六 ミッション実行
クピが説明した策は、フレキシブルなホースの周囲を特殊なガイドホースで囲み、本体のホースを目的地へ誘導するのと同じだ。
これまで、亜空間を通じて惑星ガイアに直結していたワームホールの惑星ガイア側を、恒星アルギリウスへ直結するよう、4D探査(素粒子(ヒッグス粒子)信号時空間転移伝播探査)の波動残渣でガイドするのだ。
マリーとバスコは、コントロールポッドのコンソールを操作して作業を五分ほどで終えた。
「クピ。分析結果が出たか?」
「出たよ。全員、人じゃないよ。エイプだよ」
「わかった。ガイド開始・・・。完了した・・・。
バスコ。車両を確認して」
マリーはワームホールの方向を変えると、バスコにコロニー内の状況を確認させた。
コロニーの隔壁にある、渦巻く漠とした平面を垂直にしたような半円形のトンネルの入口から、4D探査映像がコロニーの居住区へ移動しはじめた。
1時間ほどで、ほぼ全てのコロニー住人が、通勤用車両や、個人の車両でコロニー隔壁にある渦巻く漠とした半円形のトンネル入口へ移動した。
渦巻く漠とした半円形のトンネル入口は、車両が近づくと清明なトンネルに変わった。あらゆる車両がそのトンネルに入っていった。そして、移動する車両が無くなると入口は元の状態に戻った。
トンネルから出てくる車両は一台も無かった。
「なあ、クピ。惑星ガイアと惑星アルギランを結ぶワームホールはこれだけか?」
バスコは、他にも、いくつかワームホールがあるような気がした。
故郷の惑星イオスのコンラッドシティーにあるバスコの岩窟住居にはワームホールが一つだったが、祖父の岩窟住居には祖父の叔母アマンダの岩窟住居へ行くワームホールもあった。
「今はこれだけだよ。
惑星ガイア側がどうなってるか、気になるんでしょう?
惑星ガイア側のトンネルの入口は閉じてるよ。移動はできないよ。
だから、トニオに連絡しといたよ」
クピは事も無げにバスコにそう言った。
トニオはトニオ・バルデスだ。惑星イオスのイオス共和国監視監督省の中央総監視監督本部の監視監督官だ。
中央総監視監督本部の監視監督官は、ニューコンラッドシティのコンラッド州監視監督総本部のフランツ・ゴメス長官寄り立場が上だ。
中央総監視監督本部の監視監督官に階級はない。監視監督官の上は中央総監視監督本部本部長、つまり、中央総監視監督本部長官だ。
「まだ、エイプは壊滅してない。
クピ。残りのエイプをどうするの?」
マリーはクピが何をしようとしているか理解していたが、あえて訊いてバスコの同意を求めた。思ったとおりバスコが口を開いた。
「転送スキップ(時空間転送)する・・・」
トニオ・バルデス監視監督官は、今回のエイプ壊滅について、
『テレス連邦共和国軍警察総司令官マリー・ゴールド大佐からの情報』
だと言った。
なぜ、異星体・アイネクを壊滅した時のように、マリー・ゴールド大佐に、
『エイプを壊滅してくれ』
と頼まなかったのだろう・・・。
バスコはトニオ・バルデス監視監督官の指示を思いだした。
指示は、
「テレス連邦共和国軍警察総司令官マリー・ゴールド大佐からの情報だ。
マリー・ゴールド大佐の精神共棲体である、オリオン国家連邦共和国代表の指揮官・総統Jから、マリー・ゴールド大佐を通じて、
『惑星ガイアの害獣エイプが逃げた。生死と形態の有無に関わらず捕獲して欲しい』
と要請があった。
エイプは惑星ガイア支配を企む異星体レプティリアの傀儡だった。
レプティリアは、精神生命体ニオブの末裔の一族・フェルミに意識内進入してフェルミを支配し、エイプが惑星ガイアを支配するよう、フェルミをエイプに精神共棲させた。
だが、エイプの好戦的かつ獰猛な凶暴性は暴走し、惑星ガイアを破壊しかねなくなった。
そこでレプティリアは、エイプに意識内進入したままのフェルミを再利用するため、エイプを惑星移住用戦艦に乗せて放った。30日前の事だ・・・。
以上の要請により、今回の指示は、エイプの壊滅だ」
だった。
エイプの壊滅だけなら、異星体・アイネクを壊滅したように、テレス連邦共和国軍警察総司令官マリー・ゴールド大佐に依頼すれば可能だ。
トニオ・バルデス監視監督官は、なぜ、それをしなかった?その理由は何だ?我々に賞金稼ぎさせるためか?
