四十七 超越亜空間理論

 二〇二五年、十月十九日、日曜、十四時過ぎ。 

 M市の東亜重工M工場の居室を出たショウゴとリエは、居住区のセキュリティゲートで、兵器研究所へ行くと告げた。

 警備員トーヤは二人の生体認証を確認し、笑顔で通過させた。


 亜空間移動路を抜け、兵器研究所のセキュリティゲートに着いた。

警備員のヨダは居住区セキュリティゲート警備員と同じ顔だ。


「任務失敗は非難されるでしょうが、我々の本来の職務は研究です。それにより、子々孫々にわたって学識を高める事です。他を攻撃する事ではありません」

 ヨダはショウゴを見て、アーク位に思考探査されるのを気にせず、うれしそうに、ショウゴの帰還を喜んでいる。



 かつてヨダはクラリックの思考領域を研究したプリーストだ。

 思考領域において、現実に関する思考と仮想事象の思考は、どちらも思考領域に亜空間領域を構成する。しかも、クラリックの仮想事象の思考は現実思考にくらべ、より強固な亜空間を構成する。


 ヨダは、クラリック階級の活動の根本がこの思考による茫漠たる亜空間構成にあるのを知り、アーク位がニオブの支配階級として君臨し続けた理由の糸口を見つけ、研究成果を披露した。侵してはならぬクラリックの研究領域に進入した研究だった。


 その結果、クラリックの聖域を侵したと判断され、ヨダは学識研究系列の地位を剥奪され、セキュリティゲート警備員と研究論文分類整理の地位を与えられた。

 研究論文と呼ぶが実質的な論文ではない。研究結果の理論的体系化概念であり、論文の分類整理は、各プリーストがどんな概念をそのプリースト系列として継承しているか把握する記憶作業で、左遷だった。

 これは、クラリックが同種類の精神を有する精神生命体の集合体系列だから可能であり、精神生命体の系列が継承する概念は、同じニオブであるアーマー階級についても同様だ。


 プリースト位のショウゴはプリースト・ヨダを左遷させたアーク・ヨヒムに反感を抱いた。そしてヨダの理論を使って、思念波攻撃でターゲットの精神を亜空間領域へ転移させる論文を完成させ、同時に、この理論を兵器の誘導システムに導入した。

 理論導入した兵器誘導システムは完成している。公表せずにショウゴがこのプリースト・ショウゴのセル分子内に封印しておいたのを、精神空間思考が可能になった現在のリエはショウゴの精神空間思考を読んで知り、

『クラリックが宇宙戦艦に乗りこんだ時、亜空間領域の兵器誘導システムを使うのよ』

 と伝えてきた。ショウゴは、もちろんそうする、と答え、ヨダに挨拶した。


「ありがとう、ヨダさん・・・」

「気をつけて、プリースト・ショウゴ、リエ」

 ヨダはショウゴとリエの生体認証を確認し、ゲートを通過させた。

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