十 飛行艇乗っ取り
一一〇〇時
岩窟住居のリビングで、バスコとマリーは、クピがハッキングしたレッドバルシティ監視監督本部大会議室の拷問3D映像をスカウターで見ていた。ふたりは頭部にスカウターを装着して気密防護バトルスーツとバトルアーマーを身に着けている。
ミロビフ監視隊員の通信機のパッチを破裂した瞬間、クピの4D探査の触手が、レッドバルシティ監視監督本部の上空に現れているステルス状態の飛行艇を捕捉ハッキングして、コントロール機能を乗っ取ったが、その状況はまだコクピットにいる三本指の男たち・処理官に気づかれていなかった。
「クソッ!ヤツラ、本部の真上にいたのか!」
メサイアが襲われる前に飛行艇を乗っ取りたかったがまにあわなかった。気に食わない奴だったが、メサイアは俺に一目を置いていた・・・。
バスコは監督官だったメサイアがマリーに「こいつはいい男だ。大事にしてもらえ」と言ったのを憶えている。
「飛行艇は、まだ、ステルス状態で本部上空から獲物を探してるよ。
レッドバルシティ監視監督本部で監視隊員たちの通信機を破壊したのはAliceだよ。
メサイアの間脳を抜きとったのはこの飛行艇の処理官だよ」
「俺が飛行艇に潜入できるように、パイロットを洗脳してくれ」
「あたしもゆくわ」とマリー。
「危険だぞ」
「覚悟してるわ」
「ちょっと待ってね・・・。処理官の意識記憶管理したよ。どうするの?」
「処理官の遺伝子はみな同じか?」
処理官は異星体・アイネクが作ったヒューマ型バイオロイドだ。
「そうでもないよ。いろいろの処理官がいるよ」
「俺たちを飛行艇のコクピットにスキップできるか?」
「処理官と管理官がヒューマ社会にスキップして潜入してるから、バスコもスキップできるよ」
「処理官を処理して、俺とマリーをコクピットにスキップしてくれ」
「冷凍庫があるから、そこへ処理官をスキップしたよ・・・・。
さあ、バスコとマリーをスキップするよ・・・」
一瞬にバスコとマリーとバトルアーマーの電脳意識・クピは飛行艇のコクピットのシートにいた。コクピットに処理官用のシートが四つある。いずれも、ヒューマが使えるシートだ。
「アイネクに気づかれないよう、飛行艇をアイネクの宇宙船の死角にスキップしてくれ」
「了解」
アイネクの小惑星型宇宙船はいつも太陽を背にして惑星イオスの衛星軌道上にいる。大きさは十キロレルグ。外壁に小天体を貼りつけて小惑星に偽装してる。
クピが乗っ取った飛行艇は、太陽側の小惑星型宇宙船に貼りついている小天体の陰にスキップして身を潜め、クピが張った多重位相反転シールドで小天体に偽装した。
バスコは気づいた。
「俺たちは通信機・ネックをテレス連邦共和国のマリー・ゴールドに渡すか、あるいは、バックアップファイルを開いてマリーが追われる理由を知ろうとしてたが、真の目的はアイネクを倒すことだ・・・」
バックアップファイルにこだわることはない。この飛行艇から小惑星型宇宙船の弱点が見つかれば、俺たちがアイネクを倒せる!バックアップファイルをマリー・ゴールドに渡す手間が省ける・・・。
飛行艇は全長五十レルグほど。平たい楕円体状で光学ステルスの宇宙艇だ。低温核融合ドライブと、自他共にスキップ(時空間転移)するスキップドライブを搭載し、シールドは位相反転シールド。兵器は対艦粒子ビーム砲四門と対艦レーザー砲を四門装備している。
「クピ。この飛行艇にいろいろな記録があるだろう?アイネクの宇宙船を破壊する方法を探ってくれ」
「わかった。記録を全部見るね。驚かないでね・・・」
クピは飛行艇のコンソールを操作した。
バスコとマリーのスカウターに飛行艇の内部3D映像が現れた。
「この飛行艇は調査と食糧捕獲と肉の処理をしてるよ」
「あの皮剥事件のこと?」
「うん。そうだよ」
スカウターの3D映像はこの飛行艇の低温保管庫だ。赤身がかった肉塊が大量に詰まっている。
「こんなとこはアップしなくていい!」
「だけどバスコ!これ見てよ!自動で処理されてる・・・」
マりーが言うスカウターの3D映像は低温保管庫に隣接した処理室だ。皮を剥がれてチェーンコンベア吊されたヒューマが移動し、肉塊は部位ごとに選別されて、それぞれ専用のパッケージに詰められている。
