二十九 スケジュールは二人分

 二〇二六年、帝都、五月六日、水曜、十九時。

       モスクワ、五月六日、水曜、十四時。

       ローマ、五月六日、水曜、十二時。

       ワシントンD.C.、五月六日、水曜、六時。


 マルタ神大学大会議室で、ミケーレ・ロードス総長は、

「皆、くつろいで食事してくれ。予定より一ヶ月早く第一段階を終えたので集まってもらった。

 オイラーとユリアはすでに、ここにいる誰よりも、医学と生物学のあらゆる分野に長けている。特に再生医学の知識と経験と意識、組織培養学、分子生物学、移植医学などに知識と経験を得ている・・・・。

 ふたりともよくやってくれた」

 そういってオイラーとユリアを見た。

「はい・・・」

 オイラーとユリアはごく自然に答えた。


「帝都大学の研究活動は九月からだが、先方の受けいれは明日にも可能だ。

 しかし、君たちふたりに、九月までの夏休みを与えようと思う・・・。

 食事後、君たちの同意を得なけれならない手続きを全て行う。今日一日で終る。

 明日から八月末日まで、君たちはどこで過ごそうと自由だ・・・。

 ああ、明日から帝都大学へ行ってもいいのだよ。先方はいつでも受けいれるからね」

 ミケーレ・ロードス総長は、オイラーとユリアに説明しながら食事している。


「叔母が六月から七月にかけて日本で公演し、その後、七月いっぱい日本のテレビ番組に出演するんです。

 僕とユリアは叔母たちに同行して、八月から帝都大学に受けいれてもらいたい。そのように手続きしてください」


「叔母さんの承諾はとれたのかね」

「はい」

「出発は何日かね?」

「今週中にダブリンへ行って、今月二十日に日本へ行きたい。

 食事後、スケジュールを提出しようと思う」

 オイラーは大学の慣例にならって、いつでも休暇中の行動を大学に報告している。今回はユリアがともに行動するため、スケジュールは二人分ある。どちらも同じ内容だ。


「その後、マイケルが叔母さんの所に現れた様子はないか?」

「叔母に連絡したけど、映像表示通信では何が起っているかはわからない。ダブリンに行ったらミケーレに連絡する」

「ああ、そうしてくれ。くれぐれも、マイケルに関して、叔母さんに直接質問せずに調べてくれ。オイラーがマイケルについて知っているのがわかれば、警戒される。実体がわからなくなる」

 ミケーレは優しくいった。言葉に思いをこめて。


「わかってる。僕たちは気づかれないように調べるよ。

 僕たちが調べようとしているのは、もしかしたら、時空間を変異させることができる存在かもしれない」

 オイラーは、心配ない、とミケーレに思いを伝え、スザンナ・ヨークに関する記憶を説明した。

 オイラーの説明にミケーレはつぶやいた。

「そうだな・・・。我々は、我々の目的を果たそう・・・」


 大会議室での食事後、隣室で留学手続きと、夏休みのスケジュールを提出して、オイラーとユリアは留学専用パスポートと身分証明書を受けとった。

 パスポートはマルタ騎士団国のパスポートだ。身分証明はふたりがマルタ騎士団国国民でありマルタ神大学と帝都大学の学生であることを記している。

 この二つがあれば、東南アジア・オセアニア国家連邦とEUを自由に移動できる。


 二〇二六年、五月八日、金曜、夕刻。

 オイラーとユリアは、ダブリンのスザンナ・ヨーク宅に着いた。

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