七 内部探査

 グリーゼ歴、二八一五年、十一月十六日、十五時。

 オリオン渦状腕外縁部、テレス星団フローラ星系、惑星ユング。

 ダルナ大陸、ダナル州、フォースバレーキャンプ。



 フォースバレーキャンプに戻ったマリーは、地下ドームにコンバットを集めた。PeJにテレス帝国政府を4D映像探査させて、結果を映像化した。


「PeJ。全ての通信回線を遮断して、ドレッド商会へ私の映像とPeJが探査した映像を送って、私とジョーだけが話せるようにしてくれ。

 今すぐできるか?」

「できるよ。ちょっと待ってね」

 PeJはジョーに関係する全ての通信回線を遮断して、4D映像通信回線を開いた。


「ボクもナイスガイと話したいな」

 PeJがマリーの肩の上でトルクンに変身して、うれしそうに身体を左右に揺らしている。

「PeJが状況説明できるか?」

 PeJは、巨大攻撃用球体型宇宙戦艦〈オリオン〉をコントロールするAI・PDのサブユニットだ。とは言え、誕生からの期間は二年ほどだ。


「ボクやってみるよ!ルンルン」

 マリーの肩でPeJは小躍りしている。

 妙なヤツだ。あんな二メートルもあってばかでかいグリーンブラウンの、カプラムのどこを気に入ったのか、理解に苦しむ・・・。

「PeJ、もしかしたら、大きな身体に憧れてるんか?」

「そうで~す。ジョーが出たよ」


「よおっ、ビルバム。何かわかったか?」

 ジョーの3D映像がフォースバレーキャンプのオフィスに現れた。ジョーはドレッド商会三階執務室でソファーに座り、サングラスのメガネ端末をかけている。

「内部探査だよ。

 サングラスに映す?それとも3D映像でいい?」

「ありがとうよ!3D映像でいいぞ!」

「オッケー」とPeJ。

 3D映像がジョーの前に現れた。

 ジョーはサングラスをかけたまま3D映像に見入った。


「皇女が監禁された。政府内が一つになった。

 これで、カプラム侵攻が開始される」

 マリーはジョーにそう言った。


 ジョーはソファーに座ったまま態度を崩さない。

 皇女の政治介入は建前に過ぎなかった。それが今消えた。皇女の指揮下にあった帝国軍警察は帝国軍の指揮下に戻ってオラールが掌握する。皇帝派は完全に帝国軍を掌握したと思っているだろうが、実体はオラールの指揮下だ。もはや皇帝の権威は失墜した・・・。

