八 決意

『時空間における生命の存在は限られている。そして、時空間を構成する物質が同じである限り、それら生命の姿形が大きく変ることはない。

 ある惑星の食物連鎖の頂点にヒューマノイドが存在すれば、その惑星が存在する銀河の他の星系でも、ヒューマノイドが食物連鎖の頂点に君臨する可能性が高い。

 つまり、惑星を支配する生命体がヒューマノイドであれば、他の星系の惑星も、ヒューマノイドが支配していると考えるのが妥当と言える。


 しかしながら、ヒューマノイドの種まで限定できない。人型生命体としてのヒューマノイドであり、ヒューマンとは限らない。

 仮に、ヒューマンとしても、他の星系、あるいは他の銀河や他の時空間からヒューマンが移動してきたら、それまで惑星に居住しているヒューマンが、新参者のヒューマンと共存共栄するとは限らない。

 それは、過去の地球における民族間の紛争や、宗教間の紛争、難民と定住民の関係を見れば明らかだ。


 ヒューマンは実に好戦的、かつ、集団戦闘力を有する種である。

 ヒューマンの大いなる脅威はその頭脳にある。種として築き上げ集積した知識を活用して、さらに高度化してゆく知能の持ち主たちが大いなる脅威なのだ。

 ヒューマンはこれら知能の持ち主や知識遺産を使って、惑星上の他種を支配してきた。そして、その脅威は今、宇宙へ拡がりつつある。


 座して死を待つか、危険が伴おうと生き延びる機会がある限り突き進むか、どちらもその先に死があるなら、少しでも可能性がある方向へ進むのがヒューマンの生き方だろう。

 私はここで、パンドラの箱に残ったように、ヒューマンには希望があるとは言わない。希望という言葉そのものは、未来が良き方向へ向かって進むだろうと、何ら根拠のない期待を示すだけで、悪しき方向へ進んだ場合の対処法を提示しない。


 私は人類、ヒューマンだ。他惑星のヒューマノイドの生き方を知らない。

 私なら、人類と動植物を搭載したノアの方舟に、強力な軍隊を同行させる。強力なエネルギー転換機を付けてだ・・・』

 天文学者ジョージ・ケプラー博士はそのように考えていた。



 会議室にケプラーとモリス・ミラーとクラリスが残った。

 ケプラーは自分の考えをモリス・ミラーとクラリスに打診した。

「キトラが罠を仕掛けてるわ。軍隊の随行は必要よ。ジョージ」

 クラリスがクラウディアの姿でケプラーに微笑んでいる。


「ジョージ。入植前の検疫が気になるんです。

 防疫のためなら、キトラ人が人類の宇宙船に乗船しなくても検疫できるはずです。

 あえて検疫するのだから、キトラ人は地球の病原菌に影響を受けないはずです。

 目的は他にありますよ・・・」

 モリス・ミラーは怪訝な顔になっている。

「そうよ」

 クラリスもモリス・ミラーに同意している。


 ケプラーは、はたと気づいて説明した。

 現在の家畜商は買い付けに立ち会わない。全ての買付けがクラリスの端末からデーターに従って判断して、取引する。

 もし、家畜商が現場に顔を出すとすれば、思いもよらぬ商品がある場合だ。宝石商が取引きの場に現れるのはデーター改ざんなどで騙されないように、現物を見るためだ。

 つまり、取引きの場に商人が立ち会うのは、商品の希少価値が高い場合だ。

 食糧生産者は、動植物を買ってそれらを育成する環境をも買い求める。

 ボリス・カイト評議委員長が言うように、キトラ人は食糧生産するために、食糧になる家畜を育成する惑星を用意した。それも希少価値の高い家畜を飼育するために・・・。


「ジョージ!それはなら、計画を止めなくっちゃならないですよ!

 みすみす食糧にされることはないでしょう?」

 モリス・ミラーは怪訝な思いを拭いきれない。 


「今回の入植を拒否した場合、キトラ人は強硬手段を講ずるだろう。

 そして、武力で人類を制圧し、食糧にする。

 我々人類は黙って食糧になる気はない!

 他の種を食糧にする異星体を許さない!

 これまで我々には無尽蔵なエネルギーも無ければ、恒星間航行する技術がなかったが、今はスキップドライブ(時空間転移推進装置)がある」


 キトラ人は人類にスキップドライブ(時空間転移推進装置)を与えた。分析結果は、信頼できる装置であるとを示している。すでに小型の宇宙船に搭載して、地上と静止軌道上の宇宙ステーションの間で、移動テストずみだ。


「このことは、ボリス・カイト評議委員長をはじめ、議員たちに報告するよ」

 ケプラーに思惑があった。

「了解です。クラリス。準備を頼む!」

 モリス・ミラーはジョージ・ケプラー博士に同意した。


「わかりました。これまでの会話は、すでにレポートにまとめてあるわ。いつでもホットラインへ送付可能よ。二人のサインをお願いします」

「いいとも」

 ケプラーとモリス・ミラーは、クラリスが示す3D映像化された書類にサインした。

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