三十七 ここにいなさい

 二〇二七年、十一月十九日、金曜、十六時半すぎ。

 大隅教授の自宅応接間で、テレビが緊急ニュースを伝えた。

《緊急ニュースを伝えます。

 R市のS渓谷に、所属不明の超大型空輸専用ドローンが墜落し、渓谷の吊り橋が崩落しました。橋を通行中の、黒の大型ヴィークル一台が事故のまきぞえになりました。

 渓谷に飛び散ったタブレットなどの破損部品の分析から、ヴィークルの所有者は田村ショウゴさんと判明しました。渓谷入口の休憩所女性関係者によれば、田村さんは奥さんと三歳の娘さんとともに紅葉を見に来ていた、と話しています。

 現場から映像をお送りします。


「ええ、お客さんは、あの黒のヴィークル一台だけでしたよ。可愛い娘さんでした。三歳っていってましたよ。お団子、たくさん買ってくれて・・・。

 きれいな優しいお母さんと、体格のいいお父さんでした。二人とも優しくて背が高くって・・・。

 そりゃあ、こういう仕事してますから、お客さんの性格はすぐ、わかりますよ・・・。残念だわ・・・」


 映像はライブです。

 ご覧の通り、ドローンとヴィークルは燃えつづけています。ドローンは非合法に、大量の可燃性物質を運んでいたと思われます。ヴィークル搭乗者の遺体回収は不可能とみられています。

 映像はライブです。

 延焼中のため、現場に近づけません。身元確認を可能にしたタブレットのチップが回収されたのは、奇跡といえる状況です・・・・》



 ディスプレイに、延焼するドローンと黒の大型ヴィークルの映像が流れている。

「あなた・・・」

 玲の顔が青ざめている。大隅教授は玲と宏治を抱きしめた。

 田村のヴィークルは白のSUVだ。体格は良いが、着やせして華奢に見える。妻の理恵は背が高いが、目立つ程じゃない。それより、耀子は精神年齢は高いが、見た目は一歳だ。何かがおかしい・・・。


「おかあさんたちが、ぼくに、ここにいなさいって、いってるよ」

 宏治がレゴブロックを玲に手わたした。

「わかった。れいちゃんが、こうちゃんのおかあさんになってあげるね」

「うん、いいよ」

 玲は宏治を抱きしめた。

              


 二〇三〇年。

 民主主義の基本理念・民主主義の三大原則、

「最大多数の最大幸福、社会的正義、道徳的責任」

 に従い、市場経済は国際的に根本から見直された。

 地球温暖化防止策を実行しなかった先進諸国は、発展途上諸国から大批判され、先進国を主軸にしない、新たな民主主義の協力体制が強まり、大陸ごとに国家が統合された。

 アジア連邦

 オセアニア連邦

 北コロンビア連邦

 南コロンビア連邦

 ユーロ連邦

 アフリカ連邦

 が誕生し、それらの民主的な統括政府として連邦統合議会(統合議会)に基づく連邦統合政府(統合政府)が誕生した。


(Ⅲ World wide② 我々がモーザだ 了)

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