第156話 顔真似


 ヨトが慌ててトイレに向かうが、暗いので明かりを灯してくれるラインが来るのを待たなければならない。

 軽く冷や汗をかきながらぴょんぴょんと移動してい来るラインを待ち、トイレの穴が目視で確認できた瞬間急いでズボンを下げウンコ座りをする。


 すると、スルスルとピカピカ光るラインがトイレ穴に滑り込んでくる。


『まじか……ほんとに、ほんとに直接、良いのか?』


 ぽよんぽよん

 ラインに言葉は通じていないはずだが、大丈夫と言っている様に感じた。


『あぁ~良いんだな? やるぞ? ホントに良いんだな? もう我慢出来ねぇ……ああっ』


 一度出し始めるとどうでもよくなり全てを出し切ってしまった。


『ふぃ~。どうやって尻拭くんだ? いや分かってはいるんだけど、それを期待して待っているのもどうかと思うんだ俺は。魔物にお尻を綺麗にさせるのが当然と思うのは人間のエゴだと思うんだよ。やはり一度自分でお尻を拭く素振りを見せた方が良いのではないだろうか? ほら、女性もデートで奢ってもらえると分かっていながらも一度は財布を出して、払う意思がありますよって演技をする必要があるとかないとか』


 言い訳をするように独り言をペラペラと話すヨトのお尻に触手が伸びて来た。


『――あふっ』


 ラインが綺麗にしてくれるのだ。

 木べらでお尻を綺麗にするのが一般的だが、ここでは必要が無い。


『こっこれは――なんだ、この気持ち。生き物に直接排泄する罪悪感。そして背徳感。だけど、だけど、得も言われぬこの征服感、快感……昨日は特に何も思わなかったが冷静になってみるとこのスライムが――愛おしく感じる』


 ヨトが新たな扉を開いた瞬間だった。


『何言っているのよ。気持ち悪い』

『どわぁっ!? 何でいるんだよっ!?』

『お兄ちゃんの気持ち悪い独り言が聞こえて来たから心配で来たんでしょ! そしたらもっと心配になるような気持ち悪い事ぶつぶつ言っているんだもん。マジで気持ち悪い』

『……何回気持ち悪いって言うんだよ』


 そう言いながらラインを抱き上げて部屋に戻ろうとするヨト。


『ちょっ! 何持ち歩いているのっ!?』

『何ってスライムだろ』

『その体にお兄ちゃんのウンチ浮いているんだから、ウロウロしないでよ! 何でお兄ちゃんのウンチ見せられないといけないのよ! 消化終わるまでそこに居て貰わないとダメでしょっ!!』

『そうなのか?』

『逆に聞くけど恥ずかしくないの?』

『昨日もっと恥ずかしい事になったから今更』

『確かにすでに漏らした上にウンチの影絵なんて恥ずかしい事になっていたけど、開き直るの早すぎでしょ。とりあえず私もトイレ行きたいからそのスライム戻して』

『もう一匹に頼めばいいだろ』

『何それめんどくさい』


 ユーナはセシルの元に戻るとライアを指さして声を掛けた。


「トイレ」

「ダメ」

「……えっ!?」


 まさか断られると思っていなかったユーナは焦る。


『言葉が間違っていたのかな? 「トイレ」ってさっきお兄ちゃん言っていた気がするけど「うんこ」が正解なのかな?』


 もう一度、ライアを指さしてセシルに声を掛ける。


「うんこ」

「ダメ」

「……えっ」


 ライアは草食担当なのでウンチは食べさせることが出来ない。


「えっと、この子ダメ、あっちの子大丈夫」


 セシルの身振り手振りの説明で何となく伝わる。


『あっこっちのスライムはダメなの……え? なんで? 何が違うのよ』


『お兄ちゃん、そっちのスライムしかダメみたいよ』

『まじかよ。何が違うんだよ』

『分かんないけど、早くスライムを戻して』

『仕方ないな。ほらよ』

『ぎゃぁっ! 渡さないでよ!! お兄ちゃんのウンチ浮いているのよ!? 頭おかしいんじゃない!?』

『ム? それもそうか』


 ヨトが抱いていたラインを地面に置く。


「えっと、うんこ」


 ユーナはラインに王国語でうんこと伝える。


『あっちなみにトイレは「トイレ」だぞ。「うんこ」はうんこって意味だ』


『じゃあ何!? アタシはセシルさんにトイレじゃなくてうんこって何度も言っていたの!?』

『だからそう言っているだろ』


 ユーナは顔を真っ赤にする。


『お兄ちゃん最低ね』

『何怒ってるんだ』

『もういいっ!!』


 ユーナがラインの様子を見ながらトイレに向かうと、ラインが後ろを着いて行くのを見て安心する。


『お兄ちゃんじゃないけど、確かに可愛く感じるわね。体内にお兄ちゃんのウンチさえ浮いてなければ』


 トイレで用を済まし外に出ると、今度はセシルがやってきて交代するようにトイレに入って行く。


 そこで大変なことに気が付く。


(お兄ちゃんのウンチがアタシのウンチと思われるんじゃ!? おしっこしかしてないよ!? でもアタシさっきウンコって言っちゃったし……でもやっぱり勘違いされるのは嫌!)


