六 惑星ガイア

 惑星ガイアはヘリオス星系の第三惑星で若い惑星である。生命を育む青臭さと危険を表裏一体にした、みずみずしい生命エネルギーを放って青く輝いている。

 ロシモント同様にガイアでも、数々の生命の誕生と進化、種の繁栄と存続、衰退の過程がくりかえされた末、哺乳類の大繁殖がはじまっていた。

 我々の故郷アマラス星系が属する渦巻銀河メシウスは、銀河誕生以来、ガイア時間で二百億年が経過し、老年期を迎えていた。


 一方、銀河中心から約三万光年の銀河赤道円盤上にヘリオス星系を持つこの渦巻銀河ガリアナは、ガイア時間で表現すると、誕生して数十億年の青年期を迎えた若い銀河である。

 時空間の誕生を考えると、連続時空間でこのような相違があるのは不思議に思えるが、膨大な速度で拡散する時空間で、故郷の銀河がこの渦巻銀河よりはるかに時空間の中心から離れ、時空間密度が低いを考えれば納得できる。


 プロミドン立体編隊を組んだヘリオス艦隊は、惑星ガイア上空三十万キロレルグの周回軌道にいた。ガイアの地表はかつてのロシモントのように、豊富な水と緑で覆われる動植物の宝庫だ。我々は我々の種の系列同志で精神エネルギーを同一化し、精神エネルギーマスに変化してガイアの地表を再認識した。

 ガイアを周回するヘリオス艦隊の周回速度は、ガイアの自転速度と同じだった。

 我々は大司令艦〈ガヴィオン〉に搭載されたプロミドンを使い、周回軌道上からガイアの地表を観察し、地表の情報を得た。地表に投入したプロミドンは、ガイアの六十パーセント以上を占める海を移動しながら、海と陸の生命情報を集めている。

 

「類人猿のネオテニーに、道具を使う者がいる。

 副艦クルーと、くわしく調べる」

 オフィサー位のパイロット、キーヨがそう伝えてきた。

「時間をかけて完全な情報を得てくれ」

「了解」


 この周回軌道上で、艦隊は頻繁に小惑星の飛来を受けた。各艦は防御エネルギーフィールドで艦体を強固にシールドし、大司令艦〈ガヴィオン〉もドーム外殻を閉じて防御エネルギーフィールドに包まれている。


