三十 国賓並み警護

 二〇二六年、五月二十一日、木曜、十時

 成田空港は昨年三月の東海大震災の影響は少ない。


 SP姿の特務コマンドが、ボーデングブリッジから通路と到着ゲートのあらゆる箇所に待機して、入国者の身体放射波をスカウターでスキャンしている。入国する旅客は、有名人の入国をSPが警戒警護していると思った。


 オイラーとユリアは、岩崎一等書記官とスザンナたち事務所スタッフと楽団メンバーとともに、SP姿の特務コマンドに囲まれて入国手続きをすませて、何事もなく全員がゲートをぬけ、出迎えた帝都ホテルの係員に先導されて、待機している旅客用大型搬送ヴィークルに乗った。前後に特務コマンドの警備ヴィークルが二台ずつ待機している。


「国賓並みの警護ね」

 前部の座席に着いたユリアが、隣に座るオイラーを見つめた。

「国賓に近いからね・・・」とオイラー。


「公演を依頼したのは、日本政府震災復興省ですから、全員が国賓ですよ」

 岩崎一等書記官は通路を隔てた席に座り、笑顔でオイラーを見た。そして中腰で後部を見て、ホンキー・ターナー・トンク事務所の全員と楽団員に笑顔で、

「後部バーに、軽食と飲み物を用意してあります。くつろいでください。これから、埼玉市の帝都ホテルへむかいます。二時間ほどで到着します」

 といった。


「ありがとうロック、本当に助かるわ」

 岩崎一等書記官の後ろの座席から、シルビアが立ちあがった。

「全員聞いて!のんびりできるのは一週間だよ。何か問題を起こすと、アイルランドと日本の、つまり、FRSEAONとEUの外交問題になるから、わかってるね!」

「わかってるぜ!」

 車内から声がする。


 シルビアの隣でスザンナは思った。

 私の公演は六月六日土曜からだ。六月一日、月曜からリハーサル。それまで各自自由行動だ。いくら注意しても羽目をはずす者がでてくる。

 今回のプロモーターは日本政府震災復興省だ。何かあれば、外交問題になる。誰も羽目をはずさないでほしい・・・。

 公演は六月六日、埼玉。六月十三日、群馬。六月二十日、神奈川。六月二十七日、静岡。七月四日、愛知。七月十一日、帝都。七月十八日、千葉で、七回開かれる。

 七月はテレビ番組収録で、こっちに残るのは私とシルビアとホンキーだけだ。スタッフも楽団も帰国して七月いっぱいバカンスだ。

 オイラーとユリアは私に同行して、私をアシストする。オイラーとユリアが正式に帝都大学へ留学するのは九月。八月に仮入学するが実際は夏休みだ。公演のアシスタントを務めたら、たっぷり報酬を与えよう。テレビ収録後も・・・・。



 旅客用大型搬送ヴィークルが動きだした。

 SP姿の幸田指揮官は、最後部座席からヴィークル内を見わたして、メガネ端末から複数同時映像通信で、検警特捜局特務部本部長の佐伯特捜官に伝えた。

「異常なし、ホテルへ移動する」


「了解」

 検警特捜本局特務部司令室で、佐伯はディスプレイのスキャン映像を見た。

 スザンナ・ヨーク楽団のメンバーとホンキー・ターナー・トンク事務所スタッフに異常は見られない。特に、岩崎が送ってきたスキャン画像で異変があったホンキー・ターナー・トンクとルイス・サイファーに現在は何も異変はない。


 オイラーはユリアの横の席で、後部座席にいるSPを見た。

 SPは声をださずに、顎の骨伝導でメガネ端末に声を伝えている。

 単なる警護連絡には思えない・・・。SPがいるのは、スザンナが国賓級だからではないはずだ・・・。SPの上層部は、マイケルの存在に気づいたのか?もし気づいたなら、マイケルをどうする気だ?


 岩崎一等書記官が、オイラーの考えを中断するように、外の景色を示した。

「ごらんの建設工事は、これまでの住居をまとめて、耐震高層化するためです。下位層は店舗や中小企業にします。空いた土地は緑地や交通網にです。緑地は植物による二酸化炭素固定を行い、高層の建物は側壁までソーラーシステムを設置し、再生エネルギー利用します」


「首都機能はどうするんですか?」とスザンナ。

「交通網を除けば、首都機能は震災後も正常に機能しています。

 災害を想定し、今後は政治機能の全てを標高の高い、地盤が安定した内陸へ移転させる予定です。

 経済機能も内陸へ移りつつありますが、主体は今までのままでしょう。

 問題は宮内庁関連の施設を含めた名所旧跡です」


 ロックは当たり障りないことを話しているが、ホンキーとルイスに感心を持っている・・・。

 オイラーはそう感じたが、岩崎一等書記官が二人を気にする理由はわからなかった。

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