二 たった二人の要塞
東京まで行くはずの新幹線が上野駅で緊急停車した。説明がないまま、乗客は列車から降ろされた。駅から出された俺は、何が起こっているか、理解できなかった。
上野駅の交番前を歩く俺は、いきなり交番に引きこまれた。引きこんだ女はエルと呼んでくれといって、俺に拳銃FN HiPerを二丁と、大量のマガジンが装着されたベストとベルトを装着させた。
「何だ?どうした?」
「説明はあとだ!これからヒューマノイドが押しかけてくる。軍隊は間に合わない。我々が対処する。あそこを見ろ!」
エルが指差す先に、ビルに立て籠ったヒューマがいる。皆、拳銃FN HiPerを二丁持ち、大量のマガジンが装着されたベストとベルトを装着している。
話しているうちに、ヒューマノイドの波が上野駅に近づいた。
「奴ら、駅を占拠して、交通手段を奪う気だ。
奴らが近づいたら、奴らの頭を撃て!
来たぞ!撃てえっ!」
交番はヒューマノイドの波に立ち向かう、たった二人の要塞と化した。
交番には、防弾のシャッターが下ろされ、銃眼と銃撃用に開かれたシャッターの一部から外が見えるだけだ。
エルは、近づくヒューマノイドの頭を次々に撃った。撃たれとヒューマノイドの頭はスイカ割りのスイカの如く、砕け散った。
銃撃は二十分くらい続いた。
「奴ら、侵略の方法を変える気だ。
くそっ、どこかに指揮官が居るはずだが、ここからは誰が指揮しているか見えない!」
エルは、銃撃用に開かれた交番のシャッターの一部分から、外を見ている。興奮しているが、動揺はしていなかった。
その後、交番の外は静かになった。
俺の両手は銃のグリップを握って強ばったままで、腕が銃を構えたままのように固まっている。
交番のシャッターの一部から外を見た。周囲は頭を吹き飛ばされたヒューマノイドだらけだ。さぞや街中に異臭が充満しているだろうと思っていたら、頭のないヒューマノイドが倒れたままの姿勢で這うようにして移動し、所々で一塊になった。
「何だあいつら。変身でもするんか?」
俺は思いついたままを言った。
「わからん。見てのとおり、ヒューマノイドは手足を吹き飛ばされてもプラナリアの如く再生する。頭を吹き飛ばせば、再生はしない。
今までにわかってるのはそれだけだ。
だから、頭を無くした奴らがこれから何をするのか、私にはわからん」
エルはそう言って外を見ている。
ヒューマノイドが集って、1つの大きなヒューマノイドになるのかと思ったが、そうはならなかった。ただ集って塊になっているだけだった。
「なんで、ここに出てきた?」
突然、エルが俺に言った。
「なあ、何をするために出てきた?」
エルは水のペットボトルを俺に投げた。もう一本のボトルのキャップを開けて水を飲でいる。
「仕事で東京から神田へゆくつもりだった。
あいつらは何だ?」
「都内の水道水に何かが混入した。飲んだのが奴らだ」
「浄化装置があるだろうに・・・」
「これを防げるか?」
エルがタブレットを見せた。そこには搭乗兵器のような物体があった。
「何だこれ?アニメの画像か?」
「ここからは、私の推測だ。
これは機動兵器だ。ヒューマの体内に入って脳に集り、ヒューマを支配する。支配されたら、ヒューマは元には戻らない」
「エイリアンか?」
「そうだと思うが、国防省も警察省も科学技術省も、誰もそんな事を認めない」
「この画像でもか?」
「この画像自体を認めないんだ。エリアンが微細な存在だなんて思っちゃいないんだ。なぜかはわからん」
「この画像を誰が撮った?」
「私の兄だ」
「何者だ?」
「理科教師だ。また来たぞ!」
エルは交番の正面に現れた奴らの頭を銃で吹き飛ばした。
奴らヒューマノイドとヒューマを区別するのは目だ。奴らの目は瞳孔が開いて真っ黒だ。表情がない。動きが緩慢だ。俺でも奴らの頭部を撃てる。そして、奴らの血液など体液は緑色だ。
「第二波が来たぞ。撃てっ!」
エルがそう言っている間に、周囲のビルから銃声が響いた。こんな事なら、どうして機関銃を使わないんだ?
俺がそう思ったら、エルが言った。
「接近戦にマシンガンは不向きだっ。来たぞ!撃てえぇっ!」
俺とエルは、交番に群がってくるヒューマノイドたちの頭を撃ち続けた。近くのビルの入り口にあるセキュリティーゲートでも、銃声が響いている。
「ヒューマノイドの数が多すぎる!手榴弾はないのか!?」
「バトルアーマーに装備されてるぞ!良く見ろ!
だが、BB巡航弾(巡航ミサイル型手榴弾)でヒューマノイドの頭が吹っ飛ぶとは限らんぞ」
「何だって!?」
エルが何を言っているのか俺はわからなかった。
「てめえの胸に、手を当てろっ!」
俺は胸に手を触れた。仕事用のスーツを着ていたと思っていたオレの手に、戦闘気密バトルスーツと、その上に装着したバトルアーマーが触れた。
これは何だ?
『話すより精神波で伝えるのが早い。
バトルアーマーの装備は、
MA24改多機能KB銃、
MI6粒子ビーム拳銃、
超小型ミサイルP型迫撃弾、
超小型多方向多弾頭ミサイル・リトルヘッジホッグ、
巡航ミサイル型手榴弾BB巡航弾、
レーザービーム銃、
コンバットレーザーナイフ、
スカウターだ。
バトルアーマーには、それらと防御エネルギーフィールドのシールドを管理するAIがすでに装備されている。これでバトルアーマーの重量は30kgを越えるが、AIの制御で実際の重さも形もふだんは感じない。
わかったか?』
『・・・』
『わかったかあっ?』
俺は何を言われているのかわからなかった。
『当初はAIが管理してスカウターにヒューマノイドを知らせるはすだったが、そんな事では間に合わないから、電導有機質のマイクロコンピューター・脳内インプラントを装着した。
我々は精神波で物事を感知してる。
わかったかっ?わかったら、撃ちまくれっ!』
俺はエルの説明で、身体に装着されている戦闘気密バトルスーツとバトルアーマーと脳内インプラントを理解した。
バトルアーマーに内蔵されたAIにによって、バトルアーマーと装備自体がステルス状態に保たれ、しかも重量をも制御している。
エルが言うように手榴弾で頭が吹っ飛ばなければ、ヒューマノイドは直ちに再生する。頭を吹き飛ばすのが最良の手段だ。
『理解した!』
俺は脳内インプラントを通じてエルに伝え、拳銃FN HiPerを撃ちまくった。同時に、脳内インプラントで、俺の消えている記憶の全てを知った。その時はそう思った。
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