 私は、防御エネルギーフィールドが張られたブリッジのコントロールデッキで、惑星ガイアの4D映像を確認した。

「カミーオ。プロミドンはどこだ?」

 カミーオもオフィサー位のパイロットである。

「現在位置は、もうすぐ現れる、我々の頭部に似た形の大陸と、この大陸の西の海岸線に似た、東海岸線を持つ大陸の間の、赤道上にいます。

 もうすぐ確認できます・・・。

 捕捉した。

 何か指示しますか?」

「今はない・・・。

 キーヨ。我々、艦隊クルーの・・・」

 私はキーヨに、我々ニオブとトトの精神部族数、つまり、精神エネルギーマスの系列を聞くつもりだった。


 途中まで話した私は、アーク位の誰かが、我々の意識に自己を鼓舞するのを感じた。その思考は、もったいぶった割りに内容が希薄だ。

『ジェネラル・ヨーナ。私だ』

「アーク・ヨヒム。何か用ですか?」

『我々は降下するのか?』

「時期が来れば降下します。

 それ以前に、ネオテニーの生態とガイアの気候を知っておかねばなりません。

 事前にネオテニーに伝える事があります。

 その時はクラリックの方々の力を借りねばなりません」

『その時は連絡してくれ。

 クラリックの四位は準備が整っている。

 今すぐでもかまわないんだ。

 君たちさえよければ、今でもいい』


 クラリック階級は上位から、アーク、ビショップ、プリースト、ディーコンに分かれる。

 我々アーマー階級は、ジェネラル、オフィサー、ソルジャーである。

 一般市民のポーン階級は、シチズンとコモンであり、シチズン位は我々ニオブの種、コモン位はトトの種である。


「わかりました」

『では、連絡してくれ』

 コントロールデッキからアーク・ヨヒムの気配が消えた。


 アーク・ヨヒムの思念が消えるとオフィサー位のキーヨは、クラリックに対するいらだちの思念波を放った。彼の感情は私に伝わり、パイロットたちに波及した。

 私は全パイロットがブリッジのコントロールデッキにいるのを確認し、コントロールデッキに、さらに強固な防御エネルギーフィールドを張らせた。


「ヨーナは、よく、アークに腹をたてずにいられるな・・・」

 とキーヨが私に伝えた。

「腹をたてれば消耗し、エネルギーレベルが低下する」と私。

「クラリックがこれまで我々に行ってきた事は、すべて彼ら自身のためだった。

 彼らがこれから何をするか、はっきりしてる。

 身体が有っても無くても、クラリックのする事は基本的に変らない。

 ヨーナなら、クラリックの奥底まで見通せるだろう」


「それは考えるな。私を理解できるだろう」

「理解できる。精神エネルギーが低下するなら、上げるのも可能だろう?」

「それは難しい。精神生命体になってから、精神エネルギーの変化を気にする者がいない」

 いずれ、我々は精神エネルギー変化が、何なのかを経験するだろう・・・。

 そう思いながら私は伝える。

「キーヨ。我々とトトは系列レベルで何系列になる?一千万系列を超えるか?」

「八百万程度だ」


「そうか・・・。シンはどこだ?」

「系列地区第五エリアにいる。ここに来るよう指示するか?」

「いや、そのままでいい・・・。

 地上の生命反応が一番高い地域から、生態系の連鎖を記録してくれ。

 特に精神エネルギー反応の高いネオテニーを、注意して記録してくれ」


「わかった。意識入射を試みていいか?」

「彼らを動揺させてはならない。我々を気づかせてもならない。

 彼らの記憶が持続しないなら試みてもいいが、そうなら今後の我々は苦労する。

 特にクラリック階級のアークとビショップに大きく影響する。

 日頃から精神エネルギーの優劣をひけらかす連中がどう動くかだ・・・」

「見ものだな。記録して、意識入射が可能か判断するだけに留めるよ」

「そうしてくれ」

 キーヨは、コントロールシステムにキーヨ自身の意識を投射し、プロミドンから送られるガイアの知的生物の情報を識別処理し、記録した。


「カミーオ。エネルギーフィールドを張ったまま、クラリックの様子を観察してくれ」

 我々の中で、カミーオが最もクラリック階級に精通している。

「わかりました。私も気になります。

 副艦のパイロットたちも、クラリックの動向を気にしてます。

 皆、クラリックの狙いは第四惑星のアーズだ、と思ってます」


 カミーオの知的欲求でカミーオ一族の精神エネルギーマスは爆発分離しそうに興奮している。カミーオが私に伝えたように、クラリック上層部が第四惑星アーズで何を知りたいのか、私は理解している。

「あわてなくていい。いずれわかる・・・。

 クラリックで、我々と同じ意識を持つのは誰だ?何系列ある?」

「レクスター系列だけです。

 レクスター系列はケイトの偉業のために、アークとビショップから毛嫌いされてます。

 最下位のディーコンも信頼できますが、我々以上に、アークとビショップの意識に左右されやすく、今のところは注意すべきです」

「ありがとう。注意しよう」


 カミーオへの指示を終えた私は、ソルジャー位のパイロット・ヨンミンに伝えた。

「ヨンミン。今すぐ艦内エリアにエネルギーフィールドを張り、レクスター系列がいるエリアを気づかれずに調べてくれ」

「艦長。レクスター系列はシンのエリアにいます。周囲にクラリックはいません。

 ここに呼びますか?」

 レクスター系列なら、トトといっしょにいてもおかしくなかった。


「ありがとう。私がシンのエリアへ行こう。

 ヨンミン。気づかれないように、カミーオとともにクラリックを調べてくれ。

 カッシムとミーシャは、第四惑星アーズのプロミドンから、アーズの情報を得てくれ。

 ナムシは、キーヨとともに、ガイアの地上を頼む。

 ソルジャー全員が、副艦クルーと艦隊クルーを指揮してくれ」



 キーヨは得られた情報から重要事項だけを完璧に保存できた。単に情報選択だけでなく、得られた情報から未来予測が可能であり、我々の未来に、彼の能力が役立つのはまちがいなかった。情報の選択と記憶は、彼には子供の遊びと同じだった。キーヨだけでなく、パイロット全員がすばらしい能力を持っている。


