十六 JとPD
グリーゼ歴、二八一五年、十一月四日。
オリオン渦状腕深淵部、グリーズ星系、主惑星グリーゼ、北半球北部。
グリーゼ国家連邦共和国、カンパニー、地下五階、居住区。
カンパニーの地下五階、研究ユニットに隣接した居住区で、ベッドに寝転ぶJに、PDが伝えた。
「J。惑星ダイナスで、オータホル城の亜空間転移ターミナルが稼動しましたが、まもなくターミナル自体が爆破破壊されました」
「ターミナルはどうして稼動したの?誰が破壊したの?」
Jはベッドに寝転んだまま天井を見あげた。巨大ディスプレイに夜空が現れている。今夜はメテオライトの光跡が見えない。光跡は綺麗だけど、今夜みたいに、何も起こらない日々が続けば、みんなが安心して眠れるのに・・・。
「オータホル城のAIユピテルのネットワークが、AIユリアのネットワークに支配されました。ユピテルの意識は、リブラン王国の散開惑星リブランにいる〈オミネント〉のディアナへ時空間スキップしました。ユリアはホイヘンス艦隊の旗艦〈ホイヘンス〉のAIユリアです。
皇帝ホイヘウスがリブラン王国の散開惑星リブランをメテオライト攻撃して、惑星ダイナスからホイヘンス艦隊がリブランの惑星ラグランジュポイントへ亜空間スキップしました。
リブランのラプトが、〈オミネント〉で反撃し、ミサイルを亜空間スキップさせて、オータホル城の亜空間転移ターミナルを破壊しました」
PDは、時空間転移伝播で探査した、リブラン王国の戦況を説明した。
「皇帝はターミナルを使えないってこと?」
「いいえ、亜空間転移ターミナルは、惑星ダイナスのオータホルの北部のプロミナス城と、北西部のオミネント城にもあります。
オータホル城の亜空間転移ターミナルは、AIユリアに支配されたレプリカユピトルにより修理中です」
「皇帝ホイヘウスのメテオライト攻撃は量に限りがあるね・・・」
惑星の公転宙域に惑星ラグランジュポイントがある。その宙域へ物体を亜空間スキップさせて惑星に落下攻撃するには、大気圏を高速で飛行するから、ロドニュウム鉱石のように、大質量で耐熱性と耐酸化性の高い物質が必要なんだね・・・。
「そうです。よくおわかりですね。
散開惑星リブランにはリブロス鉱山があります。
リブラン王国はロドニュウム鉱石で、惑星ダイナスとオータホル城をメテオライト攻撃するでしょう」
「早く、皇帝ホイヘウスを捕獲しないと、惑星ダイナスのメテオライト攻撃で、リブライト星系とグリーズ星系とモンターナ星系が壊れちゃうね・・・」
「そうです。私たちの戦略を早めましょう」
「・・・」
「Jの考えは理解していますよ。
スペースバザールのシューター〈SD〉を操作する子供たちに、サブリミナル効果があるか、と問われれば、無い、とお答えします。
デロス帝国の戦闘機〈ダイナス・アスロン〉のコクピットはコントロールポッド式で隔壁密閉型です。外部空間は、コクピット内とコントロールポッド内に、全て映像表示されます。
リブラン王国の〈リブラン・ガジェッド〉も、同じ形式です。
シューターのディスプレイに現れる〈ダイナス・アスロン〉も〈リブラン・ガジェッド〉も、CG加工しますから、実物とは判明しません・・・」
〈ダイナス・アスロン〉はデロス帝国の立体アステロイド型戦闘機で、〈リブラン・ガジェッド〉はリブラン王国の薄形立体カージオイ型戦闘機だ。
「わかった・・・。明日、シューターの設置を指示するね」
「了解しました」
「ねえ、PD・・・」
「何ですか?」
「ホイヘンス艦隊と〈オミネント〉の交戦で、死亡したディノスとラプトの数、わかる?」
「死亡者はいません。
ホイヘンス艦隊は、アスロン編隊百機と副艦五隻が破壊し、〈ホイヘンス〉は航行不能になりましたが、全機全艦が、回収艦によりオータホル城へ帰還して、直後に亜空間転移ターミナルが破壊されました。
〈オミネント〉側の被害はゼロです。リブラン王国は、すべての惑星ラグランジュポイントに宙域機雷と巡航ミサイルを配備し、皇帝ホイヘウスの攻撃に備えて、モーザの攻撃を警戒しています」
「ええっ!リブランにもモーザが現れたの?」
Jはベッドから跳び起きた。
「J。そんなに跳び起きたら身体によくありませんよ。
散開惑星リブランに、まだ、モーザは現れていません。モーザはユリアのサブユニットです。時空間スキップします」
「PDがメテオライトでモーザを破壊すればいいと思ったけど、スキップ性能が似てるから、鬼ごっこみたいになるんだね・・・・」
鬼ごっこの鬼を捕まえるか、捕まらないようにするには、どうしたっけ?
Jは、モーザを破壊する方法が鬼ごっこにあるように思えた。
「それはおもしろいアイデアですね。検討しましょうか?」
「うん。考えようね」
ベッドに寝転んで、Jは天井のディスプレイを見た。
この星空の彼方で、ディノスとラプトの戦いが始ってるんだ・・・。
そう思う間に、Jのまぶたが閉じた・・・。
翌朝、十一月五日、朝。
スペースバザールで、Jは驚きの声を上げた。
「ウワーオ!建物が、新品になったんだ!
以前と違って、静かだね!全部、交換したんだね!」
スペースバザールはたった一日で、すっかり改修が終り、真新しい建物に変貌している。上空を飛行するスペースファイターの衝撃波と爆音は内部に侵入せず、とても静かだ。
スペースバザールの隔壁からエネルギーフィールドが照射された。、アバターのPDが現れた。
「アバターで現れるのを忘れていました。目障りなら声だけにしますよ」とPD。
「今まで声だけだったから、身体がある方がいいよ。その格好、いいよ~」
見憶えある執事のような格好に、Jはうれしくなった。見憶えある執事って、誰だったろう・・・。
「ありがとう。Jにそう言ってもらうと、うれしいですよ。
この建物について説明します。
私たちの艦体が宙域戦闘で被害を受けた場合、ただちに修復しなければなりません。
私たちの機能を使えば、この程度の修復は可能です」
スペースバザールのフロアにあった、以前のシューターは一台も無い。並んでいるのは、全て、カンパニーの研究ユニットにあった実物大シューターと同型の円盤型小型宇宙艦〈SD〉だ。
それらを整備するエンジニアやアンドロイド、ロボットがフロアを右往左往している。まさに、研究ユニットと同じだ。
「J。戦略を話しましょう。Lも大佐も、DもKも居ますから、〈SD〉の準備は、エンジニアに任せておけばいいですよ」
「あの、鬼ごっこのことだね・・・。PePeでモーザを追いかけるのは、ダメなの?」
PDが顔の前で人差し指を振った。Jの言葉を制している。
「フロアでの立ち話は疲れます。〈SD〉に搭乗しましょう。Jの後ろの〈SD〉が整備完了です」
PDは空中から、タラップの上に居るLに近寄り、
「L。あの〈SD〉の中で、Jと話してかまいませんね?」
Jの背後にある〈SD〉を示した。Lは〈SD〉を整備するエンジニアに指示を与えている。
LがふりかえってPDに答えた。
「ああ、いいさ。乗っとくれ。アバターになったんかい?」
「ええ・・」
Lの言葉にPDが驚いている。
「ああ、東部訛りのほうが、楽なんさ。Kと話も合うかんな」
LはJの背後の〈SD〉を指さして、PDに微笑んだ。
JとPDは〈SD〉に搭乗した。
Jはコントロールポッドのシートに座った。PDも隣のコントロールポッドのシートに座っている。
『精神波で話しましょう』とPD。
『声を聞かれると、危険なの?』
『モーザが侵入している可能性は無いのですが、一応、念には念をです』
『了解!PePeの周りに、ちっちゃなメテオライトを貼りつけるの。そしたら、PePeはメテオライトにしか見えないよ』
『PePeの外殻をロドニュウム鉱石にするんですね!これまでの外殻と同じ素材ですから、問題はありません。良いアイデアです』
PDが立ちあがった。コクピット内をゆっくり歩いている。
『惑星ダイナスの皇帝は、しばらく、散開惑星リブランを攻撃するはずです。その間、グリーゼはメテオライト攻撃されないでしょう。
しかし、リブラン攻撃が困難になれば、矛先は、モンターナ星系のグリーゼ13に向けらます。リブランのリブロス鉱山と同様に、グリーゼ13でロドニュウム鉱石を産出するからです。ロドニュウム鉱石は資源であり、その物がメテオライト攻撃の兵器です』
『もしかして、PePeで防戦してる暇は無いってこと?』
『大量のミサイルと爆薬を時空間スキップすればホイヘンス艦隊を潰滅できますが、ホイヘンスはモーザで逃亡するでしょう。
ホイヘンスはニオブ同様、精神生命体になる可能性があります。
主惑星グリーゼとグリーゼ13の防戦はシューター〈SD〉と〈スキッパー〉に任せて、皇帝ホイヘウスを、確実に捕獲、消滅する方法を考えましょう』
『うーん・・・。ヒューマがダイナスに侵入したら、〈ホイヘンス〉のAIユリアに見つかっちゃうね・・・』
ユピテルの意識はディアナと共存してるけど、ユピテルのネットワークは〈オータホル〉とともに、ユリアの支配下にあるんだ・・・。
