二 ガル

 二〇八〇年、九月九日、月曜。

 南コロンビア連邦、ベネズエラ、ギアナ高地、テーブルマウンテン、テプイ。


 男はゲイルの右手の小指を切りとり、男の足に絡んだゲイルのバッグのベルトを切った。ベルトにぶら下がっていたゲイルは叫びながら落下して、エレベーターシャフト側面下部の外枠にしがみついた。

 だが、小指を切り取られた右手に力が入らない。外枠を掴んだ左手が外れて、ゲイルはもんどりうって数階下のシャフト側壁へ落下し、凄まじい音を立てて、エレベーターのガイドレールを支える鉄骨と側壁の間に、左脚と左腕から身体ごと挟まった。

「うわーっ!」

 ゲイルは目覚めた。

 また、同じ夢だ・・・。なぜだ?


 睡眠を促すブルーの光は消えて、モーザがスカーレットに変っている。

「緊急事態か・・・」

 スカーレットの光は、覚醒したゲイルに緊急活動に必要なエネルギーと緊急情報を与えて、意識を高揚させる。

「くそっ!また、俺の坑道だ!」

 突発事故で睡眠を中断されるのはこれで三度目だった。しかし、事故で睡眠を中断されたと思うのはゲイルだけで、他のトムソたちは何も思わなかった。



 ゲイルの隣に、シリコン分子骨格から成る特殊ケラチンシェルのガルが横たえている。ガルを覆うテクタイト装甲と装備がグリーンに光り輝いて、既にエネルギーが充填されたのを示している。


 モーザがスカーレットから様々な色彩に変って、直接、ゲイルの意識に第十三坑道で起きた爆発事故の状況を説明した。

 ゲイルはモーザの光を浴びながら、ガルの下腹部からガルに入った。

「それで、モーザ。生存者は無しか?」

 モーザに話しながら、ゲイルはガルと同化してトムソのガルになった。その間にモーザの説明が終った。そして、完全には覚醒していないガルの無意識領域をさらに覚醒させ、不安を取り除くために、モーザはオレンジからイエローグリーンに明滅している。


 しばらくすると、モーザがグリーンに変った。同時に、睡眠カプセルが開いて、ガルはカプセルを出た。ガルの居住区のハッチが開いた。ガルはモーザに身を委ねて、移動車へ歩いた。



 モーザは施設に固定された、トムソを管理する光であり、空中を浮遊するサッカーボールほどの光球である。疲弊したトムソに各種エネルギーを与えて、生命活動に支障をきたす記憶と意識を排除する。睡眠カプセルは、トムソが口から直接摂取する栄養素の他に、各種無機物質と有機物質を与える。その結果、トムソは活動に適した新たな意識で覚醒する。これらは睡眠中に行われるため、目覚めたトムソに有益な記憶と活力だけが残る。

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