第198話 強くてもアホ


 アンキロドラゴンを倒すチャレンジをしてみる事になり、とりあえず元々の予定通り木の上に登ってみる。木の上から一方的に攻撃するスタイルはセシルの得意とする所だ。

 鳥の強襲に備えライライも一緒に上がる。


 セシルが一方的に攻撃した所で、木の下にいるマーモット達が安全じゃないのはご愛敬。



「あー……木の上からだと逆に見えないんだ」


 登ったは良いが木の上からだと木の枝や葉っぱが遮り、逆に視線が通らない事に気付く。

 街道で行商人を探していた時は視線の先に木がなかったので、木の上=よく見える場所という先入観があったのだ。

 ラプターに襲われた時も真下に攻撃していたので問題が無かった。


「そもそもアンキロドラゴンを監視するために木の上で寝泊まりしようとしていたのに、前提から間違っていたわ」


 スルスルと地面に降りるとユーナから声が掛かる。


「もう攻撃したの?」

「いや、木の上全然ダメだった。他の木が邪魔してアンキロドラゴンが見えないんだよ」

「えー、それじゃ危険を冒してこんな近くの木に拠点置こうとした意味無かったんだ?」

「そういう事になるね。とりあえず魔法は試してみたいから、少し離れた所に移動して魔法撃ってみる。匂いに反応するかどうか見ないとね」

「ねぇ、それならライライちゃんに頼んだ方が良いんじゃない? いざと言う時に隠れやすいだろうし。セシルさんだったら見付かったら逃げられないかもよ?」


 ユーナが心配そうに言う。


「ん~でも近くに居ないと細かい指示が出来ないし、僕がやった方が手っ取り早いと思う。少しずつ試していくから多分大丈夫だと思う……多分。一応ライアに護衛頼もうかな」



 セシルはライアを頭に乗せるとアンキロドラゴンを中心にぐるっと回る様に90度ほど移動する。

 岩山ハウスと丁度反対側だ。


「よし、この辺かな。こっちは首側か。出来れば尻尾側の方が安心出来たけど……」


 ボソボソと独り言を言いながら塩魔法を発動しアンキロドラゴンに近付けていく。


「……反応無さそう?」


 いつでも逃げられる体勢のままアンキロドラゴンの首元に塩魔法を当てる事が出来た。

 遠くから魔法をピッタリと当てるのは超超高難易度だが、学園時代にいじめっ子に老化(回復)魔法を当て続けたセシルには朝飯前である。


「ユーナの予想通り魔法の匂いが分からないタイプ? それとも寝ているから気が付かないだけ?」


 セシルの塩魔法の限界まで吸着すると魔法を消し、コソコソとヨト達の元に戻る。




「どうだった?」

「何か1発で成功した。ただ寝ているから気が付かないのか、魔法の匂いに鈍感なのかは判断出来てない」

「倒せそうか?」

「行けると思うけど、あの巨体だから僕1人だといつ倒せるか分かんない。マーモとライライも一緒にやれば……あー、ライライは塩魔法使えないんだった。マーモと2人になっちゃうね。2人だとかなり時間かかるかも」

「そうか……なあ、今日は寝床探すより徹夜してでもあいつを倒した方が明日以降のため良くないか?」

「……ん~たしかにそれはそうかもだけど、徹夜するのって僕とマーモだけだよね? 徹夜した方がいいって意見言って良いのは僕とマーモだけだと思うんだけど?」

「いや、まあ、そうかもだが俺達もこんな所じゃ寝るに寝れないと思うぞ。とりあえずやるなら少しでも時間早い方がいいだろ。早くやれば早く終わるぞ。早速頼むよ」

「セシルさん頑張って!」

「……やるけどさぁ~。まあいいか。じゃ行ってくるね。護衛にライン残すからこの近くの草むらに隠れててね」

「いや、もう一応は魔法の実験終わった訳だし、もうここから魔法使えば良いだろ。いざという時は皆まとまっていた方が迷子にならなくていいんじゃないか?」


「そう? じゃここでやっちゃおうかな? あっ、でも何度も魔法消して出してしないといけないから、ここと鎧トカゲの中間くらいの場所に行くよ」


 セシルの魔法はいくらでも出せる代わりに出力が小さい。アンキロドラゴンの塩を少し吸着させたら魔法を消し塩を捨て、再度出し直して吸着、捨て、を繰り返さなければならない。



