三十二 マイケルの転移?
二〇二六年、七月六日、月曜、十時。
G市M区帝都ホテルの特別客室で、スザンナ・ヨークは思った。
七月四日の愛知公演が終った・・・。次の公演は七月十一日の帝都だ。日がある・・・。
なんだか疲れた。今までと同じ週末二日の公演なのに、ひと月休日なしで公演した気分だ・・・。今週はテレビ出演するのにこれではいけないわ・・・。
『マイケル、この疲れを回復してくれないかな・・・』
そんなこといっても、何とかなるはずないよね・・・。
そう思っているとマイケルが答えた。
『そんなことありませんよ。体調は回復します。ソファーから立ってください』
『わかったわ・・・。マイケルのいうことにまちがいないはずだわ・・・』
「お茶をどうぞ」
ユリアがテーブルに紅茶を置いた。
「ありがとう・・・」
ユリアに礼をいい、マイケルにいわれたとおり、スザンナはソファーから立ちあがった。その瞬間、視界が真っ白になり、身体がふらついた。
「おばさま!」
ユリアはスザンナを抱きかかえてふたたびソファーに座らせて、横にならせた。
「オイラー!」
「どうした?貧血か?」
隣室から駆けつけたオイラーは、スザンナの首から肩にかけて手を触れた。
スザンナの首筋から後頭部に暖かみが増した。霧が消えるように気分が良くなり、疲れがまったく気にならなくなった。
「オイラー、あなた、ヒーリングが?」
「気分は?良くなった?」
「ええ、とっても・・・。疲れていたのが嘘みたいに消えたわ・・・。
オイラー、ユリア。ありがとう。あなたたちは疲れてないの?」
「僕たちはだいじょうぶだよ。テレビ番組の収録は水曜だから、今日と明日は、ゆっくり休むといい・・・」
オイラーはスザンナの肩と首をマッサージしている。
あっという間に疲れが消えた。まるで身体に何かがいて、それがとれたみたいに・・・。 もしかして・・・。いや、そんなことは思わないほうがいい・・・。
スザンナは身体を起こした。
マイケルの声がした。
『余計なことは考えないことです。そうしないと、疲れがとれません』
ユリアはスザンナの隣に座り、スザンナの腕をさすった。
オイラーはスザンナの首筋から肩をマッサージしながらいう。
「マネージャーがいるんだから、全てを任せたらいい。
そうできない性格なのはわかるけど、シルビアの仕事は、シルビアに任せた方がいいよ。すみません、口出しして」
スザンナは、背後から話すオイラーが、マイケルのように感じられた。
やはりそうなのね・・・。いや、思うのはやめよう・・・。
「いいのよ、オイラー。あなたたちの気持ちはよくわかる。
公演活動の間の気遣いはとってもうれしかったわ。
あなたたちがいうようにするわ」
スザンナはマッサージされながら、オイラーに気持ちをむけた。
オイラーの手の他に、別の手を感じる・・・・。
ユリアは隣に座り、スザンナの腕をさすっている。
ユリアの手じゃないわ・・・。まぶたを閉じると、背後に二人の気配を感じる・・・。
やはり、思うのはやめよう・・・。
『何も心配しなくていいですよ』
マイケルの声が聞えて、オイラーがいう。
「一つ、僕の頼みを聞いてくれませんか」
「何?難しいことはできないわ」
「来週、名古屋の収録が終ったら、観光をしたいんだけど、できるだろうか?」
スザンナはふりかえった。
「それはできるわ!公演の時は時間がなかったから、今度はゆっくり観光しましょう!」
スザンナはオイラーとユリアを抱きしめた。
『これでいいの、マイケル?』
『わかっていたのですね』
もちろんです・・・。
一週間後、七月十三日。
オイラーとユリア、スザンナたちは、ホテルが用意した観光ガイド付き小型旅客用ヴィークルに乗りこんだ。
ホテルがあるG市M区からO区の大東重工の工場前を走った。ここには大東重工の航空機工場と航空研究所がある。
観光ガイドがいう。
「ここに航空博物館がありますから、ちょっと見ましょう」
「賛成だね・・・」
ホンキーは日本のテクノロジーを見たいと考えている。
表沙汰になっていないが、大東重工G市O区航空研究所のコントロールデッキは、研究所の地下サイロのミサイルと、O区工場とW市工場のミサイルの発射を管理していた。地下には他にも何かあるはずだが、地球防衛軍と検警部特務部の地球防衛軍特務コマンドは何も発見していない。
小型旅客用ヴィークルが、工場に並ぶ、航空研究所の前を通過した。
オイラーの身体が急に軽くなった。気分は爽快。ユリアとスザンナを見ると、二人も、にこやかに窓の外を見ている。ホンキーもシルビアも、のんびりしている。
航空博物館は航空研究所の一ブロック先にある。
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