ⅩⅠ Parallel Universe③ テレス連邦共和国のコンバット・マリー
一章 現場復帰
一 現場復帰
グリーゼ歴、二八一六年、九月十五日、二三五七時。
オリオン渦状腕外縁部、テレス星団フローラ星系、惑星ユング。
ユング共和国、ダナル大陸、ダナル州、メガロポリス・アシュロン。
「やめろ!」
大通りに近い路地の先で、男がチンピラを殴っている。男に向ってマリーは路地を走った。
マリーはバトルスーツとバトルアーマーで重武装している。金髪碧眼のコンバット(テレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員)だ。マリーの姿を見ると、男はチンピラを路上に突き飛ばして腰の銃を抜き、立て続けにマリーを撃った。サイレンサーだ!
一瞬にマリーはその場を転がり、飛びかう銃弾を避けて粒子ビーム銃を抜いて、男を撃った。男は粒子ビームパルスを腹に食らってその場から吹き飛んだ。
マリーのバトルアーマーは防御エネルギーフィールドを張っている。銃弾もビームも弾き返すが、とっさに身をかわして転がる、これまでの習慣は抜けない。
「だいじょうぶか?ハリー」
路地の先へ駆けより、マリーは情報屋のハリー・スピッツの腕をとって立たせた。
「ああ。でも・・・」
殴られていたチンピラが倒れた男を見た。
「正当防衛だ。気にするな」
倒れた男はマリーのビームを受けて腹に大穴が開いている。状況は全てマリーのバトルアーマーが3D映像記録している。男が使ったのは弾丸を発射する旧式のベレッタNEOSサイレンサーだ。こんな物を持っているヤツは聞いた事がない。
マリーはコンバットグラブの手で、路上に転がっているベレッタNEOSを拾い、シールしてバトルアーマーの保管バッグに入れた。ハリーを銃撃した証拠品だ。
「ちょっとこっちに来な・・・」
周囲を確認して、マリーはハリーをビルの谷間の路地へ連れていった。
午前〇時を過ぎている。メガロポリス・アシュロンのビルの谷間に誰もいない。
「なんで殴られた?」
マリーは小声で訊いた。
「情報を流したのがバレた。シラを切ったら、ヤクをさばいて証明しろとボリスがほざいた。それで殴ったら、殴り返された」
ハリーは路地に転がるポリスに目をやり、舌打ちしている。
「それだけで、アイツが私に銃を向けるか?」
マリーは顎でボリスを示した。
「コンバット(テレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員)の総司令官なら、話は別さ」
ハリーはマリーを見あげた。
グリーゼ歴二八一五年十二月八日。
テレス帝国軍警察重武装戦闘員・コンバットのマリー・ゴールドらの活躍で、オリオン渦状腕外縁部テレス星団のディノス(ディノサウルスが収斂進化したヒューマノイド・ディノサウロイド)のテレス帝国が壊滅した。
その後、ヒューマ(人類の子孫・ヒューマン)によって、テレス星団に、
テレス星系惑星テスロンのテスロン共和国、
フローラ星系惑星ユングのユング共和国、
フローラ星系惑星ヨルハンのヨルハン共和国、
カプラム星系惑星カプラムのカプラム共和国、
から成るテレス連邦共和国が建設された。
テレス連邦共和国はオリオン国家連邦共和国の総統Jのもとに、オリオン渦状腕のオリオン国家連邦共和国に帰属した。
治安維持のため各共和国に、テレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員・コンバットが駐留している。
ここ、フローラ星系、惑星ユングのユング共和国に駐留するテレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員・コンバットの総司令部は、ダナル大陸ダナル州のフォースバレーキャンプにあり、総司令官は、フォースバレーキャンプの司令官であるマリー・ゴールド大佐だ。
マリー・ゴールド大佐はテレス連邦共和国軍警の総司令官でもある。テレス連邦共和国軍はテレス帝国軍警察の下部組織だ
「ヤクはクラッシュか?」
マリーはハリーの目を見ながら訊いた。
ハリーはマリーから、倒れているボリスへ視線を移した。
「そうらしいが、ボリスはクラッシュを持っていなかった。
誰かがここに届けるような素振りだった・・・」
ハリーは、ボリスの他にもここに誰かが来るのではないか、気になった。
「他に誰が、お前と私が親しいのを知ってる?」
暗かったがマリーはハリーの目の動きがわかった。
ハリーは周囲を警戒している。この辺りに監視カメラはない。ボリスはその事を知ってここにハリーを連れこんだのだろう。
ハリーが緊張した眼差しでマリーを見た。
「オレとマリーは幼なじみだ。仲間のみんなが知ってる」
ハリーの切羽詰まった様子に、マリーはハリーを逃がすの先だと思った。
「そうだな。このクレジットで、すぐさまアシュロンから離れろ。
ヤツラには近づくな。お袋さんには、私が仕事を依頼したと話しておく」
マリーはバトルアーマー胸ポケットから、クレジット五十枚が入った透明な平たいケースを取りだしてハリーに渡した。新米コンバットが手にする給料二ヶ月分だ。
「お袋さんにも同額を渡しておく」
「わかった。助かるよ。またな・・・」
ハリーはズボンのポケットにクレジットのケースを入れて、礼を言った。
「身を隠したら、コンバット回線にシグナルを入れろ」
「了解」
ハリーはマリーに背を向けた。大通りへ歩きながら、マリーに背を向けたまま手をふった。その時、大通りに低車高の装甲車両・PV(パトロールヴィークル)が現れて急停止した。鈍いサイレンサーの銃撃音がして、ハリーが身をくの字に折ったまま、斜め後方へ吹き飛んだ。PVはすぐさま走り去った。
「くそっ!」
マリーは路地から大通りへ走った。
倒れたハリーの腹部に穴が開いている。
「車両はフォースバレーキャンプのPVだ。すぐ調べる・・・」
バトルアーマーのAIクラリスがマリーにそう告げた。
「カール!ハリーがPVの男に撃たれた!即死だ!
ハリーを殴ったボリスが私を撃とうとしたから、私が撃った。
3D映像を送る。確認してくれ!」
マリーはバトルアーマーの3D映像コンバット回線で、カール・ヘクター中佐に経緯を伝えて、ポリスとの銃撃戦と、ハリーを銃撃したPVの、3D映像を送った。
「近くの処理班をこっちにまわす」
クラリスがそう話している間に、マリーの横にバトルスーツとバトルアーマーで重武装した短い金髪で碧眼のヒューマのコンバット・カールが3D映像で現れた。倒れているハリーを見ている。
「ホローポイント弾だ。銃声は?」
「サイレンサーだ。光や音でビームや銃撃が発覚するのを避けたんだ。私がここでハリーに会うのを、コンバット内で知っていたヤツの仕業だ」
マリーはハリーのズボンのポケットからクレジットを取りだした。
ハリーのために用意したのに無駄になった。母親に渡すしかない・・・。
「あの車両はPVに似せたヴィークルじゃないのか?」
カールが3D映像を確認している。
「クラリスがPVだと判断した。クラリス。説明してくれ」
マリーは装着しているバトルアーマーのAIクラリスを呼んだ。
マリーの横に、バトルスーツとバトルバトルアーマーを装着した、ポニーテールの黒髪の若い女が現れた。防御エネルギーフィールドで構成されたAIクラリスだ。このアバターはビームパルス攻撃にも銃弾攻撃にも、消失することはない。
「カール。キャンプのPVです。搭乗者は不明。退役官がPVの記録システムを解除して不正に車両を使ってる。
ハリーが、クラッシュを届けるらしいと話したその人物が、PVに搭乗していた可能性がある。調査を続行してる・・・」
そう伝えるとクラリスの姿が消えた。
「俺は銃撃したヤツを探す」とカール。
「私はキャンプへ戻る」
「了解!」
カールの映像が消えた。
「戻るぞ。クラリス。PVをまわせ」
「了解」
バトルアーマーからクラリスの声がして、ビルの路地から蜃気楼のような低車両の装甲車両が現れた。ステルス解除したPVだ。
マリーはPV搭乗した。
大通りから路地に入ってくる死体処理班の低車高の装甲車両と入れ代りに、マリーのPVは路地からアシュロンの大通りへ走った。
市街地を抜けて、ハイウエイを、アシュロンから西へ二十キロメートルほど離れたフォースバレーキャンプへ向った。
「くそっ、ハリーが・・・」
ハリーが、やばくなった、と連絡してきて駆けつけたがこのざまだ。
また、クラッシュが出まわってる。誰が何処で作ってるか、何もわからなくなった。もっとうまく立ち回れる麻薬専門の捜査官はいないか?
カール(カール・ヘクター中佐)はダメだ。ヘクトスターもオオスミもラビシャンもコンバット(テレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員)だ。戦闘員として優れてるが、麻薬捜査にたけていない。やはり、カールに勉強してもらうしかない・・・。
「クラリス。もう一度、カールを呼んでくれ」
マリーはPVのコンソールに向ってクラリスを呼んだ。
「了解」
コンソールからクラリスの声が聞えて、助手席にカールの3D映像が座った。
「今度はなんだ?」
「私といっしょに現場復帰して麻薬捜査してくれ。殺人捜査もだ」
「俺はかまわない。マリーと俺が現場へ出たら、指揮系統はどうする?」
「アントンに相談しよう」
アントニオ・バルデス・ドレッド・ミラーは、テレス連邦共和国議会対策評議会の評議委員長だ。テレス連邦共和国政府のトップだ。
「かんたんに、テレス連邦共和国政府のトップが、マリーに代る新しいユング共和国のコンバット総司令官を推薦するとは思えないぞ」
「アントンから、上部に圧力をかけてもらうさ・・・」
マリーは、テレス連邦共和国軍警察総司令官であり、ユング共和国に駐留しているテレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員・コンバットの総司令官で、フォースバレーキャンプの司令官である。
キャンプ指揮官はカール・ヘクター中佐だ。
本来なら、佐官は指揮管理業務が主体だが、二人とも現場を好み、部下に指揮管理をまかせて現場からコンバットを指揮している。
「その件は了解した。
クラリスが容疑者を割りだした。ついでだから、彼女に代って俺が説明しておく。
容疑者はマコーレ・ジョナサンとミルコ・ロドノエフだ。
ふたりとも退役官だ。偽造IDでキャンプへ侵入して車両を使った」
「フォースバレーキャンプに、そんなに退役官はいないぞ」
「ダナルキャンプの退役官だ。元アーマーだったヤツラだ」
アーマーは、テレス連邦共和国軍装甲武装兵士だ。
アシュロンから北へ二百キロメートル離れたダナル州ダナルにはテレス連邦共和国軍のユング共和国本部とテレス連邦共和国軍ダナル基地があり、テレス連邦共和国軍警察(テレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員・コンバット)ダナルキャンプがある。
「ダナルキャンプの退役官が、なぜ、フォースバレーキャンプの車両を使うんだ?
ヤクの取引きか?」とマリー。
「そうらしい。今、クラリスがアシュロンの監視映像を集めて、容疑者の行動を追っている。マリーが戻るまでに結果がわかるはずだ」とカール。
「了解。急いでキャンプへ戻る。クラリス、急いでくれ」
マリーがそう言うとコンソールからクラリスが応答する。
「了解。監視映像の集計結果はここでも見れます」
「ソファーに座って映像を見たいんさ」
「エルドラを飲みながらですか?」
「まあな。いっしょに飲むか?」
「私の味覚センサーを起動します」
「了解!」
PVの速度が上がった。ハイウエイを高速走行するステルス解除された低車高の六輪車両が、ウィングを拡げてハイウエイからテイクオフした。
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