三 監督官

 メサイア・ゴメス監督官を乗せたPVはバスコの岩窟住居から離れ、ドラゴ渓谷の上空を飛行した。

「監督官。ドラゴ渓谷に金属反応がある。周囲に誰もいない。安全だ・・・」

 監視隊のトニオ・バルデス監視隊長が監督官にそう伝えた。

「全機、降下!映像記録を確認しろ!」

 監督官の指示で、三機のPVがドラゴ渓谷の岸辺に降下した。監視隊員の行動は全てPVが自動3D映像記録している。


 PVから降りた隊員が金属反応のある岩陰へ進んだ。近づくにつれて昆虫が増え、腐乱臭がたちこめた。大きな岩をまわりこんだ隊員は、甲殻類のような腕を持つ重武装したヒューマらしき死体を見て茫然とした。

「死体を回収しろ!何を驚いてる?異星体かどうかの判断はあとだ!さっさと現場検証しろ!」

 監督官は大声で隊員たちに指示した。

 バルデス監視隊長が、頭に剣が突き刺さっている男を指さした。

「この岩陰で争い、こいつが三人を殺したみたいだ・・・」

 剣にはグリップを握ったままの腕が二本ついている。男から三レルグ(約三メートル)離れた所に腕のない胴体が倒れている。そこから六レルグ離れた所に首を刎ねられて粒子ビームパルスを胸に浴びた二人が転がっていた。


 バルデス監視隊長が話すように、三人に追われた男が二人を倒したが、残った一人と同士討ちになったと見てまちがいなさそうだ。昨夜から今朝にかけて皮剥事件が二件つづいた。連続している皮剥事件と、この者たちはなにか関係がありそうだ・・・。

「こいつらは、ここまでどうやって移動したんだ?」

 監督官は、四人がどうやってここに移動したか疑問だった。


「アーマーの装備でスキップ(時空間移動あるいは時空間転移、ジャンプとも呼ぶ)したのだろう」

 バルデス監視隊長は男たちの腕にあるアーマーの機能を示した。監督官はバルデス監視隊長の言葉を理解できなかった。

 バルデス監視隊長は監視隊員に指示した。

「バスコとマリーの調査はあとだ。死体を回収して本部にもどる。他に遺留品はないか?」

「何もありません!」

「よし、回収しろ!」

 その瞬間、死体の近くにある大岩が閃光を放ち、轟音とともに崩壊した。

「撤退しろ!PVにもどれ!急げ!」

「撤退しろ!」

 バルデス監視隊長の指示で監視隊員たちがあわててPVにもどった。パイロットはPVを位相反転シールドして岩壁から急発進させた。その間も四人が倒れている周囲の大岩や岩壁が閃光を浴びて崩壊している。


「どこから攻撃してる?」

 監督官が興奮して怒鳴った。

「わからん!」

「探査しろ!もたもたするな!」

「探査してるが、反応がない!」

 バルデス監視隊長がそう言ったとき、右翼上方でPVのシールドが赤く閃光した。

「シールドが破られるぞ!もっと強力にシールドしろ!エネルギーをシールドにまわせ。どこから攻撃してる!」

「探査不能だ!エネルギーをシールドにまわした!」

 シールドの発光が消えた。その瞬間、右翼の先端が閃光を放って溶解しはじめた。

「撃墜される!全エネルギーをシールドへまわせ!」

 監督官があわてている。

「エネルギーをシールドへまわした。推力不足だ。艦が墜落するぞ・・・」

 PVは二発のエアーローターを装備した、横に翼を拡げたようなカージオイド型単翼ロケットジェット艦だ。シールドを破壊された右翼先端は溶解し、注ぎこまれたエネルギーでシールドを再構成するがシールドはあえなく破壊され、PVはドラゴ渓谷の岸に降下した。

 同時に、四人の死体がある岸壁の大岩が、ひときわ大きな閃光に包まれて音もなく一瞬に消失した。


「・・・・」

 PVの外部モニターはいち早く閃光をキャッチし、光学シールドモードで岸壁の大岩が消滅する瞬間をモニターした。監督官とPVクルーはモニター映像に現れた岸壁の大穴に言葉をなくした。

「くそっ、犯罪の証拠を隠滅したぞ!」

 監督官は指令シートでコンソールを叩いて怒っている。

 本当にそうだろうか・・・。隣席の指令シートでバルデス監視隊長は消滅地点までの距離七百レルグを考えた。あの岩壁の消滅区域は半径五百レルグにおよぶ。この降下地点は二百レルグ離れて消滅を免れた・・・。我々は攻撃されたのではない!強制的に待避させられたのだ・・・。


 監督官がヒステリックにバルデス監視隊長を見た。

「手がかりはないのか!」

 こいつはだめだ。私と同じ物を見ながら、状況判断もできぬアホウだ・・・。

 そう思いながら、バルデス監視隊長が答える。

「探査波エコーがない。他時空間からの攻撃だ」

 事実、電磁波による探査に何も反応しない。

「では、あの死んでいた者たちと同じに、この世界にスキップ(時空間移動あるいは時空間転移、ジャンプとも呼ぶ)したと言うのか?」

「それしか考えられない」

 そんなことも考えられないのか、アホウめ・・・。バルデス監視隊長はそう思った。

 バルデス監視隊長に言われ、ようやく監督官は多時空間からスキップ(時空間移動)攻撃されたと気づいた。

「そうか・・・。操縦士。飛行できるか?」

「はい、なんとか・・・」

「本部に帰投だ。隊長。全機に指示しろ」

「了解。全機、帰投せよ」

「了解」

 三機のPVがドラゴ渓谷の岸辺から浮上した。

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