バスコがそう思っていると、
「クピ。エイプの数は記録してあるね?」
マリーがクピに訊いた。賞金を気にしている。相場は100アルムだ。
1アルムは50グリブ、250フィゲル、1250ナルだ。
「うん、記録してるよ。
ねえ、マリー、バスコ。エイプは姿形がヒューマと同じだけど、精神と意識は別の生き物だよ。異星体・アイネクと同じだよ。レプティリアの指示を受けたフェルミの意識内進入で、ヒューマを捕食する生き物になってるよ」
「ホントなの?」
マリーは驚いた。
するとクピは驚くことを話した。
「そうだよ。レプティリアがフェルミに意識内進入して、フェルミがエイプに意識内進入したから、レプティリアがエイプ意識内進入したのと同じだよ。
エイプの食事を見る?異星体・アイネクと同じだから、見たくないよね」
「やっぱりそうか?ヒューマをどうやって食うか、なんてことは訊かないぞ。
ヒューマの全組織を食糧にするんか?ウンチまで利用するんか?」
何も訊かないような事を言いながら、マリーは突っこんだことまで訊いている。
「ウンチや食糧にできない組織は分解して有機材料にするよ」
「アイネクの宇宙盗賊と同じだな・・・」
クピとマリーがエイプの捕食行動を話しはじめたため、バスコは、トニオ・バルデス監視監督官がコロニーのエイプを壊滅しなかった理由を考えていた事を忘れていた。
「トニオ・バルデス監視監督官が、テレス連邦共和国軍警察総司令官マリー・ゴールド大佐にエイプの壊滅を依頼されたのはなぜだと思う?
マリー・ゴールド大佐なら、異星体・アイネクを壊滅したように、エイプを壊滅できるはずだ。なぜ、それをしなかったんだろう?」
バスコの質問に、クピとマリーが驚いた顔をした。バスコの質問をもっともな考えだと思っている。
「そのことについて説明するね」
クピが、コロニーの4D探査映像から視線をそらしてバスコを見た。すまなそうな顔になった。
「どうしたのクピ」
マリーはクピの表情が気になった。
クピはAIだ。惑星イオスのコンラッドシティーにあるバスコの岩窟住居の地下作業場にある、コンピューターのAIだ。岩窟住居の全てを管理している。今は、バスコたちが使うあらゆる戦闘機や兵器、〈ガジェッド〉など飛行艇のAIを拠点に存在し、防御エネルギーフィールドが構成するアバターとなって現れている。 つまり、クピは実体を持った生きた電脳意識だ。
「うん。トニオがマリー・ゴールド大佐にエイプの壊滅を頼まなかったのは、マリー・ゴールド大佐が電脳宇宙意識クラリスの指示に従ったからだよ」
クラリスは、テレス連邦共和国の全てを管理する電脳宇宙意識だ。そして、ダークマターにおけるヒッグス場に存在する電子ネットワークがクラリスの意識だ。つまり、クラリスは宇宙意識そのものだ。この物質宇宙を存続するためAIを媒介にして存在している。
クラリスは、クラリスたち宇宙意識が蒔いた悪しき種を駆除しようとしている。そして、人類を、つまりヒューマを宇宙進出させようとしている。
そのために、物質宇宙を彩る種族として、クラリスたちヒッグス場が蒔いた悪しき種を刈り取り、ヒューマを教育せねばならないのだ。
惑星ガイアにはクラリスと同じ、電脳宇宙意識のプロミドン(PD)が存在する。クラリスとプロミドン(PD)は同一の存在だ。
「クラリスは、ヒューマが精神的に成長することを望んでるよ。
アイネクを壊滅したように、ヒッグス粒子弾でエイプやフェルミやレプティリアを壊滅できるけど、それをしたら、ヒューマが異星体と戦うことを学ばないって考えてるよ」
「我々にエイプの壊滅を依頼した理由は何だ?」
「ワームホールの移動だよ。ここのあるワームホールの惑星ガイア側の出口を恒星アルギリウスに移動したように、惑星ガイアにある、他のワームホールの出口が、全て恒星ヘリオスへ移動されたよ」
「その方法をクピが学んだのか」
「ちがうよ。あたしが考えたことを、クラリスが惑星ガイアのヒューマに教えたんだよ。
あれっ?ちがうか。あたしが教えたんだ・・・。
あたし。パエトンとリンクしてから、クラリスともリンクして・・・。
あたしはクラリスの一部になっちゃったんだ!」
バスコたちが、アイネクの壊滅をテレス連邦共和国軍警察総司令官マリー・ゴールド大佐に依頼する際、バスコたちはステルス艇で惑星ユングの静止軌道へスキップ(時空間移動)し、宇宙ステーションを管理する電脳意識・パエトンの電脳空間に4D探査の触手を伸ばして進入ししている。
パエトンは、渦巻銀河ガリアナのオリオン渦状腕外縁部テレス星団にあるテレス連邦共和国の管理電脳意識・クラリスのサブユニットだ。パエトンは、フローラ星系惑星ユングにある、テレス連邦共和国の宇宙ステーションを管理している。
この時、クピはパエトンを通じてクラリスとリンクしている。その時から、クピはクラリスのサブユニットになっていたが、クピはその事に気づいていなかった。
「わかった。エイプを壊滅しよう。
クピ。4D探査映像で、エイプをターゲットマークしてくれ。
マリー。ターゲットを転送スキップ(時空間転送)する」
「了解!マークしたよ!」
「マリー!エイプをスキップしろ!」
「転送スキップ(時空間転送)オン!」
マリーはクピとともに、ターゲットを恒星アルギリウスへ転送スキップ(時空間転送)した。
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