「気持ちが悪くなってきた・・・」
マリーはそう言いながらスカウターの3D映像を見つめた。飛行艇は小型に見えたが、思った以上に巨大だ。
「バロムやレビンの食肉工場とおなじだね・・・」
クピがそう言うのを聞きながら、マリーは食い入るようにスカウター3D映像を見ている。バスコはパッケージの中に蛍光を放っているのがあるのに気づいた。
「なんだあれは?」
「ちょっと待ってね・・・」
クピはバスコが示すパッケージにフォーカスを定め、過去の映像を再現した。現れたのはヒューマ頭部の内部だった。
「小脳と間脳が入ってるよ」
「ヒューマの脳を特別パッケージするなんて信じられないぞ」
バスコは吐きそうになった。
「ヒューマがバロムやレビを食べるのと同じだよ」
「食うのと食われるのはちがう。ヒューマは食われる立場になったことがない」
「レビンもバロムも、食べられるとは思ってないよ。ヒューマが思ってるだけだよ」
「レビンやバロムは家畜だ。食われるために飼育されてる」
「アイネクもそう思って人を管理してる・・・」
「食肉工場で、バロムやレビンの脳はどう処理されるの?」とマリー。
「食用としてパッケージされて販売されてるよ」
「異星体がヒューマを食糧用に飼育してるって言うの?」
「飼育してるかどうかはわかんないけど、監視して食糧にしているのは確かだよ。 若くてポッチャリした女のヒューマが対象だよ」
クピはそう言ってマリーを見つめ、飛行艇が記録しているアイネクの捕食3D映像をスカウターに再現した。
「・・・」
スカウターに3D映像が現れた瞬間、バスコとマリーが驚いて言葉を無くした。
小惑星型宇宙船の食堂らしき空間に、二足歩行する二つの複眼の甲虫が四本の足を使って巨大な容器を持ってきて広いテーブルに置いた。
テーブルの周囲に、五匹の甲虫が棺桶を斜めに立てたような背もたれの脚の短い椅子に座っている。甲虫は四本の足で、目の前の巨大な容器から骨付き肉を取って大顎で食らいつき、バリバリ骨を噛み砕いている。
「肉や骨だけじゃないよ。間脳と小脳もだよ・・・」
一匹の甲虫が、テーブルに並んでいる容器の一つを二本の足で押さえ、二本の足で容器の中から間脳を取りだした。小顎に運んで食っている。
「コイツラがミロビフ監視隊員が言ってたアイネクだよ。二レルグくらいだよ」
「・・・」
バスコとマリーは無言でスカウターの3D映像を見ている。アイネクはまさに死肉に群がる巨大ゴキブリだ・・・。
「捕獲の記録映像があるよ」
クピが飛行艇の記録3D映像をスカウターに再現した。
ドラゴ渓谷ホワイトバレーのサンライズトンネルを抜けたサフガルド橋の袂に、ヒューマの形のままの衣類がある。靴もある。頭部には長い髪がついた肉片付きの頭皮がある。照明に照らされたタイトなスーツの中に下着があった。下着の中に、陰毛がついた皮膚があった。
事件現場で立ちあがった女の検視官を、飛行艇の放った捕獲シールドが包んだ。
一瞬に、シールドが収縮して検視官の皮膚の下に浸透した瞬間、間脳と小脳が抜きとられて検視官の身体が抜きとられた。身体は間脳と小脳とともに飛行艇の処理室にスキップして、身体はチェーンコンベアに吊され、間脳と小脳はパッケージに納められている。
現場では、検視官の全身皮膚が衣類を着たまま、頭のてっぺんから何かに押しつぶされたようにその場に潰れた。検視隊長は震える手で大型のピンセットをつかみ、潰れた女の検視官の着衣を確認した。
「立ったまま、身体だけ消えた・・・」
監視隊長と検視隊長は、女の検視官の制服とその下に着ていた衣類の中から、髪や陰毛、体毛がついたままの全身の皮膚をピンセットで引きだした。
女の検視官は二十七歳。中肉中背。小太りだ。これまでの遺体のない状態で遺留品が発見された四件の皮剥事件の被害者と同様の年齢と体型だ。
スカウターの3D映像が停止した。
「この事件で、このあと被害者がどうなったかわかったよね。アイネクは仲間が増えるから宇宙船を増築してる。そのため、盗賊をしてるよ・・・」
スカウターの3D映像が変った。他銀河の惑星が現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます