三十三 誕生
二〇二六年、八月二十四日、月曜、二十二時。
S市K町政府専用病院の、省吾の家を模した病室で理恵が出産した。
『よかった!卵を産むように安産だ・・・・』
『先生!私は鶏じゃないよ・・・・』
省吾に伝えながら理恵は笑顔だ。子供たちを見ている。
『すまない。安産で安心したんだ・・・』
省吾は理恵の手を握りしめて二人を見た。
『わかってる。私も、安心してる・・・』
『二人とも、元気だね・・・』
理恵も省吾の手を握りしめて気持ちが同じことを示している。
耀子と宏治、目鼻立ちがはっきりしてる。一歳児みたいだ。笑ってる。
『我々の思ってることがわかるみたいだ・・・』
『精神空間思考できるよ。しばらくしたら伝えるって』
『すごいな・・・。何を話したらいいかな?』
『何でも教えたらいいよ。赤ちゃん言葉は必要ないよ。思考そのままで会話してるんだから』
『そうだね・・・』
その時、省吾は違和感を感じて、キッチンの窓を見た。
プロミドンにより、省吾の自宅の周囲映像が、この省吾の自宅を模した病室の窓ディスプレイに映しだされている。今は夜なので何も見えない。我家の窓の操作パネルも青シグナルで、何も見えていない・・・。
翌日、八月二十五日、火曜、十時前。
快晴だ。窓ディスプレイに、省吾の自宅周囲が映っている。
突然、太陽が陰った。
雲で陽光がさえぎられたにしては暗い・・・。
周囲映像に見える空の片隅に、一瞬、金属光沢の何かが見えて消えた。
キッチンの軒先に、何があっただろう?
省吾は、軒先に何があったか、思いだそうとした。
『何もありません・・・』
性別のわからない精神空間思考が伝わってきた。
『誰だ?』
省吾は性別のわからない精神空間思考に尋ねた。
『プロミドンのメインユニットです』
『もしかして、モーザに代って、俺の精神空間思考でコントロールできるようにプログラミングしたからか?』
『そうです。他に質問はありますか?』
『家に異変があったの?』と理恵。
『ありません。上空に攻撃艦が現れただけです』
『クラリックか?』と省吾。
『クラリックのアーク・ルキエフです。
モーザの奪取、または、破壊を目的にしています』
『家に被害はないの?』と理恵
『ありません。防御エネルギーフィールドが守っています。
宇宙防衛隊コマンドが動きました。
入間基地から、ロータージェットステルス高速戦闘ヴィークル編隊が出撃しました』
『そうか・・・。ところで、プロミドンって呼べばいいのか?』
『お好きなように。決めたとおりに対応しますよ』
『なら、PDね』と理恵。
『そうだね・・・』と誰かが伝える。
『耀子か?』
『そのようです。あわてないで、ゆっくり話しかけてあげてください。
精神空間思考で記憶を伝えるのですよ』
『ありがとう、PD』と理惠。
『ここで防衛隊コマンドの攻撃を見れるか?』
省吾はPDに尋ねた。
『窓ディスプレイに映しましょう。
何かあれば、みなさんを時空間スキップしますから、ご安心ください。
スキップは時空間転移です。いずれ体験するはずです。その時、説明します。
緊急ニュースですよ』
防衛隊コマンドの攻撃を映す前に、窓ディスプレイが、緊急ニュースを伝えた。
《FRSEAON・東南アジア・オセアニア国家連邦の各国法律を統合した、東南アジア・オセアニア国家連邦の法律の他に、新たに法制化された法律を発表しました。内容をそのままお伝えします・・・》
報道内容は、タブレットパソコンの日記とほぼ一致していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます