十 ノア計画
惑星キトラから送られた宇宙船の設計図を分析した結果、ダークマターから真空のエネルギーを得ることで、人類が新たなエネルギー革命を迎えると予想されたが、
『化石エネルギーや原子力エネルギーが真空のエネルギーに代っても、産業革命のように、生産方式の全てが画期的に変化しない』
と予想された。
しかし、宇宙産業では大きな変化が現れるのは明らかだった。
静止軌道上で巨大宇宙ステーションを建造するのに必要な、地球の引力に抗して衛星軌道上へ移動するエネルギーを、際限なく入手できるのである。これは、重力の影響を受けずに生産を行う産業分野では画期的と言えるが、巨大宇宙ステーションが静止軌道上にいる限り、人類は地球の引力圏から脱していないのは明かだった。
あいかわらず急激な人口の増加は続いていた。
巨大宇宙ステーションの利用で食糧生産量の減少に歯止めがかかると予想されたため、多くの巨大宇宙ステーションを建造してコロニーを作り、人類を移住させる提案も成されたが、太陽挙動の異変による影響が地球に及んでいる現在、たかが地上から三万六千キロメートル離れた静止軌道上の巨大衛星に居ようとも、地上となんら変らないことが明らかだった。
太陽系から離れた星系へ宇宙ステーションを移動するスペースコロニー計画も提案されたが、それは目的地が不明なだけで『ノア計画』と同じだった。
ガイア歴、二〇五九年、七月。
オリオン渦状腕、ヘリオス星系、惑星ガイア、ナスカ高原、地球国家連邦共和国宇宙防衛軍、ナスカ宙軍基地。
「ノア計画」総責任者ケプラーとモリス・ミラーの招集で、
AIクラリス、
地球国家連邦共和国議会対策評議会評議委員長ボリス・カイト、
地球国家連邦共和国宇宙防衛軍アポロン艦隊、総司令官カスミ・シゲル、
生態分析責任者、生物学者トーマス・ライト、
生態分析責任者、海洋学者のマイケル・ジン、
惑星担当分析責任者、地球物理学者オリバー・ニュートン
医学担当分析責任者、医学者エリック・ハイマー
宇宙船の設計図分析責任者、物理学者リチャード・バルマー
の八名が、ナスカ高原の、地球国家連邦共和国宇宙防衛軍、ナスカ宙軍基地に集まった。
「スキップドライブ(時空間転移推進装置)の転用でエネルギーは際限なく使える。その結果、搭載する使用エネルギーの艦体質量比を考える必要がない。艦体質量が増加した場合、必要とされる構造強度は、構造材形状で補強可能だ」
そう話したケプラーは、宇宙船設計分析責任者、物理学者リチャード・バルマーを見た。バルマーは納得して頷いている。
「スキップドライブで、艦艇は場所を選ばずに移動できる。地上で建造してもいいが、地上資源は不足している。移住用の宇宙艦は地球と月の資源を活用して、静止軌道上で建造することを提案したい」
モリス・ミラーがそのように提案した。
惑星担当分析責任者、地球物理学者オリバー・ニュートンが、ミラーの提案に同意を示した。
地球国家連邦共和国宇宙防衛軍アポロン艦隊のカスミ・シゲル総司令官が説明する。
「三年以内に、共和国宇宙防衛軍アポロン艦隊の戦艦を建造する。
搭乗員一万人の攻撃用球体型宇宙戦艦は直径一キロメートルだ。これを二十隻、ここのドックで建造する。
惑星移住計画用球体型宇宙戦艦は内部に食糧生産工場を持ち、搭乗員一万人の球体型宇宙戦艦だ。直径二キロメートル。これを二十隻、地球の静止軌道上で建造する。
二〇六二年、七月、我々の艦隊は発進する。
ケプラー博士とミラー博士と私の説明はあくまで提案に過ぎない。
我々の提案に皆の意見を求めたい」
全員が事前にクラリスを通じて資料を見ている。疑問点も提案もすでに述べてある。この場の質問は確認に過ぎない。
「意見はない!」
「提案に賛成する!」
座して死を待つか、危険が伴おうと、生き延びる機会がある限り突き進むか、どちらもその先に死があるなら、少しでも可能性がある方向へ進むのが、ヒューマンの生き方だろう。皆がそう思っている。
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