第197話 弱肉強食


 セシル達はスマフ達と別れた後、何事も無く目的の梯子を掛けている木まで移動する事が出来た。

 この木は根っこがひっくり返ったような形をしており、木の上は広く何人も寝泊まり出来る広さがある。

 しばらくはこの木の上で寝泊まりする予定だ。


「この木でほんとに良いんだな?」

「近すぎる気もするけど、この木が近くに群生しているところもあまり無いし、あいつの動きが把握できる位置に居たいからね。し」


 木と木の隙間から遠目にアンキロドラゴンの背中らしきものがチラ見している。

 今は恐らく寝転んでいるようだ。

 念のため少し声を抑えて話をしている。


「マーモット達を上にあげる係りと梯子を運ぶ係りを分けたいんだけどどうしようか。ここまで来たら少しでも早くマーモット達を上にあげた方が安全だと思うから同時進行が良いと思うんだよね」


 ヨトとユーナは出来る限りセシルという戦力から離れたくないため別行動に反対したいが、先に説明されるとなかなか反論しづらい。


「組み合わせは?」

「僕とユーナとマーモの3人で梯子を運ぶ。後は全員ここでヨトが木の上にマーモット達を上げて欲しい。ライライがいるから襲われてもある程度大丈夫でしょ?」

「ぐぬっ」


 ユーナはセシルと一緒と言う事が分かってホッとしたが、マーモ含め3人だけと分かり顔が少し引き攣る。

 ヨトはヨトでセシルが居ない不安と、人間が自分1人だけと言う状態に言い知れぬ不安を感じる。

 だが、ユーナではマーモット達を上に上げる事は出来ないし、木登り担当をセシルにするとユーナとヨトの2人で梯子を運ぶ事になってしまう。


 反論が出来ない。


「すぐ戻って来るから」


 早歩きすれば2つの梯子を持って帰って来るのに半刻ほどで済むだろう。


「でも、俺の仕事きつくね?」


 そう。どう考えてもヨトの仕事がキツイ。

 背負子にマーモットを入れて何度も往復し上に運ぶのだ。


「よし、急ぐよ」


 セシルは聞かなかった事にしてすぐさま行動を開始した。



 アンキロドラゴンの影響で魔物が近くにいないのか何事も無く1つ目の梯子を掛け、2つ目の梯子も無事掛ける事が出来た。

 

 2つ目を掛けた所でヨトの様子を見ると疲労困憊で木の下でダランとしていた。

 15匹のマーモットを木の上に移動させて疲れたらしい。

 1本に10匹、次の木に5匹と運んだらしいが下からは見えない。

 後18匹も残っている。


「代わってくれ」

「やっぱりキツイ?」

「1回1回はそんなだけどな。10回以上往復していると握力が無くなってプルプル震えて来るんだ。ナンバーは最初に上げたから良いけど、一番重たいマーモは今の俺じゃ上げられないぜ」


 マーモは梯子運ぶ係りの方にいたので、まだ木の下に居る。


「そっか~木の上での生活はやっぱり現実的じゃないかなぁ……」


 返事をしながらセシルとユーナが木の上を見上げる。


「「ぁっ!?」」


 アンキロドラゴンの近くと言う事で大きな声を出せないが、声にならない声で2人は叫ぶ。


 バサッ バサッ バサッ


「ナー…………」


 上空の少し離れた所で鳥に連れ去られたマーモットの鳴き声が小さく響いた。


「……っ!?」


 セシルとユーナは慌ててアンキロドラゴンを見ると、背中が少し身動ぎした様に見えたがそのまま動かないのでホッと息を吐くが、一瞬でもホッとした事に軽い罪悪感を感じ、マーモットが1匹連れ去られた事実に青い顔をする。


「えっ……」

「どっ、どうしよう……」

「ん? どうしたんだ?」


 木に寄りかかってボーっとしていたヨトは何が起きたのか把握していなかった。


「なんかデカい鳥にマーモットが1匹連れ去られた」

「え“っ!? まじ!?」

「シッ、静かに。とりあえず上にあげた全員を下に降ろすよ!!」

「……まじかよ」


 ヨトの絶望の声を聞きながらもセシルが慌てて上に登ると、ガタガタ震えながら1つの塊になっているマーモット達がいた。

 10匹のいたはずだが9匹しかいない。やはり1匹攫われたのは間違いないようだ。


「子供から降ろすよ! 来て!」

 セシルが話しかけるが、マーモがこの場にいないため言葉が通じずマーモット達には動きが無い。


 セシルは思わず舌打ちをして小走りで走り寄ると、背中の籠を降ろし子供のマーモットを抱き上げて2匹入れる。


 持ち上げようとした所で2匹の重みにウッとなるが、グッと気合を入れて持ち上げる。

 慎重に梯子に足を掛けると足と手をプルプルと震わせながら降ろす事に成功する。


 セシルはマーモット2匹を地面に降ろした後、その場で何もせず立ち尽くしていたヨトとユーナを見て、もう1本の木に登ってるマーモット達も同時進行で降ろしとけよ!と一瞬カッとなったが、籠が1つしか無いので自分が全員降ろすかしかないと気付き、無駄に怒るところだったと反省すると共に危機感に歯嚙みする。


「くそっ」


 どうやったら早く下に降ろせるか、焦って考えがまとまらない。


「セシルさん、ライライちゃんに上の子達を守ってもらったら?」

「ん”!? ……あっそうだね。それで大丈夫だったわ……ふーっ、ありがとう」


 ライアとラインが斥力魔法で守れば、ワイバーンが数匹同時に来るような事態にならない限り恐らく大丈夫だと気付き安心する。


「ライライ、それぞれ違う木に登って全員降ろし終わるまでマーモット達を守って!」

「ピー」「ピョー」


 セシルがせっせと上にいるマーモット達を降ろし、疲れて来ると多少復活したヨトと交代しマーモットを無事全員降ろす事が出来た。

 全員降ろした所で改めて確認する。


「で、攫われた子はどの子?」

「まだ全員覚えてないから分からないかも……あっ、えっ、ちょっと待って、ナンバーは!?」


 3人で慌ててナンバーを探す。

 ナンバーはセシル達と出会う前のマーモット達のナンバー2だったマーモットだ。

 改めてマーモット達を数え直すと33匹いるはずだが32匹しかいない。


「もしかして連れ去られたのってもしかしてナンバーなの!?」

「……まじ?」


 再度周りを見渡すがナンバーだけいない。

 マーモを除いたマーモット達の中で一番身体が大きく食いでがあったナンバーが狙われたのだろう。


「嘘でしょ? ナンバーが? 助けに……は無理だよね」


 ユーナとナンバーは序列戦で引き分けた関係だけに、ヨトとセシルよりは愛着が湧いていた。


「申し訳ないけど無理だよ。急いで僕らの寝床も探さないといけないし」

「そう、だね」

「まあ正直に言っちゃうと……連れ去られたのがナンバーじゃなくてマーモなら何が何でも助けに行くけどね」

「それ、今言っちゃうんだ……」


「……これがサイコパスってやつか」 ヨトが小さい声で呟く。


「聞こえてるんだけど?」

「……」

「……今、言っとかないといざと言う時に揉めるからね。マーモとライライは最優先で助けに行くよ」


 なんとも言えない微妙な顔をしたユーナをみてヨトが声をかける。


「ユーナそんな顔するな。切り替えていくぞ――セシル、今あいつを塩魔法で倒す事出来ないか? この大所帯で新たな寝床探すより現実的じゃないか?」

「ん~それもそうだねぇ。自信ないけど試してみるかぁ」

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