六 異星体の侵入者
翌早朝。バスコは警報で目覚めた。
寝室には多重位相反転シールドが張られ、そのシールド内部に、岩窟住居の周囲にいる重武装した二人の男の3D映像が現れている。電脳意識・クピが多重位相反転シールドの微細間隙から4D探査(素粒子(ヒッグス粒子)信号時空間転移伝播探査)した外部3D映像だ。
「バスコ!侵入者だよ!ヤツラだよ!」
ベッドのバスコとマリーのあいだに、栗色の巻き毛の、大きな目のかわいい女の子が現れた。ゆったりしたパンツをはき、チェックのシャツを着てチュニックを羽織っている。年齢は十歳くらいだ。バスコの岩窟住居を管理する電脳意識・クピのアバターだ。
3D映像の男たちが岩窟住居のドアハッチに粒子銃をむけて、白紫色の粒子ビームパルスを放った。この岩窟住居はメサイア・ゴメス監督官が立ち去った時から位相反転シールドしたままだ。
「クピ!この家が一階の事務所だけだと示せ!急げ!」
ただちに多重位相反転シールドが地階と二階と階段をシールドして完全偽装隔離した。
岩窟住居のドアハッチは粒子ビームパルスを浴びて、位相反転シールドが赤色に閃光している。
マリーが目を覚ました
「この子はだあれ?バスコの娘?」
「あたし、クピだよ」
「おはよう・・・」
ベッドの中でマリーがクピにあいさつしている。
「またヤツラが来た。ヒューマじゃない。誰なのか知ってるか?」
バスコが3D映像の男たちを示した。同時にマリーがすばやくベッドサイドのバトルスーツにある剣のグリップを取って握りしめた。グリップから白色に輝く刀身が現れた。
外部3D映像で、赤色に閃光したシールドから輝きが消えた。位相反転シールドは赤色に変化し、粒子ビームパルスがシールドを突きぬけてドアハッチのロックに達した。
「進入するぞ!」
マリーがあわてている。
「静かにしろ!あわてるな!黙って見るんだ・・・」
バスコは小声で指示した。三人は黙って3D映像を見た。
「クピ。シールド間隙から、ヤツラを4D探査してくれ」
バスコは小声でクピに指示した。クピが小声で答える。
「二人を4D探査ロックしたよ。分析してるよ・・・。
あの二人、ヒューマ型バイオロイドだけど腕から先は昆虫の足だよ。
バスコがドラゴ渓谷に捨てた四人と同じだよ。身体の分析でおもしろい結果がでたよ」
クピはバスコとマリーの耳もとで分析結果を説明した。
男たちはバスコがドラゴ渓谷に捨ててきた四人と同じに、バトルスーツの上に武器を装備したバトルアーマーを身に着け、甲殻類の腕のような甲羅でおおわれた腕には装備がはまり、その先の腕には三本指の手がある。
ヒューマの身体構成基本要素がコラーゲン繊維なのに対し、男たちの身体組織構成基本要素はフィブリル化したセルロース繊維だ。男は二人ともDNAが同じヒューマ型バイオロイドで、肘から先は昆虫の脚の遺伝子だ。
外部3D映像で、ドアハッチのロックが壊れ、男二人がドアハッチを蹴った。
内部3D映像に男二人が現れた。その一瞬、大きな何かがフロアを動いた。一瞬なのでパスコとマリーは映像の乱れと思った。クピは位相反転シールドを破壊されたためノイズが発生したと判断した。また何かが動いて男たちがバトルアーマーから大きな銃を抜いた。
「粒子ビーム砲だ。二階のシールドが破られるぞ!
マリーが3D映像にあわてている。
「静かにしろ。声をだすな。ここは見つからない・・・」とバスコ。
「なぜだ・・・」
「二階と地階は素粒子多重位相反転防御エネルギーフィールドで守ってるよ」とクピ。
マリーは驚いた。技術が進んでも粒子レベルと思っていたのに、クピから素粒子の話を聞くとは思っていなかった。なぜこれほどの技術を持ってる?この惑星イオスのヒューマはここまでの技術を持っていないはずだ・・・。
マリーはベッドのクピとバスコを見つめた。
「バスコは何者だ?」
「バスコはあたしの父ちゃんだよ、マリー」
「親はクピの親だ。素粒子技術は俺が考案してクピが造った・・・」
そう言ってバスコは3D映像を見ている
男たちが粒子銃を構えたまま、事務所内に腕の装置をむけて内部の電子機器を探査した。
男たちが腕の装置に現れた探査結果を見ると、一瞬、何か黒く大きな物が映像に現れて消えた。男たちは納得したように粒子銃をホルダーに納め、ドアハッチに腕の装置をむけて装置を操作した。ドアロックは壊れる前と同じ状態にもどり。男たちは事務所から出ていった。
映像が外部3D映像に変った。二人の背後に陽炎のような飛行体が現れた。
ただちにクピは飛行体を4D探査ロックして分析した。
飛行体は全長五十レルグほど。平たい楕円体状の光学ステルス機能の飛行艇だ。低温核融合ドライブと、自他共に時空間移動させるスキップドライブを搭載している。シールドは位相反転シールド。兵器は対艦レーザー砲四門と対艦粒子ビーム砲を四門装備している。
「クピ、フロアを動いたあの黒い影はなんだ?」
「わからない。あの影はあたしの4D探査を逃れるため、多重位相反転シールドしてたみたいだよ。
アイツラ、マリーが消えたこの家を、ステルスの飛行艇で探査に来たんだ。
飛行艇がスキップするよ。4D探査ロックしたから追尾するね」
寝室の外部3D映像がゆらいだ。
男二人がステルスの飛行艇にスキップして次に飛行艇がスキップした。ただちにクピは、寝室と二階をシールドしている多重位相反転シールドの微細間隙から4D探査の触手を伸ばして飛行艇を追尾した。
外部3D映像が、クピの4D探査した3D映像に変った。飛行艇のスキップ先は巨大な物体だった。
「ここは、どこだ?」
寝室に現れている3D映像がひいて物体の全貌が現れた。小惑星の映像に変っている。
「これは小惑星に似せてるけど宇宙船だよ。大きさは十キロレルグ。外壁に小天体を貼りつけて偽装してるんだ。小惑星型宇宙船だね。中で暮らせるよ。
場所は惑星イオスの衛星軌道だよ。いつも太陽を背にしてるからイオスからは見えないよ」
「宇宙船がどこからきたか、わかるか?」
「宇宙船は位相反転シールドしてるから、すぐにはわからないよ。あの二人の頭の中、調べとけばよかった」
「気にするな。この惑星イオスにあんな小惑星型宇宙船はない。あの二人が宇宙船へスキップしたことと、ここイオスのヒューマじゃないのがわかったんだ。
だけど、大変なことになったな・・・」
バスコが考えこんでいる。
「何が大変なの?」
マリーとバスコの間からクピが奇妙な顔でバスコを見た。
「イオスに存在する素粒子のシールドはここだけだ。他は電磁シールドだ。
よそでマリーが見つからなければ、また、ここがまた狙われる。
それにヤツラは異星体だ・・・」
バスコはクピの頭を撫でた。
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