四 尋問、誘導、壊滅
四車両のPVがステルス解除してテレス連邦共和国軍ダナル本部の、コンバット(テレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員)専用ポートに着陸した。
PVを降りたマリーたちを出迎えて、アグネス・リンレイ准将がマリーに敬礼した。
「容疑者はどうした?」
マリーはアグネス・リンレイ准将を睨むように見てコンベアーへ歩いた。マリーとカールとクラリス、そしてコンバット三名が、ポートからコンベアーで共和国軍ダナル本部施設へ移動した。六名のコンバットが緊急時に備えて二車両のPVに待機した。
「指示通り、アレックス・フォクスレイ中将は監禁してあります。
ニールス・ランド少佐とマコーレ・ジョナサン、ミルコ・ロドノエフは逃亡しました」
アグネス・リンレイ准将はマリーに対して慇懃な態度を崩さない。
テレス連邦共和国軍警察の立場はテレス連邦共和国軍より遥かに上だ。共和国軍ダナル本部総司令官アレックス・フォクスレイ中将が、テレス連邦共和国軍警察総司令官マリー・ゴールド大佐の要請を無視するのは反逆行為だ。
アレックス・フォクスレイ中将が共和国軍ダナル本部を指揮していれば、テレス連邦共和国軍ダナル基地とテレス連邦共和国軍警察フォースバレーキャンプとの交戦になりかねなかった。
『クラリス。思考記憶探査してくれ。連邦共和国軍警察ダナルキャンプのコンバットはどちらに従う?軍か?我々か?』
『軍警察ダナルキャンプは、マリーの指揮下です』
クラリスがマリーの思考を読んで伝えた。
『ありがとうクラリス。これで安心だ』
マリーが、アグネス・リンレイ准将に強い口調で言う。
「アーマー(テレス連邦共和国軍装甲武装兵士)はいつから、コンバット(テレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員)の指示を無視するようになった?」
「テレス連邦共和国軍の士官は兵士ではありません」と准将。
「いいか。肝に命じておけ!
我々コンバットの指揮下にあるテレス連邦共和国軍は、将官であろうと佐官であろう尉官であろと、アーマーの一兵卒に過ぎない。その事を忘れるな。
私の命令を無視したアレックス・フォクスレイ中将は即刻解任して階級を永久剥奪し、脳内インプラントを徹底的に破壊しろ。状況は、私がこれからじかに尋問して判断する」
「わかりました。ただちに手配実行させます」
准将はその場でフォクスレイ中将の尋問開始を指示した。
公開尋問室の椅子に、アレックス・フォクスレイ中将が座っている。拘束する物は何も無い。
別室に、アレックス・フォクスレイ中将の3D映像が現れた。周囲の空間に彼の透過3D映像が現れて、頭部の脳内インプラントが局所電磁パルスで破壊される経過を示している。インプラントが機能を失うと、フォクスレイ中将の3D映像に近いコントロールポッドで、マリーは3D映像のフォクスレイ中将に尋問を開始した。
公開尋問室のアレックス・フォクスレイ中将の横にマリーの3D映像が現れた。
「私の要請を拒否したのはなぜだ?」
「・・・・」
「答えねば、どうなるかわかっているな?」
「・・・」
アレックス・フォクスレイ中将は黙秘している。
『完全に破壊してくれ』
別室のコントロールポッドで、マリーは、隣りのコントロールポッドにいるクラリスに精神波で(心の思考を伝えて)指示した。
『了解』
フォクスレイ中将の透過3D映像から脳内インプラントが消失した。
『クラリス。私の指示に従わなかった理由を思考させてくれ』
『わかりました』とクラリス。
フォクスレイ中将の透過3D映像頭部で、もう一つのインプラントが発光した。
テレス連邦共和国軍の士官たちに装着されている、この第二のインプラントの存在を、彼らは知らない。今も、アグネス・リンレイ准将は席を外している。第二のインプラントを起動できるのは、マリーと精神波でシンクロできるクラリスだけだ。
第二インプラントを通して、マリーの指示に従わなかった理由を、クラリスはフォクスレイ中将に思考させた。
『評議委員長とコンバットのクソ野郎の指示に従うことはない。
惑星ユングは我々カプラムの物だ。ウィスカー・オラール元帥の志を遂げるまでだ。
私は中将だ。逃げも隠れもせぬ。コンバットのマリー・ゴールド大佐ごときは、我が足元に平伏させてやる』
フォクスレイ中将は明確にそう思考した。
コイツ、立場がわかっていない。テレス連邦共和国軍は過去のテレス帝国軍ではない。リンレイ准将に通達したように、テレス連邦共和国軍は我々コンバットの指揮下にある。
士官であろうと、我々コンバットが指揮する一兵卒に過ぎない。中将がテレス帝国軍の残党なら、残党全員を集めてもらうまでだ・・・。
『クラリス。フォクスレイ中将と部下はオリジナルか?』
『全てレプリカン(クローン)です』
『一時間後に、フォクスレイ中将の息がかかった部下を、全員、ダナル軍事基地のポートに集めるように指示させろ』
マリーはそうクラリスに命じた。
『了解。
フォクスレイ中将が脳内インプラントで通信できるように、公開尋問室の位相反転シールドを解除します』
クラリスはマリーの意向をフォクスレイ中将の脳内インプラントに伝えて、公開尋問室の位相反転シールドを解除した。
公開尋問室のフォクスレイ中将が第二インプラントを通じて指示を発した。
『ニールス・ランド少佐。
部下を全員招集し、武装してダナル軍事基地に急行してくれ。
私は残っている部下たちを集めてダナル軍事基地の格納庫に待避する』
今、クラリスが通信先を探知したら、フォクスレイ中将が尋問中だと発覚して、連邦共和国に反逆しているフォクスレイ中将の部下たちを取り逃がしてしまう。そのため、通信先の探査は行えない。
ニールス・ランド少佐から、中将のインプラントに返信が来た。
『了解しました。
〇九〇〇時。ダナル軍事基地航宙ポートに戦闘搬送ヴィークルで降下します』
通信が切れた。
同時に、フォクスレイ中将の意識が無くなった。
マリーはクラリスに質問した。
『クラリス。ランドの対応を頼む。バレないように、全員を消去してくれ。
エルドランからクラッシュを分離してたのはロドノエフの自宅だけか?』
『今のところロドノエフの自宅だけです』
『了解。では、消去を実行してくれ』
『わかました』
一時間後。
情報収集衛星防衛システムの攻撃により、ダナル軍事基地の航宙ポートの格納庫が、緊急着陸した十五機の戦闘搬送ヴィークルとともに壊滅した。
その後、共和国軍ダナル本部とダナル軍事基地に、三百八十一名のテレス帝国軍のレプリカン兵士(テレス帝国軍の残党)がいたと判明して、全員が消去された。
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