九 テレス帝国壊滅

 グリーゼ歴、二八一五年、十一月十六日、夜。

 オリオン渦状腕外縁部、テレス星団テレス星系、惑星テスロン。

 首都テスログラン上空、静止軌道上、戦艦〈オリオン〉。



〈オリオン〉は艦体を多重位相反転シールドに包んでステルス状態のまま、テレス帝国の首都テスログラン上空の静止軌道上にいる。

 ステルス状態にある今、4D探査(素粒子信号時空間転移伝播探査)を除けば、百メートル以内の間近で直視しない限り、電磁波探査では見つけられない。


〈オリオン〉のコントロールブリッジに隣接したホールに〈オリオン〉が捕捉した4D映像に、首都テスログランのテレス帝国政府周囲に張られた多重位相反転シールドが現れた。

 やはり、帝国の前皇帝ホイヘウスは、ニオブのヘリオス艦隊が所有していた円盤型小型偵察艦のテクノロジーを使って防衛態勢を確立した・・・。

 マリーはそう確信して、攻撃を説明した。

「明日未明の攻撃は東西の皇帝の翼だ。

 攻撃と同時に、皇帝と皇女の執務室を〈ウイング〉ごと、東西の皇帝の翼から分離する」

 今、マリーの精神と意識を支配しているのは、精神生命体ニオブのニューロイドのJだ。


「緊急事態です。

 首都テスログラン近郊の軍事施設から、艦隊がスキップしました」

 PDはおちついている。緊急事態という表現はなにか奇妙だ・・・。

「でも、緊急は緊急だよ。

 ネエ、どう対応するの?

 J!どうするの?」

 マリーの精神思考を読んだトルクンのPeJが、マリーの肩ではしゃいでいる。


「艦隊が攻撃したら、ヒッグス粒子弾を放て!

 惑星テスロンの全テクノロジーと、皇帝テレスと、前皇帝ホイヘウスの血を引く者と、ディノスたち全てを消滅してくれ!」

「了解しました。オリオン国家連邦共和国代表の総統にして戦艦〈オリオン〉の提督として、戦闘被害を最小限に留める的確な判断です。

 艦隊がレーザパルスと粒子ビームパルス、各種ミサイルを発射しました。

 本艦はシールドで守られています。

 ただちにヒッグス粒子弾を発射します」

 PDがそう伝えた。



 ロドス防衛大臣の私軍ロドス艦隊は、レーザーパルスと粒子ビームパルス、そしてありったけの各種ミサイルを放って、直径四十キロメートルの巨大攻撃用球体型宇宙戦艦〈オリオン〉に接近した。だが、ロドス艦隊は、〈オリオン〉が発した一発のヒッグス粒子弾を浴びて一瞬に消滅した。さらに、数発のヒッグス粒子弾により、惑星テスロンの全兵器と武器、全テクノロジーと、前皇帝ホイヘウスの血を引く者と、ディノス全てが消滅した。


 首都テスログラン郊外のテレス帝国国防総省、テレス帝国軍司令本部の暗闇の中で、オラールは呟いた。

「なるようになった。これで惑星テスロンは未開の惑星だ・・・」

 予定どおり惑星テスロンとテレス星団の新時代が始まる・・・。

 トムソやニオブを利用するとは、やはりドレッド・ジョーはカプラムのニュカムだけのことはある。今後、ジョーにはカプラム自治国を率いてもらい、私のテスロン共和国の一員として重要な役割を果たしてもらおう・・・。

 しばらく休暇をとって、今後の政策を考えねばならぬ・・・。

 オラールは暗闇の中で作戦司令部を思念波探査した。司令本部の作戦司令室にはオラールの部下の作戦士官たちがいる。


「オラール元帥、指示をお願いします。全員がこの司令本部の空間を認識しています」

 作戦司令部参謀長のアトラス・オラール中佐が思念波で伝えた。

「中佐、全員に十日間の休暇を与えろ」

 オラールは思念波でそう指示した。

「了解しました。

 全員、十日間の休暇だ!十一日後にここに集合してくれ。以上だ」

「了解しました!」


 作戦司令部から士官たちが去っていった。

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