二十七 隔離警護

 二〇二六年、四月二十二日、水曜、十時。

 政府から三島を通じて理恵と省吾に、理恵の出産のため周囲に気づかれずに二人で政府専用病院に入院するよう指示がでた。

 理恵に異常があるのではない。クラリックの攻撃を懸念し、洋田評議委員長(マリオンの父ヨーナ)が神尾法務大臣を通して下した指示だ。

 一般病院に入院して、クラリックの攻撃を受ければ、一般患者に犠牲がでる可能性がある。国家連邦政府からの指示に強制力はないが、現状は深刻なようだ。


N市W区の自宅で省吾は理惠にいう。

「理恵といっしょなら何所でもいいよ。理恵はどうしたい?」

 俺は理恵といつもいっしょにいたい。愛情は状態維持、存在空間の維持だ・・・。

 タブレットパソコンがあれば、俺の仕事は何所でも可能だ・・・。

 最近は「オーブ」の内容を徐々に現実に近づけている。とはいっても場面設定は他時空間で、登場人物は変えてある。読んだだけで現実と考えるのは不可能だ・・・。


「私も、先生といっしょならかまわないよ」

 理恵の頬が赤い。何を考えているか理解できる。この家での状態を維持したいのだ。


「病院へ引っ越したのを気づかれずに、出版社の者たちに連絡するのは可能か?それと、この家はどうなる?」

 省吾は三島に訊いた。

「タブレットパソコンを通じて連絡すればいい。プロミドンが、省吾の自宅から通信したように処理する。ここでは二人のレプリカン、ショウゴとリエが暮らす・・・」

 三島特別警護班指揮官は平然としてそういった。


「二人は生きてたのか・・・。

 了解した。引越そう・・・」

「よし、決まりだ。指示に従う、と連絡する。

 病院にここと同じ部屋を用意した。二人はタブレットパソコンだけ持って引越してほしい」

 三島は表情を変えずにそういった。


「引越しは、いつだ?」

「まだわからない。指示待ちだ・・・」

 三島はスカウターを操作し、

「二人とも指示に従います」

 といって回線を閉じ、忠告した。

「二人に注意事項だ。

 スザンナ・ヨーク本人はもちろん、関係者を見てはならない。

 テレビも、その他の映像でもだ。もちろん、コンサートにも行ってはならない・・・。

 ルキエフは、映像信号に存在する亜空間を使い、亜空間転移伝播する・・・。

 映像通信を通じて移動した事を忘れてはならない」


「わかった・・・」

 理恵と省吾は三島にうなずいた。

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