八 ゴメス長官の指令
午後。
バスコたちとマリーの祖母のアマンダたちが暖炉のホワイトホールで帰宅すると、入れ違いに監視隊のPV三機がネイティブ居留区に降下した。監視隊はバスコの妻マリー・コンラッドを調査したが、これといった情報を得ぬままコンラッドシティ監視監督本部に帰投した。
夕刻。
トニオ・バルデス監視隊長は、コンラッドシティ監視監督本部の本部長執務室のデスクにむかい、ニューコンラッドシティのコンラッド州監視監督総本部に連絡した。
ソファーに座るフランツ・ゴメス長官の3D映像が執務室に現れると、バルデス監視隊長が報告する。
「長官。ネイティブ居留区のコンラッド一族全員の調査をしました。
バスコの妻のマリー・コンラッドはバスコの遠縁のコンラッド一族です」
「そうか、不審点は無しか・・・」
長官は浮かぬ顔だ。マリーがネイティブ居留区の住人ではないと思っていたらしい。
「レッドバルシティ監視監督本部の逮捕要請対象は死体のあの四人でしたか?」
「そうらしい。三人が一人を追って全員が死亡し、死体が消され、逮捕対象が消えた」
そう言いながら、フランツ・ゴメス長官は納得ゆかない顔をしている。
「長官。何か気になりますか?」
「エネルギーがスキップされて岩壁ごと四人の死体が消滅した。
これまでの事件の被害者が、全身の皮膚を残して身体をスキップされたならどうなる?」
「中身だけスキップ(時空間転移)されたと?」
「エネルギーをスキップさせるのが可能なら、今回の事件も可能だろう。いまだ手がかりがないのだから、そう考えるしかない」
「そうなら事件は解決しないですね・・・。
レッドバルシティ監視監督本部が逮捕要請した理由はなんですか?」
「監視監督省の中央総監視監督本部からの要請としか言わなかった・・・」
「中央総監視監督本部からの要請が、コンラッド州監視監督総本部を飛ばしてレッドバルシティ監視監督本部へでるのは不自然です」
ニューコンラッドシティのコンラッド州監視監督総本部の下部組織がコンラッドシティ監視監督本部とレッドバルシティ監視監督本部だ。
「どうも、監視監督省内部に危険分子がいるらしい。事態は危険な方向へ進んでいる。そこで内々に緊急辞令を発することになった。
明日から監視隊長直属の部下を連れてレッドバルシティ監視監督本部に移動してくれ。
君の立場はこちらと同じ本部長職の監視隊長だ。レッドバルの本部長は君の管理下の監視隊員に格下げする。部下たちもだ。
むこうで起きてる皮剥事件を追ってくれ。レッドバルシティ監視監督本部には手がかりは無い。当然だがね。
真の目的は、君が疑問に思っていることを解明することだ。部下の監視隊員にその事を話してもかまわんが、正規命令として記録はされないから、そのつもりで対処してくれ。
くそ蒸し暑い地域だ。体調に気をつけてくれ」
フランツ・ゴメス長官はバルデス監視隊長に目配せした。レッドバルシティ監視監督本部に誰が何の目的で逮捕要請を出したか探れと言うのだ。
「部下にはメサイアもいれた。娘をきびしく教育してくれ」
そう言って3D映像が消えた。
コンラッドシティは、惑星イオスのコンブロ大陸コンラッド州にあるドラゴ渓谷沿いの市だ。ドラゴ河はコンブロ大陸北側の乾燥帯と温帯の地域を東から西へ流れ、周辺はプレイリーだ。乾燥している。この下流にニューコンラッドシティがある。
一方、レッドバルシティはコンブロ大陸の南にあり、亜熱帯に近い気候だ。
ただちにバルデス監視隊長は、コンラッドシティ監視監督本部の特別通信回線を通じてバルデス監視隊長直属の人員を地階の会議室に招集した。
「緊急だが、監視隊にレッドバルシティ監視監督本部へ移動命令がでた。
移動は明日だ。〇八〇〇時、PVに搭乗しろ。
任務は生皮剥ぎ事件の解明だ。真の目的は・・・」
バルデス監視隊長はフランツ・ゴメス長官の指示を明確に伝えた。
「なお、前任のレッドバルシティ監視監督本部本部長は無階級の監視隊員に格下げになった。監視隊員も同様の処分だ。真の目的を口外することなく職務に就いてくれ。
メサイア!聞いているか!」
「はい!聞いています!」
トニオ・バルデス一級監視官の本部長、兼、監視隊長直属の監視隊は、
監視隊員十一名(アンソニー・ディアス二級監視官が率いる十名、メサイア・ゴメス監視隊員を含む)。
検視隊員六名(サンチェス・パンソニア二級検視官の検視隊長が率いるアルメンデス・ヘクター三級検視官の他四名)
情報隊員三名(フリオ・ラミロス三級情報官が率いる二名)である。
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