十三 スター・ウォーズ計画㈡

 二〇二五年、十二月十二日、金曜、十八時。

 N市W区の自宅に、理恵が帰宅した。

「お帰り。朝鮮のミサイル、理恵が話したとおりになった!」

 オープンキッチンで、省吾は赤魚を三枚におろしながら話した。

「ミサイル攻撃に対処して、良かったね!」

 理恵は、オープンキッチンの洗面所で手洗いと嗽と洗面をすませ、

「着換えてくるね!」

 寝室へ行った。


 しばらくして、室内着の理恵がダイニングテーブルに着いた。

「すぐご飯にするよ」

 省吾は赤魚の骨の部位を軽く炙って臭みをぬき、少量の水が入った平鍋に入れて、弱火で加熱した。

「うん!見てていい?」

「ああ、いいよ」

 残りの切り身から骨をぬき、塩胡椒で下ごしらえして、温めたフライパンに少量のマヨネーズを敷き、切り身を焼いた。


『マヨネーズを使うんだ。卵黄とオイルと酢酸のコロイド・・・』

 理恵は省吾を見ながら省吾の思いを感じた。つまり心で省吾の思いを受けとめて精神空間思考していた。


「こうすると、油を使うより味がマイルドになるんだ。マヨネーズの材料は、サラダオイルと卵黄と酢だからね・・・。

 切り身が焼けたら、フライパンは洗わずに平鍋の骨の出汁をいれ、て煮つめてスープにする。味付けは塩コショウだけ。魚の旨味がでるよ」

『マスタード入りのマヨネーズは?もっとあうかもしれないよ・・・』

「マスタード入りは、加熱でマスタードの風味が飛ぶんだ・・・。

寒くないか?腹がすいただろう?すぐできるからね」

「床暖房が利いて暖かだよ。お腹はすいてるよ・・・」


「よし、できた!」

 焼いた切り身をフライパンから皿に移して理恵の前に置き、箸を渡した。

 空いたフライパンに骨の出汁をいれ、

「これを煮つめて、塩コショウで味を調え・・・、完成だ・・・。そら、スープだ」

 煮詰めたスープを切り身にかけた。


 理恵は箸で赤魚の切り身を一口食べた。

「これ、おいしい!」

 省吾はフライパンで野菜を炒めながら、

「味噌汁は、野菜炒めの材料の残りで、具沢山。大根の葉もブロッコリーの茎も、食べやすい大きさに切って、フリーズド粉砕した。食べやすいよ」

『氷結による細胞膜の破壊、噛み砕くより効果的ね・・・』


 省吾は、湯が沸いた鍋に、いったん凍らせて解凍した野菜を投入し、出汁の素と味噌を加えた。



 テーブルに、野菜炒めと味噌汁と赤魚の焼き物、煮物、ポテトサラダ、ご飯が並んだ。

 理恵は箸で野菜炒めをつまみ、口へ運んでいる。

 省吾も野菜炒めを食べながら、ミサイル迎撃のニュースに触れた。


「理恵が話したようになったから、三つの国家連邦とEUが統合して、連邦統合国家が成立するよう、日記に書いたよ。大国の存在が抑止力になるからね」

 理恵は、赤魚の焼き物に箸を伸ばして、答える。

「朝鮮と中国は何とかなるよ。イスラム独裁政権も、イスラム武装集団も、民主化するのに時間がかかるよ」

「宗教界にクラリックが意識内進入してるのか?」

 省吾は茶碗をとってご飯を食べた。


「クラリックが宗教界を支配していたのは、有史前から古代だよ。

 現在の宗教が出現したあと、クラリックは経済界を支配してきた・・・」

「宗教指導者に精神共棲して、イスラム社会を民主化できないか?」


「急激な思想偏向は社会不安を引きおこすよ。

 イスラム社会の乱れは、政治上宗教上の独裁政権と、宗教集団を騙る武装集団のせいだよ。武装闘争を果たせば、武装集団は人民支配に宗教を使うだけだよ・・・。

 宗教指導者に精神共棲して指導しても、武装集団の思想偏向は難しい。

 武装集団の指導者に精神共棲すれば、我々精神エネルギーマスが劣悪な精神によって大きなダメージを受ける。劣悪化した精神エネルギーマスは元のニオブにもどれないわ。

 ご飯、おかわり・・・」

 理恵が茶碗を省吾に差しだした。


「イスラム諸国へ、世界の民主化と民主社会を報道するのは?」

 省吾は理恵の茶碗にご飯をよそった。

 理恵が、煮物の里芋を食べながら答える。

「いい手だけど時間がかかるよ・・・。

 一つだけ方法があるよ」

「何?」

 省吾はご飯をよそった茶碗を理恵に渡して、自分の茶碗をとった。

「情報収集衛星で、独裁政権と武装集団を思考記憶探査して、記憶消去パルスと、ビーム径を超極細化したレーザービームを使うの・・・」

 理恵は茶碗から御飯を口へ運ぶ。

 省吾は驚いて赤魚に伸ばした箸をとめた。

 理恵は、いや、マリオンは、情報収集衛星のレーザー兵器で独裁政権と武装集団を一掃する気か?