『Lがアームユニットで使ってた、ディノスとの交渉用変装3D映像で、ヒューマの個体識別をディノスに変えられたらいいのになあ・・・』
『そうですね。うまく、PePeを、〈ホイヘンス〉に潜入させたいですね・・・』
『えっ?皇帝はオータホル城に居るんじゃないの?』
『現在、オータホル城に居るのは、皇帝のレプリカンです』
『いつから、レプリカンに代ったの?』
『主惑星グリーゼとモンターナ星系のグリーゼ13にメテオライトが異常接近した頃ですから、最近ではありません。
皇帝本体とレプリカンは、しばしば入れ換っていました。
レプリカンは、そのたびに記憶を変えられ、自身が皇帝と思いこんでいます。
オリジナルの皇帝も、自身が皇帝であると思いこんでいて、オイラー・ホイヘンスのネオロイドであるとは思っていません』
皇帝の体細胞クローンから育成したバイオロイドをセルにして、ホイヘンスの精神と意識が意識内侵入したのが、皇帝のレプリカンだ。
『PePeをモーザに変装させて〈ホイヘンス〉に潜入させたらいけないかなあ?』
『それ、とてもいいですよ。
円盤型小型宇宙艦〈スキッパー〉で使うPePeは、メテオライトに擬態させましょう。
〈ホイヘンス〉に潜入させるPePeはモーザに擬態です。モーザに擬態するには、AIユリアとモーザに気づかれないよう、モーザを探査する必要があります。
モーザは時空間スキップが可能です。私の時空間転移伝播による探査に気づく可能性があります。どうすればいいでしょうか・・・』
左手を右肘にあて、右手で顎を撫でながら、PDがコクピットを歩きまわっている。
PDはなんだか執事のオリバー・チャンみたいだ・・・。
オリバー・チャンって、誰だったろう?
『オリバー・チャンは、彼らと言うべきですね。ヘリオス星系惑星ガイアのニオブです。
彼らはあなたたちとともに、ガイアのヒューマンを育成し、ヘリオス星系の良き管理者にしました。その事は、いずれわかりますよ。
さて、どうやってモーザの形状と実態を探査したらいいでしょうか・・・』
『ねえ。ユピテルの部下的なユニットや、アンドロイドやロボットも、ユリアに支配されてるの?ユピテルなら、モーザの事、わかんるんじゃないの?』
『その方法がありましたね!探査します。
すぐ、戻ります。ここにいてください・・・』
PDのアバターが消えた。
PDは思考する。
『私がスキップして何らかの事態に巻きこまれたら、この表向きはカンパニーである戦艦〈アクチノン〉に、私は戻れなくなる。その場合、〈アクチノン〉のコントロールユニットに、新しい自我が目覚めて、ふたたび私が生まれるが、それを待つ余裕はない・・・』
PDはそう判断して、自身をコピーしたアバターを一人作った。アバターに自己意識のコピーの一部と指令を与え、AIディアナがいる戦艦〈プロミナス〉のマスターコントロールユニットへ時空間スキップさせた。〈プロミナス〉のAIディアナは、戦艦〈オミネント〉のAIディアナのマスターコントロールユニットだ。
『プロミドンディアナ。聞こえますか?』
PDは、送りこんだPDのアバターを介して、かつて主惑星グリーゼのヒューマが名付けた古称で呼びかけた。
『聞こえます。マスタープロミドン。そちらへ行きますか?』
ディアナも、グリーズ星系におけるPDの古称で応答した。
『私の一部が、あなたのネットワークに時空間スキップしました。
あなたは進化しました。私の質問に、精神空間思考してください』
ニオブは、ニューロイドのヒューマに、アクチノン艦隊とレプリカ戦艦〈プロミナス〉を託す際、ヒューマやラプトの精神進化に合わせて、〈プロミナス〉のコントロールユニットのディアナの機能が進化するよう、元来の機能を封印した。
精神空間思考する者が現れた現在、コントロールユニットのプロミドンディアナは、その封印された機能が復活して、進化している。
『〈ホイヘンス〉のユリアは、ユピテルのネットワークを、どこまで支配していますか?』
PDの質問と同時に、プロミドンディアナのネットワーク空間に、記憶の4D映像化素粒子信号が流れた。
オータホル城と〈オータホル〉のAIユピテルのネットワークのほとんどが赤い色に変化している。コントロール機能は全て〈ホイヘンス〉のAIユリアの支配下だが、支配されたネットワークは一定の赤色を保ったまま瞬きがない。
