三十四 フォークナ級突撃攻撃艦

 二〇二六年、八月二十五日、火曜、十時すぎ。 

 快晴の青い空に、金属光沢の半透明な巨大な立体アステロイド型宇宙船が浮かんでいる。

 S市K町政府専用病院の病室にある窓ディスプレイに現れたN市上空だ。さらにその上空に、灰色の波打つような漠とした平面とおぼしき空間が見える。


『先生!〈フォークナ〉級突撃攻撃艦だよ!』と理恵。


 PDが伝える。

『G市O区の、大東重工航空研究所の地下五百メートルから、攻撃艦が、高度三千メートルに亜空間スキップしました。東亜重工M工場、宇宙航空研究所の地下で建造した〈フォークナ〉級攻撃艦と、同型の宇宙艦です。研究所の陥没はありません。

 上空の空間は時空間転移特異点です。クラリックの亜空間転移ターミナルと同じです』


 クラリックが東亜重工M工場宇宙航空研究所の地下で建造した、〈フォークナ〉級宇宙艦は、八個の曲面を持つ立体アステロイド型で、ニオブの単位では全長一キロレルグ(一レルグは約一メートル)、高さ三百レルグ。ヘリオス艦隊の突撃攻撃艦〈フォークナ〉の三分の一だ。



 攻撃艦から青緑色のビームが照射され、一瞬に、我家が白紫色の球体に包まれた。窓ディスプレイから音は聞こえない。

「くそっ、何をする!」

『心配ありません。防御エネルギーフィールドが守っています。音声を聞きますか?』

「いや、聞かなくていい。子供たちに悪影響だ」

『了解しました』


 数十機のロータージェットステルス高速戦闘ヴィークル編隊が現れた。牛に群がる蝿のごとく、ビーム攻撃とミサイル攻撃している。

 攻撃艦が周囲に薄ピンクの防御シールドを張った。ステルスヴィークル編隊の攻撃を防ぎ、自己の防御シールド間隙から青緑色のビームを放っている。

 攻撃艦のビームを被弾し、ステルスヴィークルの防御シールドが白紫に輝いた。

 防御シールドに守られたステルスヴィークル編隊と攻撃艦の攻防がしばらくつづいたが、状況に変化はない。


 ステルスヴィークル編隊を攻撃する攻撃艦の、斜め上方空間から、赤色のビームが走り、攻撃艦の防御シールドが赤色に浮きあがった。ビームを受けた部分が暗赤色に変化し、エネルギー不足を示している。

 攻撃艦が、赤色ビームの発射源へ青緑色の太く眩いビームを放った。

 白紫色に防御シールドが輝き、全長五十メートルほどの円盤型小型偵察艦が二隻現れた。偵察艦はたてつづけにパルス魚雷を放ち、エネルギーが不足している攻撃艦の防御シールド弱体部に、電磁パルス魚雷を集中攻撃する。


 攻撃艦が防御シールド内に広角で多数のビームを放った。防御シールドを突破したパルス魚雷を攻撃するビームネットだ。


 防御シールドを突破したパルス魚雷を、攻撃艦の青緑のビームが攻撃するが、つぎつぎに到来するパルス魚雷を防ぎきれない。多数のパルス魚雷を受けてビームネットも破壊され、攻撃艦本体が魚雷を被弾し、防御シールドが消えた。

 偵察艦が流線型の特殊ミサイルを放った。

 被弾した攻撃艦の全貌が浮きあがった。同時に、アステロイド型の輪郭だけになり、消えた。


『攻撃艦が消滅しました。

 市民の記憶から、今回の戦闘記憶を消去します。

 画像は特殊偏光しています。お二人の記憶は消えません。保育室の子どもたちに影響しません・・・』

 二機の偵察艦から特殊電磁パルスが発せられ、省吾の自宅一帯が薄紫の光に包まれた。

 同時に、ステルスヴィークル編隊と偵察艦が消えた。

『全機、入間基地に時空間スキップしました』

 PDが省吾たちにそう伝えた。

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