 ジョーはそう思った。


「ねえ、ナイスガイが皇女を救出するの?」

 トルクンのPeJがジョーを見つめた。

「カプラムは金髪碧眼の白人だ。オレはこのとおり異質だ。皇帝にすぐバレル」

 ジョーはPeJを見て笑った。

「Jが救出するの?ねえ、Jが救出するの?」

 PeJがマリーの肩の上で騒いでいる。まさに警戒心の強いトルクンだ。


「コンバットの任務はクラッシュの撲滅だ。クラッシュの売人アシュロン商会を壊滅する。

 従って指示系統のトップにいる皇女を救出するしかない」

 マリーはPeJにそう答えた。

 我々はニオブの信念に従う。コンバットは隠れ蓑だ・・・。

 軍警察はクラッシュ撲滅と称してアシュロン商会の支部を壊滅している・・・。

 帝国軍はアシュロン商会をバックアップしてクラッシュを使い、惑星ユングを経済支配した・・・。


「朝飯の時の説明を補足しておく。

 アシュロン商会がクラッシュを使って惑星ユングを経済支配する政策は、オラールが画策して、皇帝がオラールに実行させた。

 今後、オラールはアシュロン商会を壊滅して、惑星ユングを帝国軍に経済支配させ、時期をみて帝国政府を壊滅する気だ。

 皇女は、惑星ユングをクラッシュ漬けにしたアシュロン商会とテレス帝国軍を壊滅して皇帝を倒すつもりだったが、不可能になった・・・」

 そう説明するジョーは、マリーが精神波でジョーを意識記憶探査するのを感じた。


「共和国再建のために、俺はクラッシュの解毒剤を開発して、オラールの画策に乗った。

 オラールは、皇帝も皇女もヒュームも、オラールが画策した計画の駒に過ぎないと思ってる。

 今がチャンスだ。皇女を救出して皇帝と戦わせろ。

 帝国勢力が衰退したら、いっきにディノス政権を倒せ。

 俺は惑星カプラムでカプラム共和国を再建する・・・」

『そうすればニオブは侵略者ディノスを駆除して、俺はテレス連邦共和国を再興できる』

 ジョーはニオブが読めるように、あえて精神思考した。


「皇女を救出したら、皇女と皇帝の対立にジョーとアシュロネーヤが巻きこまれるぞ」

 カールがジョーの立場を気にしている。

 今朝、朝食時に行われたマリーとジョーの交渉は、全てコンバットに伝えられている。


「今日中に皇女派の上層部全員が逮捕されて、形式だけの裁判にかけられて処刑される。

 今のところ、オラールは皇帝の指揮下だ。表むき、皇帝が帝国軍を掌握したとみていい。

 皇女が動かせるのは、ヒュームが指揮する惑星ユングの帝国軍警察と、ヒュームの息がかかった惑星ユングのテレス帝国軍だけだ」


 マリーがジョーに訊く。

「皇女が監禁された皇帝の翼は〈ウィング〉と言っていた。

 どういう飛行体か知ってるか?」

 皇女をこの惑星ユングに連れてきて、駐留帝国軍の指揮を取らせない限り、皇帝との対決はあり得ない・・・。

 ジョーはマリーの精神思考をそのように感じた。

「五十メートルほどの円盤型小型飛行体らしい。実物は知らない」

 ジョーは態度を崩さずにそう言った。

 ニオブのお前たちなら、どういう飛行体か知っているだろう・・・。


 カールが精神波でマリーに伝える。

『J、〈ウィング〉はニオブの円盤型小型偵察艦だ。

 ホイヘンスは円盤型小型偵察艦を一機入手していた。そのレプリカだろう』

『私もそう思う。偵察艦の全機能がすでに解読されたとみていい。

 ステルス戦闘爆撃機で出撃するより、〈オリオン〉で〈ウィング〉をスキップさせる方が効率的だな』

 マリーに精神共棲している精神生命体は、ニオブのニューロイドのJだ。Jはオリオン国家連邦共和国代表で、戦艦〈オリオン〉提督の総統Jだ。戦艦〈オリオン〉は惑星移住計画用の攻撃用球体型宇宙戦艦で、直径四十キロメートルと巨大だ。



「ジョー、皇女だけを救出するのは可能と思うか?」とカール。

「飛行体に監禁されたなら飛行体ごと救出すればいいだろう?」

 すでにマリーは作戦を立てている・・・。

 ジョーはマリーの精神思考を読んでいる。


「ねえ~、皇女が捕まったままならどうなるの?

 皇帝は何するの?」とPeJ。

「アシュロン商会とドレッド商会を壊滅して、帝国軍に惑星ユングを支配させ、惑星カプラムに侵攻する」とジョー。


「では、皇帝の翼を攻撃しよう。明日未明に攻撃する」

 マリーが指揮下のコンバットに指示した。

〈オリオン〉は、惑星ユングの静止軌道上にスキップしたまま、誰にも気づかれずにステルス状態を維持している。


『PD。準備を頼む』

『わかりました』

 PeJを通じてAI・PDが応答した。


 マリーの指揮下にあるコンバットと、戦闘爆撃ヴィークル〈V1〉と〈V2〉、戦闘爆撃機〈⊿2〉と〈⊿3〉が、帝国軍警察フォースバレーキャンプの地下ドームにある巨大格納庫ごと、オリオンの巨大格納庫へスキップした。


 戦艦〈オリオン〉はただちに、テレス星系惑星テスロンの静止軌道上の、首都テスログラン上空へスキップした。

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