二 惑星イオス 皮剥事件

 調査巡航戦艦〈スティング〉のブリッジに、AIクピが送った、惑星イオスにおけるアイネクの行動記録3D映像が現れた。



 コンラッドシティは、リナル銀河、カオス星雲、リオネル星系(恒星リオネル)、惑星イオス、コンブロ大陸、コンラッド州のドラゴ渓谷沿いにあるの大きな市だ。


 深夜〇一〇〇時。

 ドラゴ渓谷ホワイトバレーのサンライズトンネルを抜けたサフガルド橋の道路は道路照明に照らされて明るかった。

 トンネルを抜けたサフガルド橋の袂の道路端に、ヒューマの形のままの衣類がある。靴もある。頭部には長い髪がついた肉片付きの頭皮がある。照明に照らされたタイトなスーツの中に下着がある。下着の中に、陰毛がついたままの皮膚そのものがある。

 現場検証に立ち会う若い監視隊員と若い検死官が不快な表情でその場から走って離れた。路側帯の外へ行って、吐いている。

 無理もない。髪がついたままの頭皮と陰毛が付いた陰部の皮膚を目の当たりにしたのだ。しばらくはレアのレビンステーキやバロムステーキは食えないだろう。



 これまで同じような事件が続いたが、被害者の身体は見つかっていない。こんな遺体のない死体と思われる状態で遺留品が発見されるのは四度目だ。どれも被害者は女だ。服装から判断して二十代から三十代、やや肥満気味だ。


「遺留品を本部へ運んでくれ!」

 監視隊長は検視隊長と検視官に指示した。

 女の検視官はポリ袋に入った遺留品を蓋付きの小形コンテナに入れて蓋を閉じた。何かが周囲にいる気配を感じて辺りを見まわすが、後部ゲートが開いたエアーヴィークルと検視隊長と本人の他に二名の検視官がいるだけだ。


 誰かが見てる。ただ見てるんじゃない。狙ってる・・・。

 女の検視官は表現できない恐怖を感じて、思わず身震いした。

 心配する男の検視官が女の検視官を見つめた。

「誰かがこっちを見てる。あんた、何も感じないんか?」


 エアーヴィークルはサンライズトンネルを抜けたサフガルド橋の袂の道路端に、橋の方を向いて待機している。周囲は山肌を切り通したコンクリートの壁で囲まれ、道路はロードヴィークル専用の四車線だ。検視隊のエアーヴィークルの背後で、検視官と検視隊員たちが鑑識道具と遺留品をエアーヴィークルに積んでいる。


「見てるって何処からだ?トンネルの上からしか、こっちを見れないぞ?」

 男の検視官はトンネルの上の山を見あげた。山の樹木の緑がサフガルド橋の道路照明灯の光に浮きあがって見える。

「上からじゃない。私のまわりから見てる。まわりを動きまわってる。あぁぁっ」

 恐怖に駆られていた女の検視官の表情が和らいだ。


 検視隊長は、ふたりがあと一言でも私語を口にしたら注意しようと思いながら、検視官の作業を監視した。



 穏やかな表情になった女の検視官を見て、男の検視官は、なんだ、なんでもないんだな、と思ったその瞬間、立ちあがった女の検視官が頭のてっぺんから何かに押しつぶされたようにその場に潰れた。

「あっ・・・」

 男の検視官と検視隊長にはそう見えた。同時に、何が起ったか理解した男の検視官は、恐怖に震えた。


「監視隊長!検視官が皮を剥がれて消えた!」

 検視隊長は震える手で大型のピンセットを掴んだ。潰れた女の検視官の着衣を確認した。

「立ったまま、身体だけ消えた・・・」

 監視隊長と検視隊長は、女の検視官の制服とその下に着ていた衣類の中から、髪の毛や陰毛、体毛がついたままの生皮をピンセットで引きだした。

 女の検視官は二十七歳。中肉中背。小太りだ。これまでの遺体のない状態で遺留品が発見された四件の皮剥事件の被害者と同様の年齢と体型だった。

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