九 拷問
翌日、〇八〇〇時。
PVはコンラッドシティ監視監督本部を超音速飛行で発進した。
一〇〇〇時。
レッドバルシティ監視監督本部の大会議室で、トニオ・バルデス監視隊長は本部長就任のあいさつを簡略にすませ、前任の本部長だったロコ・ミロビフ監視隊員に、最近起きた事件の概要を訊いた。
ミロビフ監視隊員が答える。
「事件は四日前の深夜から翌日未明に起りました。
現場はニューコンラッド総合大学の教職員居住区です。
居住区の警備員の通報で・・・・」
警備員から通報をうけてPVが駆けつけると教職員居住区の家が燃えていた。
住人はアッキ・ダビド教授と妻のカンナだ。何があったが不明だが火の手が激しく、夫妻は完全に焼却されて本人確認できない状態だったという。
通報した警備員によれば、異様な姿の四人が教職員居住区に侵入し、アッキ・ダビド教授の自宅を襲撃したとの事だった。警備員は遠くから四人を目撃したため、どのような者かわからぬが、四人は武装していたらしい。
ミロビフ監視隊員の話を聞き、バルデス監視隊長は教職員居住区の警備員にくわしい話を聞こうと思った。ニューコンラッドシティの事件はレッドバルシティ監視監督本部の管轄外だが、ひとまずそれはあとにしよう・・・。
「事件に関するファイルはどこにある?」
「はい、ここに・・・」
ミロビフ監視隊員は耳の後ろに貼ってあるパッチ通信機の電脳空間にファイルされた事件データを会議室の空間に投映した。
「ファイルは中央総監視監督本部のメイン電脳空間に保管されていないのか?」
監視監督省の中央総監視監督本部はダガマ大陸中央のダガマ州ダガマにあり、コンラッド州のコンラッドシティがあるコンブロ大陸とは惑星イオスの裏側にあたる。ダガマは惑星イオス・イオス共和国の首都である。
「はい。中央総監視監督本部に送るために、特殊通信機器メーカー・Aliceを経由して送信してます。中央総監視監督本部にファイルされているはずです」
「わかった。今すぐ私の通信機にデータを送ってくれ」
「わかりました・・・」
すぐさま、事件に関するあらゆるデータがバルデス監視隊長の通信機の電脳空間に流れこんだ。ミロビフ監視隊員がデータを会議室に投映するより、こうしたデータの共有がはるかに有益なのに、ミロビフ監視隊員がレッドバルシティ監視監督本部内でそのような操作していなかった事実まで判明した。
本部長を務めていた当時、ミロビフ監視隊員は何を根拠にこのような態勢を整えていたのか、その根拠も探らねばならない・・・。
バルデス監視隊長はそう思いながら本部長アクセス権を行使し、事件に関するデータのみならず、ミロビフ監視隊員が本部長だった当時に入手して独占的に所有しているあらゆる情報をミロビフ監視隊員のパッチ通信機の電脳空間から引きだして、バルデス監視隊長の部下たちに転送した。
情報は全員で共有するのが事件解決の近道だ。上司だけが特別な情報を独占しても事件は解決しない・・・。
「事件に関するデータは監視監督省中央総監視監督本部の電脳空間にファイルする規則だ。
データ流出は機密漏洩だ。なぜ、特殊通信機器メーカー・Aliceにデータを流し、データファイル方法に介入させるのかね?」
「事件とは無関係です」
ミロビフ監視隊員の表情が強ばった。
「その無関係なことをつづけてきた理由は何かね?」
バルデス監視隊長は穏やかだ。
「Aliceを通すことでデータが仕分け分類され、事務手続きが省けます」
ミロビフ監視隊員は適当な言い訳を並べている。
「それは中央総監視監督本部の電脳空間の仕事だ。
機密漏洩は反逆罪だ。Aliceを通してデータ送信せねばならない理由は何だ?」
「Aliceがパッチ通信機の機能を管理していますので・・・」
そこまで話し、ミロビフ監視隊員は言い淀んでいる。
「アンソニー・ディアス監視官。
このミロビフ監視隊員と元部下たちを尋問しろ。手段は選ばん。好きにしていい」
バルデス監視隊長はおちついている。
バルデス監視隊長の言葉で、ミロビフ監視隊員と彼の元部下だった監視隊員たちが青ざめて震えあがった。今まで監視官たちが犯罪者におこなってきた尋問を、こんどは自分たちが受けるのだ。命の保障は無い。
「わかった!わかったから拷問はやめてくれ!」
ミロビフ監視隊員と元部下たちがわめきだした。
「尋問するだけだ。もしかして、君たちは無実の者たちを拷問して自白に持ちこみ、犯罪者にしたてたのかね?白状せねば君の望む拷問にかけよう。早く答えろ」
「・・・」
ミロビフ監視隊員は何も言わない。
「ミロビフ監視隊員。テーブルに手を置け。
ディアス監視官。部下にミロビフ監視隊員の腕を押さえさせろ」
「ミロビフ監視隊員の腕を押さえろ」
ディアス監視官の指示で、部下の監視隊員がミロビフ監視隊員の腕を押さえ、手をテーブルに置かせた。
「ディアス監視官。君は自分の指で、どれが一番好きかね?」
「右手の薬指です」
「ミロビフ監視隊員の右手薬指の骨を、先端から一つずつ平らにしてあげなさい」
「やめてくれ!」
「では、容疑者を拷問して自白に持ちこみ、犯罪者にしたててきたのかね?」
「そうだ・・・」
「その割合はどれほどだ?」
「全員だ・・・」
「ここのデータを特殊通信機器メーカー・Aliceを通してファイルする理由は何かね?」
「・・・」