「えっと私、ウンコ、違う」

「ん? あーはいはい。了解。了解」


 セシルは適当に返事するとトイレに入って行った。


『うわー最悪。セシルさんのあの適当な返事。絶対アタシだと思われたわ』



「ふぅ~あの2人がトイレでごちゃごちゃやっているから僕が漏らす所だったよ。3人もトイレ使うならラインの食事はほとんど用意する必要無くなりそうだね……そう言えばあの2人これからの生活どうするつもりなんだろう? まあどうでもいいや。とりあえずここにいる間は片づけ手伝て貰わないとね」





「えーと、コイツ、捨てる。手伝って」


 セシルが指さしたのは大男の死体だ。

 ティタノボアの消化液の影響もあってか、かなりグロい見た目になっている。


『まじかよ……』

『お兄ちゃん断れない?』

『泊めて貰って飯も出してもらっているのに断るのは無理だろ』

『――意外とまともな事言うのね』

『俺はいつもまともだ』


 ユーナは改めて死体を見る。


『……おえっ。気持ち悪い。上半身は持ちたくない』

『ユーナは小さいから足でも大丈夫だろ』

『お兄ちゃんが3人の中で1番大きいから、上半身になるね』

『うっ……うぇおっふぼぉえぇう』


 ヨトも表面がドロッとした死体に触れるのを想像して吐きそうになる。

 ちなみにセシルもスンとした顔をしているが、実はうっぷうっぷと吐くのを我慢している。

 どうにかほとんど触れずに運ぶ方法を考えていると商人からロープを買った事を思い出す。

 部屋からロープを持ってきて大男の死体に紐を括り付けようとイヤイヤながらもドロドロ顔を見た時だった。


 突如、何の前触れもなく天啓が降りた。

 セシルはこの時の事を後に「雷が落ちたようだった」と語っている(独り言で)。


「ライライ、ちょっとこっちに来て。嫌だったら断ってくれて良いんだけどね――――」


 セシルがライライに耳打ちすると、2匹は厳かに頷き身体の光を消し行動を開始した。


『キャッ』

『うぉっ!? 暗くなった!?』


「大丈夫だよぉ~安心してぇ~」

『ユーナ、大丈夫だってよ。でも奴の喋り方がいつもよりネットリしてないか? なんか企んでいるぞ』

『そうなの? それにしても真っ暗になると怖いね。壁に嵌ったままうめき声を上げている気持ち悪いのもいるし』


「ピー」「ピョー」

「よし。ライライ僕の左肩に乗って。ラインが下ね。」



「準備出来た?」

「ピー」「ピョー」

「よし、今だ!」


 セシルの掛け声でラインの雷魔法でパッと明るくなると同時に、ヨトの肩がポンポンと叩かれた。


『んっ?』


 ヨトが振り向くと、そこにはドロドロの大男の顔があった。


『うわああああああああ』


 ヨトは思わず腰を抜かし尻もちを着く。


「いーーっひっひっひっ」

「ナーッハッハッハッ」

 ぴょんぴょんぴょんぴょん


 ヨトの様子にセシルとマーモ達が大爆笑する。


『お兄ちゃん!? ぶふっぶふふっ』


 先ほど明かりを消し暗くなった隙にライライが大男の死体の顔に被さり、顔の形を覚えて来たのだ。


 そしてラインが明かりを点けると同時にヨトを振り向かせると、そこにはライアによる大男の擬態顔が照らされているというイタズラだ。

 下から光に照らされた大男の顔は半透明な事もあり尚不気味な仕上がりになっている。


 ユーナは一瞬ビクッとしたが、セシル達の仕掛けの全体が見える位置にいたので、落ち着いて見る事が出来、我慢出来ずに笑ってしまう。


「いーーっひっひっひっ」

「ナーッハッハッハッ」

ぴょんぴょんぴょんぴょん

『ぶふふふっ』

『笑うなっ! いつかやり返してやるから覚えていろよ。クソッ、ケツが痛ぇ』


「よし、じゃさっさと運ぶよ。魚っさんと大きなおっさんのせいで部屋がめちゃくちゃ臭い」





______

ようやく小学生みたいな下ネタ話がいったん終わりました。

長々とすみませんでした

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