「驚くことないよ。情報収集衛星の自己防衛機能を活かすだけだよ・・・。

 先進諸国は自国利益を優先して、イスラム諸国の民主化と近代化を支援した。そして、イスラム社会は反政府武装集団の攻撃を受けて破壊した。

 武装集団を支持する一部の宗教指導者と、武装集団を支持する反先進諸国派は、先進諸国がイスラム諸国の利益を奪っている、と主張して、イスラム社会を扇動した・・・。

 その結果、イスラム社会は先進諸国に反発の目をむけた。

 それらは確かに事実だけど、それは口実だよ。

 武装集団には犯罪者が多い。イスラム諸国から犯罪者としてあつかわれている者たちと、一部の指導者が、自分たちの支配国家を創りたいだけなの・・・。

 人民支配の思想は、これまでクラリックが採用していた思想だよ。

 まだクラリック思想が残存してる。阻止した方がいい。他時空間へ幽閉するか、消滅させるしかないよ・・・」

 理恵は野菜炒めと赤魚の切り身を口へ運んだ。子供たちの食欲は旺盛だ。


「抹殺するのか?」

 省吾はまたまたは驚いて理恵を見た。

「抹殺するのは思想と武器。人間じゃないよ」

 省吾は口笛を吹くように息を吐き、箸を動かした。

「驚くじゃないか・・・。レーザービームも、思考記憶探査ビームと記憶消去パルスも、シールドされてない空間にしか使えないぞ」

 

 三機の情報収集衛星から、同時到着の特殊電磁パルスを発し、一定空間内にいる人間の記憶を、特殊電磁パルスの干渉波で消滅できる。

 だが、朝鮮にしろ中国にしろ、政府機関から政府関係者の自宅まで、すべての建造物は電磁遮蔽ネットが内部に整備され、関係者の行動区域は防御エネルギーフィールドが張られている。政府関係者の全行動区域がシールドされ、情報収集衛星による思考記憶探査も記憶消滅パルス照射も不可能だ・・・。


「イスラム武装集団の行動域はシールドが手薄だから、記憶を消去して武器を破壊すれば、ただの集団。何もできなくなるよ」

 理恵は食べながらそう答えた。

 省吾は思わず箸をとめた。

「情報衛星センターの記憶に残らないか?」

「プロミドンが、情報収集衛星を直接コントロールする。記録は残らないよ」

 理恵は話しながら食べている。


「それなら、他国の、民主化を妨げる組織の兵器を破壊するのは?」

 省吾は理恵を見つめた。理恵も箸をとめた。眼を見開いて省吾を見ている。

「それ、いいね!東南アジア・オセアニア国家連邦が宣戦布告したとみなした国の兵器をすべて破壊すればいいよ!」

「相手国に気づかれないか?」

「シールドの間隙をついて、兵器の制御システムをナノ単位にしぼったの最細のビームで破壊するの。兵器に、見てわかるような痕跡は残らないよ・・・」

 理恵は茶碗を置いた。兵器の外装を撫でるように、目の前で手を水平に走らせている。

「こういうことは気にしなくていいよ。

 これまで合衆国はスター・ウォーズ計画を実行してきたの。マスコミは、朝鮮が発射したミサイルをイージス艦のミサイルが迎撃した、と思ってるけど、実際は、地球防衛軍が情報収集衛星のレーザービームで撃墜したの」


「なんてことだ・・・」

「情報収集衛星のレーザービーム攻撃を日記に書いてね」

 理恵は呆然とする省吾を見て、茶碗を手にとり、精神空間思考した。

『だいじょうぶだよ。兵器の破壊で支配層のネオロイドとペルソナとレプリカンが壊滅する。ネオテニーはいないよ・・・』

「わかった。プロミドンで情報収集衛星のコントロールプログラムを変える。

 予定は来年三月十一日だ」

『非民主国家の支配層全てがクラリックなら、議会会場にミサイルが落ちるだけでいい。それですべて解決する・・・』

「うん」


 省吾が使用するモーザは、素粒子信号を時空間転移伝播させる。ニオブとトトにも感知できない、時空間転移伝播だ。素粒子信号はスキップする。そして、プロミドンも素粒子信号を発して交信している。

「せんせい、今度の水曜に病院へ行く。警護の人たちに伝えてね」

 理恵の目が輝いている。

「わかりました」

省吾は笑顔で答えた。

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