八 テレス帝国議会

 グリーゼ歴、二八一五年、十一月十六日、夜。

 オリオン渦状腕外縁部、テレス星団テレス星系、惑星テスロン。

 首都テスログラン、テレス帝国政府テレス宮殿。



「なんたる失態!なんたる醜態!

 やはり、この巨大戦艦は前皇帝が気にしていた〈オリオン〉でしたか!

 指揮しているのは〈オリオン〉の提督、オリオン国家連邦共和国代表の総統Jです!

 緊急議会を召集して、対処しなさい!」

 執務室の皇帝テレスは、情報収集衛星が捕捉した3D映像を見て、ロドス侍従長に指示した。3D映像に現れた戦艦は、直径四十キロメートルの巨大球体型宇宙戦艦だ。


「オラール中将!よくぞ知らせてくれました!感謝します!

 オラール元帥と呼びましょう!

 オラール元帥主導で帝国議会を指揮し、この戦艦を処分しなさい!」

 皇帝は3D映像に現れたテレス帝国軍総司令官ウィスカー・オラール中将にそう指示した。

「了解しました。陛下」

 オラールは慇懃に御辞儀している。



 緊急招集されたテレス帝国議会議場の空間に、巨大戦艦の3D映像が現れた。

 3D映像で帝国議会に緊急招集されたデルフォンヌ・ロドス防衛大臣は、戦艦の3D映像に言葉を無くした。

 ロドスは皇帝の側近カッツーム・ロドス侍従長の遠縁で、オラールとは公私ともに犬猿の関係だ。


 ロドスは執務室で3D映像回線を停止した。

「総統Jに計画を読まれるなんて有り得ん!そう、思うだろう!」

 ロドスはヤム・ミム大臣補佐官にそう怒鳴った。

〈オリオン〉は小惑星規模だ!とてつもなく巨大だ!早急に帝国軍を派遣して戦艦〈オリオン〉を破壊せにゃならん! 

 ロドスは3D映像回線の停止を解除した。


「あれが惑星テスロンに来ているのに、オラールはなぜ帝国軍を出動させんのじゃ?」

 ロドスはテレス帝国議員たちに3D映像で怒り狂った。


「惑星ユングに軍事侵攻が可能だと皇女に提案して、皇女に惑星ユング政策を続けさせ、失策を理由に、皇女の幽閉を皇帝に持ちかけたのは、ロドス防衛大臣だったな。

 おかげで内乱を嗅ぎつけて訪問者が来た。

 帝国軍情報機関によれば、あれはニオブのニューロイドJが指揮するトムソの戦艦〈オリオン〉だ」

 オラールは議会議場で冷静に発言している。

「攻撃の第一陣は防衛大臣に行ってもらおう!

 大臣の私軍を注ぎ込んで、戦艦〈オリオン〉の火力を判断すべきだ!」

 オラールの提案に議員たちがが賛同した。

 今やオラールが議事進行の主導権を握っている。


「全会一致した。即刻出動してくれ」

 オラールの3D映像がアップした。威圧するようにロドスの3D映像に迫った。

「なんたることだ!テレス帝国のために行った政策だぞ!

 なんで私の軍を使うんだ?」

 3D映像のロドスが怒り狂って喚いた。


「皇女に続けさせた惑星ユング政策は、防衛大臣が考えた政策だ!帝国議会が承認した計画ではない!大臣の私的計画が失策だったと判断するのが当然だ!

 ロドス防衛大臣が責任を取るのは当然だろう!」

 オラールの発言に議場が賛成に沸いた。

 帝国議員たちは好戦的だ。帝国の危機などそっちのけで戦闘を好んでいる。


 ロドスはオラールを不信に思った。

「さては、我が一族の失脚を画策したな!」

「私は、お前の一族失脚のために、帝国を危険に晒すような事はせぬ!

 防衛大臣が私的艦隊でトムソの戦艦を駆逐しろ!

 さすれば、情け深い議員たちのことだ!情状酌量の余地もある!」

「そうだ!駆逐しろ!」

 またまた議場が沸いている。

 まったくアホな議員たちだとオラールは思った。


 騒然とした議場の3D映像に、ロドスは、もはやこの血に飢えた議員たちから逃れられないと判断した。

「ミム補佐官!儂の艦隊に出撃を命じろ!

 トムソの戦艦〈オリオン〉を駆逐させるのだ!」

 ロドスは控えている補佐官に命じた。


「了解しました。大臣、外に・・・」

 補佐官が執務室の外へ警戒を示した。

「なんだ?」

 室外で足音がする。誰か執務室の通路を走ってくる。

 ロドスは舌打ちした。3D映像で緊急招集された議会だ。ロドスは大臣執務室にいる。

 帝国議会は儂を拘束する気だな・・・。

 ドアが開いた。憲兵隊が現れた。


「私を、我が軍の旗艦に連れてゆけ。我がロドス一族の勇軍を知っとるだろう?」

 ロドスは現れた憲兵隊を一喝した。

「大臣を旗艦〈ロドス〉に、お連れするよう帝国議会の指示で参りました」

 憲兵隊長が丁重にそう言った。

「了解した。ミム補佐官。お前も来るんだ」とロドス防衛大臣。

「しくじったのはアンタだぞ。なぜ、アンタの尻ぬぐいをせにゃあならんのじゃ?」

 補佐官は呆れている。


 憲兵隊長は情け容赦なく言う。

「補佐官も攻撃の指揮に加わるようにとの指示です」

「わかった・・・」

 補佐官は渋々憲兵隊長の指示に従った。


 それからまもなく、ロドス艦隊が首都テスログラン近郊の軍事施設から静止軌道へ夜空をスキップした。

 旗艦〈ロドス〉に搭乗して指揮するのはロドス防衛大臣だ。

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