五 エルサニス

 ガイア歴、二〇五九年、五月。

 オリオン渦状腕、ヘリオス星系、惑星ガイア、バンコク、地球国家連邦共和国議事堂、共和国議会。



 惑星キトラからの連絡を受けて二日後。

 ケプラーはスキップドローンを抱えて、バンコクの地球国家連邦共和国議事堂、共和国議会の演壇に立った。スキップドローンは三歳の孫ジミーくらいの二足歩行ロボットだった。


「僕の名はエルサニス。惑星キトラのAIエルサニスのサブユニットです。

 人類の皆さんに入植して欲しいテレス星団ファレム星系の、惑星エルサニスと惑星レワルクを紹介するため、僕はテレス星団オーレン星系の惑星キトラから、三千光年離れた地球へスキップ(時空間転移)してきました。

 最初に、僕たちが暮す惑星キトラを紹介します・・・」

 ロボットのエルサニスは、キトラ人が生息する惑星キトラの自然とキトラ人の社会と政治、そして、科学と文化を映像で説明した。


 キトラは自然豊かな惑星で、キトラ人は植物を栽培して、植物からあらゆる食品を合成して食糧にしていた。

 政治は一院制の議会制民主主義。地球国家連邦共和国によく似ている。

 文化も存在し、科学が崇拝される社会で、あらゆる事が科学的に処理される風潮が主流だった。


 今回の人類救済計画も、人類の入植に適した惑星レワルクと惑星エルサニスを無駄にしないとの合理主義に基づいていた。

 と言うのも、キトラ人は自分たちが入植するために、惑星キトラから五光年離れたファレム星系の惑星レワルクと惑星エルサニスをテラフォーミングしたが、二つの惑星には、キトラの科学でも、絶滅が不可能かつ不可解なバクテリアが存在していた。

 地表からバクテリアを根絶しても、地中から次々に出てくるのだ。ワームホールを通って他の時空間から現われるかの如く、惑星そのものがバクテリアを生成していると言って過言でなかった。それは人類の細胞内にあるミトコンドリアと同型のものだった。

 このミトコンドリア型バクテリアは、キトラのミトコンドリアの型とは異なっていた。

 キトラ人は、駆除しても大地から湧くように発生するバクテリアに手を焼いて、入植を断念したのである。



「このようなことがあって、二つの惑星を無駄にしないために、人類の皆さんに二つの惑星を提供することになりました。


 皆さんが移動に使う宇宙船の設計図を持ってきました。

 宇宙船はスキップドライブ(時空間転移推進装置)を搭載しますから、宇宙船自体は重力に耐えられて機密性があれば、宇宙戦艦のような重装備は必要ありません。

 スキップ(時空間転移)は瞬間移動です。

 皆さんは、地球から惑星キトラの静止軌道上へスキップ(時空間転移)し、宇宙船内で検疫を受けて、宇宙船ごと惑星レワルクと惑星エルサニスの地上へスキップ(時空間転移)するだけです。

 ですから、宇宙船が外部から受ける引力は地球の引力一Gと、惑星レワルクの〇.九Gと惑星エルサニスの一Gだけです。

 もし、入植に疑問が湧けば、途中から地球へ引き返してください。

 惑星レワルクと惑星エルサニスに降り立って、いろいろ調査してから引き返してもかまいません。


 一つ、お願いがあります。

 ボイジャーⅢに搭載した資料には食糧に関する記録が少ないように感じました。

 今後、私たちの社会も、人類と同じ事が起こるかも知れません。

 そのため、人類の食糧調達方法について学びたいと思います。食糧に関する記録をいただけませんか?」



「それは、たやすい」

 共和国議会はエルサニスの説明に納得した。

「エルサニス氏に資料を渡すことに、賛同して欲しい」

 ボリス・カイト評議委員長は、地球の食糧に関する資料をエルサニスに渡すべく、地球国家連邦共和国議会の承認を求めた。

「賛成する」

 共和国議会は全会一致で承認した。


「僕にデーターを素粒子信号通信するか、アレシボ天文台へ素粒子信号でデーターを送れば、僕に転送されます」

 いつのまにかエルサニスは、アレシボ天文台のAIクラリスを、素粒子信号によるデーター転移ターミナルに使っていた。既存の量子コンピューターを短時間でそのように使うのは人類には不可能だ。


「わかりました。

 補佐官。ただちに食糧に関する記録と映像を揃えて、エルサニス氏に送ってください」

 ボリス・カイト評議委員長は議会議事進行補佐官に指示した。

 人類は食糧増産のため、農作物の栽培を行い、陸や海洋を効率よく利用して家畜を飼育し、魚介類を養殖し、ダチョウから家鶏、ウズラにいたる鳥類の飼育、一部では鰐など爬虫類も養殖して食糧にしている。さらに、微生物の養殖もである。


 食糧に関する記録と映像をはじめ、地球に関するあらゆる資料を入手したエルサニスは、宇宙船の設計図とキトラ、エルサニス、レワルクの三惑星に関する資料を残して惑星キトラへスキップ(時空間転移)していった。


 地球国家連邦共和国議会は、エルサニスが残していった宇宙船の設計図と三つの惑星に関する資料を、地球の全学術会議に分析させて、エルサニスの説明が正しいか否か、そして、『新たな地球外知的生命体探査と惑星移住計画』から

『惑星移住計画』

 に名を変えた計画を実行可能か、六ヶ月以内に結論を出すよう命じた。

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