 カミーオは、クラリックの各系列が持つ精神エネルギーと、彼らに受け継がれた意識に、非常な興味を持っている。時として彼は、我々をここまで導いた「存在」について、クラリックのように語る時があった。「存在」について語るカミーオの意識が本来クラリックが受け継ぐべき意識だ、と私は思う。しかし、カミーオはクラリックではなく、他のパイロット同様、私の重要なパートナーだ。


 クラリックに我々のような精神エネルギーはない。シンの記憶にあるように、トトの種を精神的に進化させたレクスター系列に対するクラリックの態度ではっきりしている。

 ロシモントに生息する生命が数多くありながら、彼らだけが特別に選ばれた存在だなどと思う前に、遠い過去、特殊能力を持つ彼らの祖先がニオブ社会でクラリックを名乗り、階層社会を築いたにすぎない事を、おおいに認識する必要があった。


 プロミドンの出現と「存在」に対する我々の認識は、クラリックに変革をもたらす良い機会だった。

 だが、彼らは機会をものにできなかった。つまり、クラリック階級は彼らの精神エネルギー系列に受け継がれた意識にしがみついたまま機会をものにできなかったのである。



 トトの種のシンがいる系列地区第五エリアは、プロミドン推進機がある艦の中央付近にあり、ポーン階級の居住区域である。我々が、シンたちトトをこの推進機付近に閉じこめたのではなく、系列地区が第八エリア、第七エリア、第六エリア、第五エリアの順に、推進機を中心にした放射状の空間が、推進機を囲む同心球面で区切られたためだった。

 この四つのエリアを、ポーン階級のシチズン位のニオブとコモン位のトトが占めている。


 この外側に、我々アーマー階級のソルジャー位の第四エリアがあり、我々ジェネラル位とオフィサー位が居住する上部ブリッジと下部ブリッジの第一エリアと第二エリアがある。

 そして、第一エリアと第二エリアの球面が隔てた外部居住空間に、クラリック階級の第三エリアがある。


 エリア決定は、精神エネルギー体の我々が、プロミドン推進機に精神エネルギーを送りこみやすいようにクラリックが考えた結果だったが、エリアに備えられたカプセルに入ってしまえば、全エリアから推進機へ、移動を思考する精神エネルギーを完璧に送れた。

 クラリックが考えた、精神エネルギーレベルの相違によるエネルギーロスなど皆無で、エリアごとに区切る必要は何もなかった。


 我々は、あらゆる面で、純粋な発展的思考を重視したが、クラリックは偏向した思いに捕らわれ、しだいに、我々のような自由な思考をできなくなっていた。



 私はブリッジから系列地区第五エリアに移動し、トトの種のシンに伝えた。

「シン、地上の調査に時間がかかる。しばらくのんびりしてくれ」

「ネオテニーの進化は、どこまで進んでる?」とシン。

「道具を使う段階だ。

 ここにレクスターが来ていると思ったが・・・」


「我々のレクスターは、ずっとここにいる。

 ちょっと待ってくれ」

『レクスター、ヨーナが来てる。こちらに来てくれないか?』

 シンの意識がレクスターに呼びかけた。

 レクスターは、

「すぐに会う」

 と答えた。


 第六エリアの球面と第四エリアの球面が作る空間は、エリア境界に当たる球面を支える支柱を除けば、かつて我々が経験しなかった形状の空間だった。

 我々は重力と空間の影響を受けにくいが、純白な球面の局部に、外部への連絡路が突出した曲面を構成する空間は、空間的際限がない感覚を私に与える。


 レクスター系列のエネルギーマスが移動してきた。

 レクスターが私に伝える。

「ジェネラル・ヨーナ、地上に変化があったの?」

「いや、今は何もない。くわしく調査中だ」

「ヨーナ、レクスターに特別な用があるんだろう?」とシン。

「シン、ものには順序があるよ」

 レクスターはシンに注意した。


「精神体の思考はただちに思念波で伝わる。あいさつ抜きで・・・。

 ヨーナはそれを充分理解してる。

 レクスターが心配するほど、ヨーナは狭くない」

「新しい表現ね。覚えておく。シンはわかりやすい表現をするから、私のためになる。

 ところでヨーナ。用件は何?」 


「二人ともデッキに来て、地上を確認してほしい」

 私の一言で、レクスターとシンは私の抱えている問題がどんなものか充分に理解した。

「わかった。私は精神エネルギー系列でいいわね?シンも系列で移動させる?」とレクスター。

「系列のまま来てくれ」


 我々は第五エリアから上部ブリッジへ移動した。

 第五エリアからコントロールデッキへ移動中、二人はみずからの意識をコントロールし、私に思考を認識させなかった。二人のマインドコントロールは、我々パイロット並みに優れている。