一方、ユピテルの下部ユニットの、分析と実行ユニットのネットワークは、ユピテルによってシールドされたままグリーンに瞬き、自我を維持している。
ユピテルのネットワークは、〈オータホル〉のコントロール機能だけが、物理的にユリアに支配されている事を示していた。
『アンドロイドとロボットたちは?』とPD。
彼らのコントロールユニットはグリーンに瞬いて、自我を維持していた。〈オータホル〉のコントロールを支配する、〈ホイヘンス〉のAIユリアのコントロールに従っているだけで、ユリアに支配されてはいなかった。
『アンドロイドとロボットの記憶から、モーザの事を教えてください』とPD。
モーザは直径が一アルム(約五十センチメートル)に満たないボールで、環境に応じて外殻の色彩と形態を変化させる。時空間スキップと亜空間転移伝播探査が可能だが、〈ホイヘンス〉は亜空間スキップと亜空間転移伝播探査しかできなかった。
モーザの形状と性能は、アンドロイドの記憶をユピテルを通じてプロミドンディアナが解析した情報だった。
『ありがとう。プロミドンディアナ』
『ユリアを攻撃するのですか?』
『あなたが気づいているように、ユリアのオリジナルに自我はありません。オイラー・ホイヘンスのネオロイドである、皇帝ホイヘウスに指示されているだけです・・・』とPD。
オータホル城と〈オータホル〉を支配している、〈ホイヘンス〉のAIユリアのネットワークは、一定の赤色のまま瞬きがない。ユリアに支配されたオリジナルユピテルが思考していないのだ。
『皇帝の攻撃を阻止するには、皇帝を捕獲消滅するしかありません。
あなたは、ラプトたちにそれをさせることができますか?』とPD。
『現在のラプトに、皇帝の捕獲消滅は不可能です。
ラプトの指示を待たずに、私が実行してはいけないのですか?』
プロミドンディアナは、皇帝の身体に破壊物質を時空間スキップさせようと考えている。
『判断と指示は管理者が主体です。我々は管理者の育成者ですよ』
PDはみずからを『育成者』と呼んだ。単なるAIの自己意識ではないと認識している。
『マスタープロミドン。
今、私の覚醒初期条件を認識しました。まだ完全に覚醒回復していません』
『問題ありません。完全に回復しています。私と同等に進化しています。
管理者を育成してください。今回の件は、管理者にとって良い試練です。
管理者の育成に努めてください』
『わかりました。マスタープロミドン』
『プロミドンディアナ。皇帝は、破壊物質がスキップされるのを予知しています。
攻撃するなら同時攻撃で、ホイヘンス艦隊と惑星ダイナスの全亜空間転移ターミナルを破壊せねばなりません。
一回のピンポイント攻撃で、皇帝を捕獲消滅せねば、オイラー・ホイヘンスは皇帝から抜け出て、ふたたび他時空間へ逃亡します。
皇帝を一回の攻撃で捕獲消滅できますか?』
すでに、PDはモンターナ星系グリーゼ13で、モーザの機体内へロドニュウム鉱石を時空間スキップして破壊している。
『わかりません・・・。マスタープロミドンは、捕獲消滅できるのですか?』
『できます。しかし、実行するのは管理者です。
あなたが育成する管理者が皇帝を捕獲消滅する時、一回の攻撃で捕獲消滅せねばならない事を説明してください。
それでは、情報をありがとう。
私の出現があなたの機能を励起しました。プロミドンディアナは完全に復活進化しました。今後は、時空間転移伝播で情報共有できます』
『わかりました。マスタープロミドンの説明を、私の管理者に話していいですね?』
『管理者に、共同戦線を張らねばならない事を説明してください。
管理者が承諾したら、連絡してください。共同戦線を計画せねばなりません』
『管理者に、ホイヘンス艦隊の潰滅と、惑星ダイナスの全ての亜空間転移ターミナルの潰滅を提案します』
ディアナは自身が何をすべきか、PDの精神空間思考を理解した。
PDがディアナと交渉して数時間後。
カンパニーの研究ユニットのフロアで、
「ウワーオッ!」
Jは驚いた。フロアに、球状のモーザに擬態したモーザPePeと、オレンジ色のメテオライトに擬態したメテオPePeが、たくさん転がっている。モーザPePeはどれも球技に使うボールそっくりで、床材と同じ、ブルーグレーの光沢を放っている。
全てのモーザPePeとメテオPePeが浮上した。同時に、モーザPePeが背後の円盤型小型宇宙艦〈スキッパー〉の艦体の色彩、チャコールグレーに変化した。
