六 代理人㈡
二〇五六年、六月六日、火曜。
政治的機能が内陸の帝都へ移っても、経済機能は、旧帝都地区が存在していた東京の南地区、湾岸経済特別区域に集中している。
東京南地区湾岸経済特別区域にある、優性保護財団東京支部一階ホールのセキュリィティーゲートで、山本須美はIDカードと生体認証コードを照合してエレベーターに乗った。十六階でエレベーターを降りて、通路の先にある外部情報管理部のセキュリィティーゲートで再びIDカードと生体認証コードを照合した。
照合が終り、外部情報管理部のドアが開いた。
「お帰り、須美。結果はどうですか?」
室内中央で、オイラー・ホイヘンスの3D映像が山本須美を見つめた。室内はホイヘンスを中心に、端末が円形に配置されている。
「やっと手に入れたわ。彼のIDと照合してね」
山本はバーチャルキーボードで端末にIDを入力してサンプル投入ゲートを開いた。中からサンプルケースを取り出して、バッグの髪を慎重に納めてゲートに投入した。
ディスプレイに『大隅宏治』のプロファイルが現れた。ホイヘンスの口から驚きの溜息が漏れた。
「よく手に入れましたね!分析結果は賞賛に値します!二ランク昇進です!」
ノルマ達成に安堵した山本の肩から力が抜けた。ホイヘンスの言葉は、今後、山本が成す事案にこれまでの三倍の報酬が口座に振り込まれることを意味した。
「次は、生体サンプルの入手をお願いする」
「それは・・・」
手段は選ばない。失敗しても財団が処理して公表されない。責任を問われない。山本はそのように言われているが、やはり無謀だ。
「これまで担当した件より遥かに楽なはずです?適任者が居ないのですか?」
「そうです」
「では、こちらで人選して、適任者を行かせます。
あなたはこれ以上接近してはいけません。要請があるまで単なる募集代理人でいてください」
ホイヘンスは平然と山本を見つめている。
「わかりました」
ホイヘンスが話す間に奥の壁の一部が天井へ迫り上がって長い髪の女が現れた。山本は女に見覚えがあった。
「ユリアが間違った行動をしないように指導と監視をしてください」
「目的は先ほどの・・・」
「あなたは知らない方が今後のためです。これまで同様に私の指示に従ってください」
「わかりました・・・」
「では頼みますよ」
ホイヘンスの3D映像が消えて大隅宏治の3D映像が現れた。
「この青年があなたの相手です。名前は知っていますね?」
山本はユリアを見た。やはりどこかで見た憶えがある。
「ええ。基本情報は記憶ずみです」
「結構です。では詳しい事を説明します。この他にも後日説明する事がありますから、そのつもりでいてください・・・」
山本は任務の詳細を説明した。
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