二十八 私を手伝って

 二〇二六年、帝都、五月四日、月曜、二十時。

       モスクワ、五月四日、月曜、十五時。

       ローマ、五月四日、月曜、十三時。

       ダブリン、五月四日、月曜、十二時。

       ワシントンD.C.、五月四日、月曜、七時。


 マルタ神大学でのオイラーとユリアの専門知識記憶作業は、予定より早く進んだ。

 二人は非公式に、ミケーレから、早めの夏休みが与えられることと、今後の予定について説明を受けた。


 マルタ神大学の学生食堂のテーブルで、オイラーはタブレット端末の、3D映像のスザンナにいう。オイラーの隣にはユリアがいる。

「今週中に一度、そっちに行っていいですか?予定が早くなったんだ。

 九月からの日本の留学に変更はないけど、五月七日から早い夏休みになるんだ。

 三日後からだよ・・・」

 午後の授業がはじまり、この時間の食堂は、講義を受講しない学生が食堂のあちこちにいるだけだ。


「ええ、もちろんよ。今週中にいっらっしゃい。待ってるわ。

 あなたたちに、早く会いたいわ・・・」

 3D映像のスザンナはにこやかにオイラーを見て話している。

「今月末から七月いっぱい、公演とテレビ出演で日本へ行くのよ。

 こちらにしばらくいて、日本に同行をしてほしいわ。

 九月から留学なら、六月と七月は私を手伝ってほしいの。もちろんお礼はするわ」


「わかりました。ユリアに代るね・・・」

 スザンナは僕とユリアに、留学中の滞在費を与えようとしてる。ただ、与えるのは良くないから、口実が必要だと考えてるんだ・・・。


「こんにちは、スザンナ。喜んでひき受けます。よろしくお願いします。

 こちらの教授会に予定を連絡しますので了承してください」


「もちろんよ。かまわないわ」

 スザンナは、オイラーの休暇時に提出した書類を思いだした。過去に何通も、オイラーのダブリン滞在に関する書類を書いている。最近は、オイラーとユリアの滞在に関する書類だ。あの書類全てが、十五歳若い、私の筆跡の書類に代ったのだろうか・・・。


「オイラーと仲良くしてる?」

 スザンナは、3D映像のユリアにほほえんだ。可愛い娘だ。オイラーを愛しているのがよくわかる。私になかった記憶だ。このユリアとオイラーの思いを大切にしてあげたい。


「はい、とっても!」

 ユリアの顔がほんのりと赤い。

「早く二人でいらっしゃい。待ってるわ」

「はい」

「では、またね」

 スザンナは、セキュリティモニターの映像表示外部通信を閉じた。


 スザンナは、できるだけオイラーと長くすごすため、オイラーとユリアを同行したいと考えていた。実際にスザンナの気持ちを動かしたのはスザンナ自身の心だけではなかった。 それは、気づかぬうちに彼女の心に意識内侵入して精神共棲した、ルキエフ(マイケル・エンゲル・モーム、ミカエル)の意識だった。

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