二十 ローラン㈥ 絶対的管理
『パルティア兵の生体エネルギー反応なし。
ローランの民の反応もなしだ・・・』
キーヨが伝えてきた。
思念波でローランの民を探していた私も、そのことを確認していた。テレス宮殿の前に残っているローランの民は私とモーレ、カミーオとシャオリンを含め、二十名余りだった。
『ヘリオス艦隊パイロットの精神エネルギーマスをここにいるローランの民に残してくれ。〈ガヴィオン〉のパイロットの系列の精神エネルギーマスの一部は、マリオンと子供たちに意識内入射してくれ』
我々ニオブが精神生命体であるため、同一の精神と意識を保持したまま、いくつかの精神エネルギーマスに分離が可能だ。
ニオブのポーン階級にはシチズン位トコモン位がありローランの民の階級だ。これらの上位に、へリオス艦隊のパイロットを務めたアーマー階級がある。〈ガヴィオン〉のパイロットの系列は、アーマー階級ジェネラル位の私、オフィサー位のキーヨとカミーオ、ソルジャー位のナムシとカシムとミーシャだ。
『子供たちの神経ネットワークが耐えられない!
組織細胞が破壊する!
我々はディアナの艦隊にもどるべきだ・・・』
キーヨは、デイアナのヘリオス艦隊内でネオテニーの進化を待つか、あるいは、地上のネオテニーの進化に手を加えて、再度、意識内入射を試みる事を主張した。
だが、重力場も含め、艦隊にはネオテニーが生存する環境がなかった。なければ創ればいいが、重力場の創造は時空間に歪みを生む。子供たちをガイアの他所に転送しても、子供たちだけでは暮らせない。クラリックにも気づかれる可能性があった。
『私に考えがある。
レクスターのエネルギーマスも、マリオンに意識内入射してくれ』
『なるほど。わかった』
キーヨは私の考えを理解した。
私の系列と〈ガヴィオン〉のクルーの系列の精神エネルギーマスと、レクスター系列の精神エネルギーマスは、マリオンの身体組織細胞の神経ネットワークサーキットが構成する、精神エネルギーフィールド内に入った。
マリオンは配偶子の時から、私とモーレによって、私たちの子供の精神生命体を頂点とする、私の系列の精神エネルギーマスを受け継ぎ、ネオテニーの生体エネルギーを保持している。精神エネルギーは限りなくニオブに近い。
『レクスター。マリオンの遺伝子DNAを作り変えてくれ。
子孫がニオブの身体に変異できるようにだ』
『わかったわ。でも、二つ問題があるわ。
一つは、身体の全細胞に、どうやって励起エネルギーを加えるかです。
エクソンを変異させて、ニオブのDNA分子に作り変えた後も、DNA分子を老化させずに維持するためには、励起エネルギーが必要よ。配偶子にも。
二つ目は、DNAを作り変えた結果、身体的精神的に、ネオテニーとニオブの相乗能力を持ち、細胞自体がニオブ以上に自己修復能力を持つでしょう。老化しにくくなるのです』
『私と〈ガヴィオン〉のパイロットの系列の精神エネルギーマスの一部を、DNA分子末端に派遣する。励起エネルギーにしてくれ。我らの記憶も管理させる』
『わかりました』
『生命力はどれくらいだ?』
『現在のネオテニーの十倍以上としかいえないわね・・・。
キーヨ、私を入射して・・・』
レクスターは彼女の系列の精神エネルギーマスを凝縮させ、精神エネルギー密度を急増させた。私とクルーの精神エネルギーマスをマリオンの身体細胞数に分断すると、マリオンの全細胞に転送するよう、キーヨに指示した。
キーヨは分断された精神神エネルギーマスを全細胞へ転送した。
『キーヨ。私がする事をプロミドンで記録し、副艦のパイロットに伝え、艦隊クルーの精神エネルギーマスで、同様の操作を子供たちに施すの。
皆、納得するから心配ない・・・。
細胞内の精神エネルギーマスを細胞分裂前のDNA末端に固定して、復元されるDNAが末端を失わないようし、エクソン変更は塩基配列を変えるだけにするの・・・。
配偶子を生成する組織細胞には、私の精神エネルギーマスの一部を使う・・・』
レクスターは保護されている子供の人数を思念波で確認すると、自己系列の精神エネルギーマスの一部を、子どもの人数、五十二個に分断し、一つをマリオンの卵巣へ送りこんだ。
『子供たちにも、転送してね』
『了解した』
キーヨはレクスターの精神エネルギーマスを子供たちに転送した。
マリオンと子供たちの中で、分子構成原子の励起エネルギーとなった我々の系列的エネルギーマスの一部分は、時空間が「存在」によってコントロールされるように、マリオンと子供たちのDNA分子を構成する原子をコントロールした。
一方、我々ヘリオス艦隊パイロットの精神エネルギーマスは、ローランの民の精神エネルギーマスに取って代り、ネオテニーの身体をコントロールした。
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