エネルギーマスには能力差があった。
艦隊の一般クルーは、精神共棲したネオテニーが傷つき死に瀕しても、ネオテニーの身体を自己修復できず、精神共棲主の精神エネルギーマスを受け継いだ子供たちに意識内入射ではなく、寄生するごとく意識内入射していた。
『早急に何とかする・・・。
火炎でパルティア軍を焼けるか?』
『プロミドンで火事を転送するのか?
なぜ、レーザービームを使わない?』
『レーザーの痕跡が残り、我々の生存をクラリックに知られる。
我々の痕跡を残さずに、パルティア軍を殲滅するんだ』
『了解』
一瞬に、偵察艦がローラン宮の上空に現れた。燃え盛る火炎をパルティア軍に浴びせ、次々に兵を焼き払った。逃げ惑う兵はプロミドンの牽引ビームで捕捉され、火災の中へ投げ入れられた。ローランの至る所で、それまでパルティア軍が殺戮していたローランの民に代って、パルティア軍の悲鳴が響いた。
種の個体発生段階で超高分子が合成される時、その機能を我々が制御し、個体として意識を高め、我々の精神と個体本来の精神が共棲して高い精神エネルギーを得れば、個体の精神エネルギーは数十倍も高まる。その結果、個体意識は精神エネルギーと化し、我々の精神と意識とともに、他のエネルギーを必要とせずに、精神エネルギーとして単独存在し得る精神生命体に成り得る・・・。
これは、時空間ラグランジュポイントを発つ前の認識であり、現状と大きな隔たりがあった。
パルティア軍の襲撃は、我々の思念波による隊商の意識内探査を知ったクラリックが、パルティア軍を動かした結果だった。
このまま、ネオテニーの自然発生的進化を待っても、進化したネオテニーをクラリックに奪われるか、あるいは、抹殺されるのが明らかだった。
私はローランの民を殺戮されて初めて、
『その場合により、管理者は支配的でなければならない。ネオテニーを精神的にも身体的にも進化させ、ネオテニーを絶対的管理者にしなければならない』
と認識した。
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