 早速セシルはアンキロドラゴンから50メートルほどの距離まで移動すると、マーモと2人で魔法を撃ち始める。マーモの背中にはライアが護衛として乗っている。


 ヨト達はここまで近付く理由が無い為、元居た場所のままだ。


 無言の時間が流れる。


 作業の様に塩魔法を何度も撃っている内にセシルは重要な事に気が付く。


「あ、これ繰り返したら僕達がマズいことになるかも」


 魔法は体内にある成分やキッカケが無いと発動できない。

 雷、火魔法なら身体の電気信号を利用、水魔法なら体内の水分、水魔法と同じ引力魔法である塩魔法は体内にある塩分を少し利用して発動させる。

 と言う事は、1回1回は微量ではあるが何度も塩魔法を撃つとセシルとマーモからもそれなりの塩分が奪われていってしまうのだ。


「マーモ、鎧トカゲの近くで魔法消していたけど、時々でいいから塩を吸着させたらこっちに移動させて塩を少し舐めよう」

「ナー」


 早速アンキロドラゴンから集めた塩をペロッと舐める。


「しょっぱ……喉乾くな」


 水貰いに行き作業を続行する。

 こうしてしばらく繰り返していると辺りはだいぶ暗くなってきた。


「今日は曇っているから日が落ちたら何も見えなくなっちゃうな。一旦引いた方が良いかな? 雨も降りそうだし」

「ナー」

「そもそも雨の中で塩魔法使った事無いけど使えるのかな?」


 しばらくすると後ろからヨトがコソコソと寄って来た。

 顔には涎の跡が残っている。


「どうしたの?」

「いや何かあったわけじゃないが、徹夜して攻撃するって話だったけど、今日の天気だと真っ暗になりそうだな。やめとくか?」

「本格的に暗くなってきたよね。僕も撤退した方が良いかと思ってたとこ。あっ……」

「どうした?」

「暗くて見にくいけど、家から魚っさん出て来てない!?」


 暗くなった事で太陽で皮膚が焼かれる事がなくなり外に出て来たのだ。

 特に太陽が岩山ハウスの真裏に沈んでいくので、岩山ハウスの入口はほぼ暗闇になっている。 

 ミニ魚っさんなら諦めて帰っていただろうが、少し知能の落ちる魚っさんは未だ外の血の臭いに釣られて外に出ようと時折チャレンジしていたのだろう。


 それに合わせるようにアンキロドラゴンもノソッと動き出した。


「やばい。アンキロドラゴンも起き出したぞ」


 アンキロドラゴンはノソッと身体を起こすと、出て来た魚っさんをバクバクと食べ始めた。


 ギョエエエエ

 仲間の鳴き声に魚っさんは石を投げるがアンキロドラゴンにはまったく効果が無い。


 聴覚と嗅覚で危機的状況だと判断した魚っさん達は慌てて岩山ハウスに戻っていく。


 それを追いかけアンキロドラゴンが玄関前の壁をガラガラと倒し家の中に顔を突っ込む。


「あぁっ、僕が一生懸命作った壁が…………」


 入り口が狭く顔だけしか入れなかったアンキロドラゴンは苛立ち、その場で尻尾を左右にブンブンと振り不機嫌な様子で家の中に顔を突っ込んだままブオオオオォオオオ!!!と雄たけびを上げた。


 外に居たセシル達もビリビリと空気が震え大音量に思わず耳を塞ぐ。


 耳を塞ぎながら様子を見ていると、狭い洞窟の中で大声を張り上げた事でアンキロドラゴン自信も反響した音で耳をヤラれたらしくフラフラとよろけるように数歩後ろに下がって座り込み、グワングワンする頭をフルフルと振っている。


「あっアホや……」


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