四 アイネクの管理官
グリーゼ歴、二八一六年、九月二十六日、一一〇〇時過ぎ。
オリオン渦状腕外縁部、テレス星団フローラ星系、惑星ユング。
ユング共和国、ダナル大陸、ダナル州、フォースバレー、テレス連邦共和国軍警察フォースバレーキャンプ
「緊急事態。二十五時間前、惑星カプラムの宇宙ステーションが襲撃された。
緊急事態。二十五時間前、惑星カプラムの宇宙ステーションが襲撃された」
テレス連邦共和国軍警察フォースバレーキャンプのオフィスで、黒髪をポニーテールにしたバトルスーツにバトルバトルアーマーの若いコンバット(テレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員)が緊急事態を告げた。このコンバットはクラリスのアバターだ。
コントロールコントロールポッドで、マリーが訊く。
「襲撃者は何処にいる?」
「リナル銀河、カオス星雲のリオネル星系、惑星イオスの静止軌道上いるわ」
「宇宙ステーションが襲われたのは昨日だ。
なぜ、襲われた段階でクラリスに連絡が入らなかった?」
宇宙ステーションが襲撃された時、宇宙ステーションの管理AIが、なぜ緊急連絡しなかったかカールは不審に思った。
「宇宙ステーションの全管理システムがダウンされて襲撃された。全エネルギーが停止していたため、私も気づかなかった。私の失態です・・・・。
襲撃後、惑星イオスからAIクピがアバターを素粒子信号時空間転移伝播したため、AIパエトンの電脳空間が覚醒して、私に連絡してきた。現在、調査巡航戦艦〈スティング〉によって復旧が進んでる。
AIパエトンが得た情報を説明するわ」とクラリス。
「わかった」
カールが答えるまもなく、クラリスは得られた情報を説明した。
AIパエトンがAIクピから得た情報を聞いてマリーは一連の事件を納得した。
『マコーレ・ジョナサン、ミルコ・ロドノエフ、 ニールス・ランド少佐、アレックス・フォクスレイ中将、オルソン・チャン、アダム・ローレンス中将、医師のロック・コンロン。ロック・コンロンがレプリカンか否か確認していないが、クラッシュ事件とバイオテロに絡んだ者たちは皆レプリカンだ。
AIパエトンが説明したように、皆、アイネクのヒューマ型バイオロイドの管理官だろう。そしてミカ・ロンドの兄夫婦が間脳と小脳を抜きとられたのも、アイネクの仕業だ。
一連の事件でヒューマや物がスキップした事はこれで説明がつく。
テレス連邦共和国全域にアイネクの管理官が潜入している、と考えるのが妥当だ。管理官を探そう・・・。だが、どうやって探す?アイネクのヒューマ型バイオロイドの管理官は、アイネクの精神と意識が共棲したヒューマだ。テレス星団内のヒューマと何ら変らない。物理的スキャンでは識別不能だ・・・。
そうだ!思考記憶探査すればいい!』
「クラリス。思考記憶探査でヒューマとアイネクの管理官を区別できるか?」とマリー。
「おそらく、一般的な管理官はアイネクの意識が残っているはずだから、管理官を識別できると思うわ」
管理管が、自分をヒューマだと信じ切っていれば、アイネクの意識は存在しない。
クピがパエトンに伝えたように、アッキ・ダビド教授にアイネクの意識は存在しなかった。管理官としてのアッキ・ダビド教授は例外と言えたが、アイネクの精神と意識をバックアップしたパッチ通信機のネックを首の皮膚の下に装着していた。このような場合なら、思考記憶探査でヒューマとアイネクの管理官を区別できる。
「どこに管理官が何処に居るか探査できるか」
カールは宇宙船の金属反応を4D探査するように、管理官を4D探査できると思っている。
「管理官の身体だけを探索するのは不可能よ。管理官を示す特別な物質は存在しない。レプリカンとオリジナルを身体的に識別できないように、身体的特徴からヒューマと管理官の質別はできない。
思考記憶探査を使って4D映像探査するしかないわね」とクラリス。
「アイネクの管理官はヒューマ型バイオロイドだ。アイネクはヒューマのDNAを合成したのか?誰かしらのDNAを利用してるんじゃないのか?」
マリーは、あのゴキブリのようなアイネクがDNAを合成したとは思えない。
バイオロイドも人間と変らない。自然発生的に胚から個体が成長したか、あるいは、個体の成長過程が胚からではなく(胚からの場合もあるが)、固体を構成する人工胚の有機高分子組織が他から与えられたかによる違いしかない。後者の場合も、人為的に遺伝子DNAが配偶子によって与えられている。
いずれも、記憶情報は両者とも外部から与えられて、DNAによる固有の意識みずからが、与えられた記憶によって神経細胞組織を成長させて自己意識を成長せねばなならない。
バイオロイドの場合、ヒトゲノムDNAには、未解明のエクソンとテロメアがあるため、無作為に選んだヒューマのエクソンとテロメアがバイオロイドの遺伝子や配偶子に使われている。つまり、バイオロイドはクローンに近い存在と言えるが、厳密にば、クローンではない。ヒューマである。発生過程によって、バイオロイドはヒューマではないと区別されているが、実際の機能はヒューマそのものだ。。
今までにマリーたちが消去したテレス帝国軍アーマーのレプリカン(テレス連邦共和国軍警察コンバットになりすましていた)は、アイネクの管理官だ。しかも、テレス帝国軍中将ウィスカー・オラールの意志を継いでクラッシュを蔓延させようとした。オルソン・チャンはウィルス・カプコンドリアによるバイオテロだ。
おそらく、アイネクは、テレス帝国が壊滅する前からテレス星団内に浸入していて、捕獲したオラールの部下をバイオロイドと入れ換え、捕獲したオリジナルの部下から、オラールの計画を知った。そして、クラッシュ漬けのヒューマやウィルス・カプコンドリア漬けのヒューマを捕食しても害が無いのを知って、管理官にウィスカー・オラールの意志を継ぐよう指示して、ヒューマ社会をクラッシュやカプコンドリア漬けにして管理させようとした・・・。
そう考えながら、マリーはクラリスに訊いた。
「クラリス。ミルコ・ロドノエフやオルソン・チャンやフォクスレイ中将をレプリカンと判断した理由は、何だ?」
「テレス帝国軍は、カプラムのDNAに手を加えて、テレス帝国軍兵士にしていた。ヒッグス粒子弾でテレス帝国軍兵士を壊滅したのに、フォクスレイ中将たちはオリジナルのDNAを持っていた。マリーが言うように、アイネクはヒューマのDNAをそのまま利用している。おそらく、テレス帝国軍が存在していた時、帝国軍兵士の遺伝子情報を手に入れたのでしょう。
非常事態発生!
コンバットがヒューマ四人分の生皮を発見した!」
時刻は一三〇〇時になっていた。
(四章 異星体の宇宙盗賊 捜査継続)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます