四 交信

 ガイア歴、二〇五九年、五月。

 オリオン渦状腕、ヘリオス星系、惑星ガイア、プエルトリコ、アレシボ天文台。



 計画が実行されて一年が過ぎた。


「博士!素粒子信号です!」

 アレシボ天文台で、AIクラリスのアバターが仮眠中のケプラーを起こした。

 ケプラーは仮眠室から、隣接するオペレータールームへ飛びこんだ。


「我々の素粒子信号パターンと同じです。ボイジャーⅢの記録を解読したんでしょう」

 モリス・ミラーは、ディスプレイに現れている素粒子信号波形を見つめた。電波望遠鏡が捕捉した素粒子信号の発信源は、銀河系オリオン渦状腕外縁部の宇宙からである。


「ボイジャーⅢを発射してまだ一年だ。木星にも到達してないはずだ・・・」

 何者かが木星に達していないボイジャーⅢの記録を解読したなら、素粒子信号を発信した何者かは、木星付近でボイジャーⅢを回収して、その後、オリオン腕の外縁部へ移動し、そこから素粒子信号を発進したことになる。どんなに考えても時間的にそんな事は不可能だ・・・。ケプラーは疑問に思った。


「素粒子信号を解読しました。映像が現れます。録画します」

 とクラリスが伝えた。



 ディスプレイに、人類に似たヒューマノイド(人型生命体)が現れた。

「我々は、あなたたちの惑星から三千光年離れた、オリオン渦状腕外縁部と呼ぶ銀河中心から遠い、テレス星団のオーレン星系、惑星キトラのキトラ帝国の住人だ。キトラ人と呼んでもらえばいい。

 我々は、時空間スキップ航行を行って、あなた方が木星と呼ぶ惑星付近で、あなた方の探査衛星を発見した。あなた方の文明を解読して、惑星キトラから素粒子信号をスキップ(時空間転移)させて連絡している・・・」

 キトラ人は白く広い平面に立っている。近くにボイジャーⅢがあり、比較すると、キトラ人の身長は人類よりやや小柄だが、耳が大きく目つきが鋭いだけで、他は人類と違いがないように見える。


「我々は人類の状況を理解した。

 我々のオーレン星系から五光年離れたファレム星系に、人類が生活するにふさわしい惑星エルサニスと惑星レワルクが存在する。この二つの惑星を人類に提供しようと思う。

 なぜ、突然現れて、惑星を提供するのか不思議に思うだろう。


 当初、我々は惑星移住を考えて、これら惑星をテラフォーミングした。

 だが、我々が持ちこんだ、我々に適する微生物と動植物が、何度テラフォーミングしても壊滅して、惑星自体が我々の入植を拒んでいるとしか思えない状況になった。

 このような惑星が他にも存在するのか我々は長年調査した結果、地球も同じ種類の惑星であることを知った。そのため、我々は地球を訪れることなく時が流れた。


 我々は、惑星探査の途中で、過去に探査した太陽系を探査する気になった。スキップ(時空間転移)の途中で太陽系に立ち寄った我々は、人類の探査衛星を見つけて、人類の危機を知った。


 我々は、人類にスキップドライブ(時空間転移推進装置)を持つ宇宙船の設計図を送る。

 これによって宇宙船を建造し、オーレン星系の惑星キトラにスキップ(時空間転移)し、我々が提供する二つの惑星に入植して、人類の危機を救って欲しい。


 我々は、同じ銀河の、似たような遺伝子を持つ同胞として、友好的な援助を差しのべる。

 なお、我々に関する情報と宇宙船の設計図を搭載したスキップドローンを、四十八時間後に、そちらの天文台へ、ジョージ・ケプラー博士あてに送る。

 地球国家連邦共和国議会で討議して、対処して欲しい・・・」

 素粒子信号通信が途絶えた。



「・・・・・」

 ケプラーとモリス・ミラーをはじめ、アレシボ天文台のスタッフの間に、しばらく、沈黙が続いた。


「博士・・・」

 モリス・ミラーは緊張した顔で、ケプラーの左右の目を交互に見て、その奥にあるケプラーの思いを知ろうとした。目の奥を見つめても、頭の中は見えるはすがない。思いなどわからないが、ケプラーが考える事は、モリス・ミラーや、他のスタッフと同じだ。


「ウワッハッハッ!」

 ケプラーは大笑いした。つられて全員が笑うよりほかになかった。歓喜の笑い、その他の言葉は必要なかった。

「録画はだいじょうぶだね?」

「完璧ですよ!」

 とクラリスが笑顔で伝えた。


 事態は深刻かつ緊急だ。

 ケプラーは、キトラ人の映像が記録してあるのを確認して、モリス・ミラーとスタッフに録画のバックアップとコピーを作らせ、ケプラー自身のメッセージ付きのコピーを、地球国家連邦共和国議会のホットラインで、バンコクの地球国家連邦共和国議会対策評議会、評議委員長ボリス・カイトと評議委員、共和国議会議長、各連邦にいる共和国議会議員へ送った。

 共和国議会のホットラインは、評議委員と評議委員長、議員と議長がどこで何をしていようと、確実に呼び出して閲覧させる第一級のホットラインだ。このラインを無視する者は地球国家連邦共和国反逆罪を犯したとして、厳罰に処される。



 バンコクの地球国家連邦共和国政府内の地球国家連邦共和国議会対策評議会、評議委員長執務室で、ボリス・カイト評議委員長はケプラーから送られた映像を見るなり、頬に笑みが浮かべた。ただちに評議委員、共和国議会議長と議員との緊急ホットラインを開いて、

「緊急招集だ。キトラのメッセージについて論ずる」

 3D映像による共和国議会を緊急招集した。


 一時間後。

 旧国家を代表する議員たちがバンコクの地球国家連邦共和国議事堂の議会に、3D映像で集まった。


 これまで何度となく、急激な人口増加と食糧不足を語りあってきたが、これと言った打開策を見いだせぬまま、

『新たな地球外知的生命体探査と惑星移住計画』

 を実行しただけに、共和国議会は、

「このような結果を期待したのだから、惑星キトラの提案を受け入れる方向で検討する」

 と全会一致で惑星キトロの提案受け入れの検討を認めた。

 人類の惑星移住計画を目的にボイジャーⅢを発進して、地球外知的生命体探査を続けた結果だっただけに、当然の議決だった。


 しかし、人類の生命がかかっている。

 議会は慎重に、

「最終決断は、スキップドローンで送られた惑星キトラの資料を検討して判断する」

 と結論を下した。

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