「ディアス監視官。つぶせ!」
バルデス監視隊長の指示で、ディアス二級監視官がバトルアーマーの装備からコンバットナイフを抜いた。ナイフの峯でミロビフ監視隊員の右手の薬指末節骨を叩きつぶした。
「ギャアッ!」
「理由は何かね?」とバルデス監視隊長。
「・・・」
「左手の薬指をつぶせ・・・」
ディアス監視官が左手薬指の末節骨をたたきつぶした。
「ギャアッ!」
「理由は何かね?」
「・・・」
「右薬指の中節骨と基節骨をつぶせ」
「わかったっ!話すからやめてくれ!」
「話せ・・・」
「Aliceから、事件に関する情報をAlice経由で監視監督省の中央総監視監督本部へ送るよう要請があって、そのようにした・・・」
「理由は何だ?そうする理由は何だ?」
「・・・」
ミロビフ監視隊員は黙秘している。
「メサイア・ゴメス監視隊員。ミロビフ監視隊員を好きなように尋問しろ。情報をAliceに流した理由を吐かせろ。手段は選ばん」
バルデス監視隊長はおちついている。
メサイア・ゴメス監視隊員が目を輝かせた。唇が濡れはじめている。
「どうなっても、責任を取らなくていいのですか?」
「反逆者にはそれなりの未来が待っている。好きにしてかまわん。
メサイアはいたぶるのが好みだろう?」
バルデス監視隊長はメサイアにほほえんだ。
「はい。どうしてそれを?」
「これまでの君の言動を見ていれば、わかる。はじめてくれ」
「はい」
メサイアが目を輝かせてテーブルに近づいた。ミロビフ監視隊員のバトルアーマーとバトルスーツを脱がせ、戦闘用の手袋の手で、自身のバトルアーマーからコンバットナイフを抜き、鋒でロコ・ミロビフ監視隊員の右上腕外側を肩から肘までスッと浅く切った。
「ウワッー・・・」
「Aliceに情報を流した理由を吐きな・・・」
「・・・」
ミロビフ監視隊員は口を閉ざしたままだ。
メサイアはミロビフ監視隊員の右上腕にある切り傷の隣りに、もう一本、肩から肘までスッと浅く切った。
「ウウッー・・・」
「近くを同じように切った。最初ほど痛みを感じない。お楽しみはこれからよ」
メサイアは右上腕の傷と傷をつなぐように、肩の近くの皮膚を橫に浅く切って、皮膚を剥がした。
「ウワッ!・・・」
「さあ、これで剥がせる・・・」
この女は生皮を剥ぐつもりだ。このまま黙っていれば、皮剥事件のように、身体の皮を全部剥がれる・・・。ミロビフ監視隊員は恐怖に震えあがった。
「まってくれ・・・」
「待つ気はないね。今まで、おまえらは容疑者の要求を聞いてやったか?」
「やめろ!やめてくれ!」
悲鳴をあげてもがくミロビフ監視隊員の身体と腕を、バルデス監視隊長の部下たちが押さえつけた。
メサイアが戦闘用の手袋のまま、ミロビフ監視隊員の剥がした皮膚を引っ張った。短冊状に切り裂かれた皮膚が、肩の下から剥れてビローンと伸びる。
「ギャアッー」
凄まじい悲鳴がミロビフ監視隊員から響いた。メサイアの目が異様な輝きを増し頬に笑みが浮んだ。唇の端から唾液が垂れている。
剥がれた皮膚をメサイアが引っ張る。ミロビフ監視隊員が悲鳴をあげ、右上腕の皮膚が肩からズッズッズッと鈍い音をたてて肉から離れていく。
「ギャアッッ・・・。話すからやめてくれ!」
「そういうヒマがあったら、吐け・・・」
メサイアは皮膚を剥がす手を止めない。メサイアの間脳は大量にドーパミンとβエンドルフィン、オキシトシンを放出し、恍惚状態だ。
ミロビフ監視隊員が話しはじめた。
「アッキ・ダビド夫妻を襲撃したのは、異星体・アイネクが作った三本指のバイオロイドの処理官だ。
アッキ・ダビドもアイネクが作ったバイオロイドでヒューマを監視する管理官だったがヒューマの側に寝返ったから処理官が抹殺した。
アイネクは処理官を使ってヒューマの皮を剥いで中身を食糧にしてる。
ヒューマの体内麻薬を利用するため、体内麻薬を大量に放出する間脳も集めてる。
Aliceは異星体・アイネクがヒューマを監視している本部施設だ。下部施設は支社や通信機関だ。アッ、アアッ、アアアッ・・・・」
ミロビフ監視隊員が異様な声を発し、耳の後ろが赤く膨れたその瞬間、耳の後ろが血しぶきを放って破裂した。ミロビフ監視隊員は目を見開いたままのけぞって天井をむき、身体は椅子の背もたれに持たれている。
「通信機をはずせ!急げ!」
バルデス監視隊長が緊急指示した。あわてて監視隊員たちがパッチ通信機を首から剥がして投げ捨てた。同時に、パッチ通信機が破裂して燃えあがった。
突然、メサイアが倒れた。
「メサイア!どうした!」
ディアス監視官がメサイアを抱き起こした。ヘルメットを被っていない後頭部が異様にへこみ、血が髪をつたって首からバトルアーマーとその下のバトルスーツに流れている。
ディアス監視官はメサイアの髪を分けて後頭部を見た。
「何だ、これは!」
そこには空洞があった。脳内組織が見えている・・・。
「臨戦態勢をとれ!Aliceが我々を盗聴していた!アイネクが攻撃してくるぞ!
スカウターを装着しろ!」
バルデス監視隊長の指示で、監視隊員たちはバトルアーマーを操作して自身を位相反転シールドし、バトルアーマーの装備からスカウターを装着して多機能ヘルメットを被った。
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