 コントロールデッキの防御エネルギーフィールド内に入ると、二人の意識は思考を限りなく膨らませ、降下について、考えられるあらゆる可能性を思考した。



「キーヨ。ガイアの類人猿を見せてくれ」

 私はキーヨに指示した。

「ちょっと待ってくれ・・・。

 ここだ。拡大する。良く確認してくれ。

 シンには懐かしいかもしれない・・・」

 キーヨから興味を示す強い意識がシンに向けられた。キーヨは地上の生物に並々ならぬ関心を抱いている。それがはっきりわかった。


 コントロールデッキ中央空間に、プロミドンの探査ビームが捕捉した空間構成粒子の残渣、波動残渣による4D映像が現れた。我々の頭部骨格を間延びさせて横から見たような形の大陸が急速に拡大した。


 思考をくりかえせばくりかえすほど、精神エネルギーは洗練され純粋化される。しかし、思考をくりかえす意識に疲労と嫌悪が現れれば不純性が現れ、精神エネルギーは急速に不純化する。


 画像を見なくても、我々はキーヨの記憶と意識から、ガイアの地上の生物を認識できた。

 しかし、ガイアの記録を確認するたびに、キーヨの記憶と意識を同レベルに励起するのは、キーヨを疲弊させ、今後の彼の作業に支障をきたす。

 何度もくりかえすであろう生物の確認を考えたら、彼の意識を読むより、記録された映像を見る方が効果的である。


「ここだ。

 ここまでは、草原と周囲の林に生息する動植物だけだ。

 ここからは、ネオテニーが現れる・・・、出たぞ」

 シンとレクスターの意識から思考が消えた。二人は4D映像に釘付けになった。

 無理もない。二人が興味を抱く生物が、腕の太さほどの骨を持って林の樹上にいる。下を通る中型の草食動物を、数人がかりで狙っているのだ。


 彼らの顔面は顎が突きでて額が後退し、明らかに類人猿のネオテニー、幼形成熟の突然変異体だった。我々やトトがかつて維持していた身体ほど大きくないが、ほぼ同じ体形をしている。ガイアの地上は、銀河が異なっても、時空間の起源と物質構成元素が同じ事実を如実に物語っていた。