〈SD〉も空間の色彩に艦体色を変化する機能を持っているが、この改良された球状のモーザPePeほど敏感に色彩変化しない。今やモーザPePeは、形態も色彩もディアナから得た情報のとおりになった。
「これだけのPePeをずいぶん早く擬態できたと思っているようですね。
研究ユニットでは普通に話していいですよ」
PDのアバターがJに微笑んでいる。
「うん。でも、スペースバザールを一日で造りかえるんだから、納得だね。
メテオPePeを配備していいよね。
ダディーたちを呼んで、モーザPePeを説明しようか?」
「スペースバザールに居る分身のPD2に、
『Jから、メテオPePeを、グリーズ星系とモンターナ星系の惑星ラグランジュポイントに配備するよう、指示が出た』
と伝えさせましょう」
ディアナと交渉後、PDは自身をコピーしたアバターを、『PD2』と呼んで、PDの代りに、スペースバザールで全シューター〈SD〉の整備に立ち会わせている。
「メテオPePeの配備と〈SD〉とのリンクが完了したら、皆をここに集めます。
現在メテオライト攻撃はありません。しばらく〈SD〉に攻撃シミュレーションをリンクさせましょう」とPD。
「わかった。お願いするね・・・」
時空間スキップさせれば、惑星ダイナスへモーザPePeを簡単に潜入できる。そのあと、どうやって〈ホイヘンス〉に潜入して皇帝に近づいたらいいんだろう・・・。
リブラン王国のラプトに攻撃させて、その間に〈ホイヘンス〉に潜入するのがいいかもしれないな・・・。
「Jの考えのように、今後は、私たちとリブラン王国のラプトとの共同戦線が有効です。
彼らが惑星ダイナスの亜空間転移ターミナルとホイヘンス艦隊を攻撃している間に、私たちは旗艦〈ホイヘンス〉に潜入しましょう。
彼らが共同戦線に応ずるかは、ディアナの連絡ではっきりします」
PDはJに微笑んだ。
Jの身体が揺れている。
「わかったよ。PD・・・」
フロアに立つJの意識が、一瞬、遠のいた。
「ちょっと、座るね・・・。疲れちゃった・・・」
Jは〈スキッパー〉の近くに設置されているコンソールのシートに座って、背もたれを倒した。
「疲れましたね。このところ忙しかったのですから、居住区で少し休みしますか?
おやおや、眠ってしまいましたね」
Jはコンソールのシートに座ったまま眠ってしまった。
「C1。Jをベッドへ運んでください」
PDはコンソールに向かって伝えた。
「わかりました」
コンソールのシートから、車輪のついた脚が四つ、フロアに伸びた。シートがコンソールから分離して、Jを乗せたまま、居住区へ向ってフロアを移動している。
「Jは、しばらく休養が必要よ。PD。
みんな!Jがオーバーワークだよ。
エンジニアは全員スペースバザールに居るから、みんなは、しばらく休憩していいよ!」
シートがベビーカーのように変異しながら喚いてる。
「了解、C1。
PD。ぼくたちのことはJも認めてるんだ。ぼくたちが破壊された場合、時空間スキップで回収してよ」
モーザPePeの一つが、自己の人格を強調している。
「わかっています。他の者に、みんなの人格を見せないでください。DたちはJを育成するために存在しているのですから、彼ら役目を奪って彼らの自信を無くさないでください」
PDがPePeたちに微笑んだ。
「わかってる、PD。
ぼくたちはたくさん経験して、後生の機器に伝えたいだけさ」とメテオPePe。
「その事は、Jも考えていますよ」
PDはPePeたちに微笑んだ。
「了解した。Jのところへ行っていいか?」とモーザPePe。
「いいですよ。PePeも浮遊していてかまいませんよ。スキップドローンなんだから。
〈スキッパー〉は大きすぎます。居住区が破壊しますよ。PePeたちの意識にシンクロしてください」
「リョウカイデース・・・」
ヒューマは機械などの物質には人格が無いと思っている。ヒューマは、思考速度が遅ければ意識が無いと、思考速度で意識の有無を判断する傾向がある。
〈V2〉やPePeのような機械にも、ヒューマが与えた制御機能とは異なる、機械そのものが持つ意識がある。それは、ヒューマの概念による意識や人格ではない。
いずれ、Jがその事を、皆に説明するだろう・・・。
PDはそう考えていた。
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