二十六 政治モニター㈡

 二〇二五年、九月二十三日、火曜、秋分の日、正午前。

 N市のS通りから北へ入ったY区に、日報新聞N支社の社宅がある。

 松浪は居間でテレビのニュースに耳を傾けながら、佐伯から受けとったタブレットパソコンのバーチャルキーボードに指を走らせた。


『こんなに災害が続くのは、政治がまちがった方向へ進んでいるせいか?政府は新体制になったが、本来あるべき政府になっただけだ。

 洋田総理の所信表明演説は漠然としていて、総理でなくても話せる内容だ。ビジョンがない。

 年金制度改革は、政権が変るたびに・・・・』

 松浪は書き続けた。

『・・・、経営陣に補填させる。一般社員についても、業績の上がらない社員には責任を取らせる・・・。

 以上を法制化する』


「健ちゃん、もうすぐご飯よ・・・」

 理佐はキッチンから居間を見た。松浪は座卓のタブレットパソコンで文章を書いている。

「ああ、日記を書いてるんだね」

「うん、パソコンを受けとったけど、書く時間がなかったから、気づいた事をメモしてたんだ・・・。あと五分くらいで書き終える」 

「じゃあ、ご飯、用意するね」

「うん・・・」


『・・・地方自治体へ移譲できる行政は全て移譲し、あらゆる行政を単純化しなければならない・・・』

 新体制の根本思想は何だ? 疑問が湧き、文章を書く意欲が松浪から消えた。

 佐伯と有沢を信じれば、新体制は合衆国傘下の経済界と対立する。そんな事が可能か?

 世界経済は資本主義国家に支配されてる。合衆国の経済力が衰退しても、資本主義の主流は市場原理の金融資本主義で、お金が世界を支配している。経済界に対して新体制はどうする気だ・・・・。


「ご飯よ。健ちゃん、どうしたの?」

 キッチンから理佐が呼んだ。松浪はディスプレイを見たままだ。

 新体制は経済界と敵対する。戸田社長を通じて支社長と佐伯さんは我々を政治モニターにした。新体制は我々に何をさせる気だろう・・・。


 テレビの自動スイッチが入り、緊急ニュースを告げた。

《緊急ニュースです。研融油化学の社長倉本氏と日報新聞の元社長、田辺氏の保釈が許可されました。保釈金は・・・》


 経済統合会会長の倉本は財界のドンだ。日報新聞の元社長の田辺は、経済統合会で、倉本の側近だ。洋田内閣と対立しているはずだ・・・。

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