 草食動物が樹木の下を通ると、いっせいに、樹上の狩人たちが襲いかかった。


 キーヨが自己の思考を伝えてきた。

「我々の種よりトトに近い。

 トトより進化速度が早い。

 顔面角度はきつくないし、脊椎も延びてる。

 仲間に連絡するあの動作は、かつての我々と同じだ。

 言葉がかなり多い。

 今は音をたてないよう、動作と表情で連絡しあってる。

 次の獲物が来た。

 木の上に移動するぞ・・・。

 ほら、登った」


「シン、どうした?」

 私はシンの変化に注目した。

「いや、何もない。

 我々の祖先もあんな生活をしてた・・・」


「トトだけじゃない。ニオブの祖先も同様の生活をしてた。

 その中から、さらに新たなネオテニーが生まれ、我々の祖先になった。

 突然変異に時間的隔たりはあっても、我々とトトは同一種からスタートした事実に変りはない。それはレクスターも認めてる」

 私は、ネオテニーを気にするシンに伝えた。


「ヨーナの考えるとおりね。

 ここに見るネオテニーは、我々の過去と考えていい。

 我々の彼らに与えるものが、彼らの未来を大いに左右する。

 正しい概念と信念を与え、彼らが、この惑星の支配者ではなく、管理者となるよう指導しなければならない・・・。

 あっ、失礼。これは私の考えだ。強要してるんじゃないよ、ヨーナ」


「わかってるさ。レクスター、教えてほしい・・・」

「何?」

「ネオテニーが我々のパートナーに成り得るか、判断してほしい。

 我々が生物学的に成すべき、最良の方向を聞きたい」

 このことが、私がレクスターとシンをブリッジに呼んだ理由だ。


「種としての現在の進化レベルが、今後の精神エネルギー変化に大きく影響する。

 何か環境変化が現れると、はっきりする・・・」とレクスター。

「ヨーナ、私もそう思う。過去に、我々トトはケイトから精神環境を変えられ、これまでになったのだから」とシン。


「急激な変化は避けなけねばならない。彼らが対応できなくなるからよ・・・。

 キーヨ、彼らが火を使うのを確認してる?」とレクスター。

「いや、まだだ」

「それなら、自然発生的に火を与え、彼らがどう反応するか検討したらいい。

 進化が悪化したら、時間的意識投射で修正すればいい。

 それと、この艦隊は、地上の生物進化に何らかの影響をおよぼすから、早めに地上から見えない位置へ移動し方がいい。

 ヨーナはどう思う?」


「できるだけ早く艦隊をガイアの衛星ディアナ内部に移動させ、偵察艦をガイアの地上へ降下させる。どちらも、地上から見えないようにする。

 衛星に艦隊を移動させたら、衛星の軌道を修正する。

 小惑星の飛来が多いから、衛星の自転を停止させてガイアに向けた表面からガイアの地上を監視しよう。小惑星が飛来するたびに軌道修正しなければならないが、致し方ない」


「残る問題は、私たちクラリックだけね」とレクスター。

「その事なら、まもなく我々が正しいとわかる・・・」

 そう伝えながら、私はカミーオに意識を同調させた。

 少し前から、カミーオは何かを確認していた。レクスターと地上の生物が私の意識の大半を占めていたため、私はカミーオの意識を私に割りこませなかった。


 カミーオを感じ、シンが伝えてきた。

「ヨーナ、今すぐ艦隊を移動するのが賢明だ。カミーオがそう判断してる」

 カミーオが得た情報は緊急だった。衛星への移動を早めなければならない理由がすでにそろっていた。


「やはりそうね。シン、エリアにもどりましょう」

「わかった。ヨーナ、また、ここに来てもいいか?」

「いつでも来てくれ。来る時は、今日の要領で移動するんだ。

 理由はレクスターに説明してもらえ」


「充分にわかってるよ。ここのエネルギーフィールドに気づいたから・・・。

 カミーオが、早く艦隊を衛星に移動しないと移動手段をなくす、と思ってる・・・」

「そうしよう」



 ヘリオス艦隊は衛星ディアナの周回軌道、つまり惑星ガイアからおよそ三十八万キロレルグの周回軌道へ緊急移動した。

 大司令艦〈ガヴィオン〉は、艦隊を衛星ディアナ上空に停止させたまま、ディアナ表面の凹凸が少ない区域に着陸した。我々は、艦隊の格納庫となるべき、ディアナの地質と岩石を探った。ディアナの地質は、プロミドンが調査したガイアの地質と同じで、ディアナがガイアとともに誕生した事実を裏付けていた。ディアナには、ガイアのような地殻内活動はなかった。


 全艦艇がディアナに着陸し、ディアナの中心付近に格納庫を造って留まれば、ディアナの質量はかなり増える。全艦隊の質量分だけ、ディアナの周回速度を上げるか、それとも、周回軌道半径を増すか、いずれかを成さねばならなかった。そして、ディアナの自転を、ガイアを一周する間に一回転にし、常に、ディアナが同じ表面をガイアに向けるようにし、ディアナの地下格納庫に待機する我々が、常に同じ方向にガイアを見て、ガイアの地上を観察可能にしなければならなかった。これらは、全艦隊がディアナに着陸する前提で成される作業だった。


 艦隊は、ディアナを中心にプロミドン立体編隊を組んだ。ディアナを、プロミドン立体編隊の中央に位置させたまま、我々は、ディアナの上空に静止した副艦六隻と、ディアナに着陸した大司令艦〈ガヴィオン〉とで、ディアナの自転と軌道の変更を難なく完了した。

 残る作業は、ディアナ内部の地下格納庫建設だった。これも、〈ガヴィオン〉と副艦六隻で充分に事足りる作業だった。

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