二 現場検証

 グリーゼ歴、二八一六年、九月二十六日。

 オリオン渦状腕外縁部、テレス星団フローラ星系、惑星ユング。

 ユング共和国、ダナル大陸、ダナル州、メガロポリス・アシュロン郊外、ノースイースト地区。



 一二三〇時。

 テレス連邦共和国軍警察コンバット・ノースイースト支部に、アシュロンキャニオン鉱山の採掘管理監督官から、

「ミカ・ロンドとアリー・ラドリック、トム・ワトスンとマイク・ソニアンが出勤しない。各自の自宅へ連絡したが、連絡がとれない」

 と連絡が入った。

 鉱山の採掘管理監督官によれば、四人ともミカ・ロンドの兄夫婦の葬儀で九月二十三日、二十四日は休暇を取っていて、昨日二十五日に出勤する予定だった。

 しかし、二十五日に四人は出勤せず、今日二十六日も出勤しない四人に、採掘管理監督官は異常事態を感じ、午後になってノースイースト地区のコンバットへ連絡したと述べていた。



 一三〇〇時。

 ノースイースト支部のコンバット指揮官オリバー・ミン少尉は部下のコンバットとともにPVでミカ・ロンドの自宅へ急行した。

 オリバー・ミン少尉はミカ・ロンド宅のドアチャイムを鳴らしたが応答は無い。

 もしかしたらと思い、オリバー・ミン少尉はドアにタッチした。

 思ったとおりドアが開いた。

「ミカ・ロンドさん・・・」

 銀色の分子破壊銃を構えて、オリバー・ミン少尉とコンバットは家へ入り、リビングを見た。

「・・・・」

 リビングの惨劇に、オリバー・ミン少尉とコンバットは言葉が無かった。オリバー・ミン少尉は自分をおちつかせ、現場映像をフォースバレーキャンプの指令部へ緊急送信した。



 一三三〇時。

 マリーとカールとコンバットが計四車両のPVで現場に現れた。

「現場はいっさい手を触れていません・・・・」

 オリバー・ミン少尉の言葉を聞きながら、カールは訊いた。

「部屋の匂いに変化はなかったか?」

「いえ、何もありません・・・」

「変化が何かあったのか?」

「こういう状況なのに、異臭がしなかったんです。血の臭いとか、肉の匂いとか、そういうのがしなかったのです・・・」

「オゾン臭がしたか?」

「はい、したように思います」


「クラリス。波動残渣を調べてくれ」

 カールとオリバー・ミン少尉の話を聞きながら、マリーはクラリスにそう指示した。

 クラリスがバトルアーマーの装備を操作した。

「波動残渣が無い。消されてる・・・」

 さらに、クラリスは遺留品を捜している。


 マリーは四人のDNAと指紋を照合して身元を確認した。ミカ・ロンドとアリー・ラドリック、トム・ワトスンとマイク・ソニアンだった。

 さらにソファーテーブルやグラスに残っている指紋を生体センサーで照合した。

「DNAも指紋も四人の物しか残っていない・・・」

「遺留品は無い・・・・」

「皮膚を確認しよう・・・」


 クラリスは衣類から皮膚を引きだした。皮膚は全身の全てがあり、髪も体毛も皮膚に付着している。皮膚に切れ目はなく、身体と皮膚が接していた部分に肉の層があり、全体に血液が染みでている。生きたまま全身の皮膚を剥いで、ソファーに座った状態の衣類の中に、そのまま放置した状態だ。AIパエトンがAIクピから得た情報、アイネクによる皮剥事件そのものだった。

 オリバー・ミン少尉が確認したオゾン臭は転送スキップによるものだろう・・・。

 現場検証に立ち会っているノースイースト支部のコンバットが、口を手で押えてリビングから外へ駆けていった。現場の状況に耐えられなくなったのだろう・・・。


 マリーとクラリスは被害者の全身の皮膚と衣類を綿密に調べたが、加害者を割りだす手掛りは何もなかった。全ての状況が、四人でエルドラを飲んでいた事実だけを示していた。

「全身の皮膚に切断部位がない。

 いつ中身が抜きとられたかわかるか?

 皮膚に残った波動残渣を探査できないか?」


 波動残渣は時空間構成粒子の経時変化だ。クラリスは4D探査(素粒子信号時空間転移伝播探査)でそれら時空間構成粒子の変化と痕跡を探り、過去に生じていた現象を再現する。時空間構成粒子の変化が時空間から亜空間へ連続する限り、探査と空間現象の再現が可能だ。これまでは大気中や宇宙で波動残渣を再現しているが、物質内の波動残渣を確認したことが無い。


「物質のような緻密空間で波動残渣を確認していないが実行しましょう。

 波動残渣があれば、何が起ったか再現できます・・・」

 クラリスはミカ・ロンドの皮膚に向ってバトルアーマーの装備を操作した。


 波動残渣の再現でミカ・ロンドの4D映像が現れた。

 ミカは人型をした眩い青白色のシールドに包まれて、ソファーに座っている。と同時に、シールドがミカの皮膚内に浸透して、皮膚内部から青白色の光を放った、その瞬間、ミカが衣類を着た全身の皮膚だけになってソファーに垂れさがった。

「皮だけ残して、身体を転送スキップされた!

 転送したヤツはアイネクか?管理官か?

 転送時刻はいつだ?」とマリー。

「九月二十四日、一三四八時です」

「宇宙ステーションが襲撃される前日に、四人を転送されたのか。

 どういうことだ?」

 なんで、宇宙ステーションが襲撃される前日なんだ?

 

「どの事件も主謀者はアイネクです」とクラリス。

 宇宙ステーション襲撃、バリー・ロンドとミッシェル・ロンド夫妻殺害、四人の皮剥事件、AIパエトンが惑星イオスのAIクピから得た情報で、アイネクの仕業とみてまちがいない。マリーは納得して指示した。 

「カール。遺留物を回収して帰投する。指示しろ!」

「了解。撤収だ。遺留物を回収しろ!」

 カールの指示で、総司令部のコンバットが遺留物を回収してPVに積んだ。


「我々は何を・・・」

 ノースイースト支部のコンバット指揮官オリバー・ミン少尉が指示を仰いだ。

「通常任務に戻る前に、被害者全員の身内に連絡しろ。

 この家を完全封鎖して管理し、身内に引き渡せ。ここはバリー・ロンドとミカ・ロンド兄妹の所有だ」

 マリーは遺産管理の手続きを指示した。

「了解しました」

 オリバー・ミン少尉がコンバットに住居管理を指示した。

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