第196話 倒せる可能性


 アンキロドラゴンから逃げたセシル達は水汲みと状況報告の為に帝国人がいるであろう河原に向かう事になった。

 帝国人が宿泊しているであろう煙が上がっていた場所は、いつもセシル達が水汲みをしていた場所なので迷う事は無い。


 逃げた方角と目的の河原が一致していた為すぐに到着したが、そこに居るのが想定している帝国人じゃない可能性を考え念のため近くからこっそり覗く。


「いたいた。あの顔見覚えがある。こんな丸見えな場所で生活しててあいつらよく無事だよな」

「ポストスクスがいるからだよ。とは言え不用心な気がするよね」

「あぁポストスクスいると恐れて弱い魔物はあまり寄ってこないんだったね」

「改めて考えると、ほぼポストスクス無しでここまでこれたセシルは異常だよな」

「不本意ながらポストスクスに乗ったのは誘拐されそうになった時だけだね……じゃ、話しかけるからヨト通訳お願いね」

「分かった」


「どもどもー」

『――』


『誰だっ!? おっ? お前らかどうした?』


 剣の手入れや魚を捕獲しようとしていたベナスの兵士、冒険者グループはセシル達が来た事に気が付き、ガヤガヤと集まって来る。


「あー、えーっとなんだっけ」

「なんだよ。話す内容考えてなかったのかよ」

「あっそうそう。鎧トカゲが家の前にいるから、家の近くの木の上にしばらくいると思う」

『――――』


 鎧トカゲという表現はヨトがしっかりアンキロドラゴンと言い換える。


『はぁっ!? アンキロドラゴン!?』

『あのビリビリするような魔物の叫び声はアンキロドラゴンだったのか……どおりでポストスクスまで落ち着かない様子だったのか』

『アンキロドラゴン? どっドラゴンがいるのか!? ヤバいのか? どんなやつだ!?』


 帝国貴族お抱え兵士のスマフはディビジ大森林に入るのは初めてであり、魔物に付いてはあまり詳しくない。


『あぁスマフ殿は知らないか。陸のドラゴンと言われている奴だよ。飛べはしないが、まあ出会ったらほぼ終わりだよ。そうだな。ミツビオアルマジロは流石に知っているだろ?』

『ああ、死体であっても刃物が全く通らないやつだろ? 代官様の屋敷で見た事がある。手で持てるくらいのサイズだった』


 ミツビオアルマジロを倒す事が出来たという話は聞いたことがないが、極々稀に死体がディビジ大森林の道中で見付かる事があり、非常に高値で売買されている。

 ミツビオアルマジロの身体部分はハンマー等を使って何度も叩けばどうにか砕くか、長い時間をかければ削る事も出来るが、見た目が良い訳ではないので宝石として使えず、刃物としても形を整える手間がかかり過ぎる上にサイズも小さくなり苦労の割には使い勝手が悪い。

 甲羅に関しては誰もまともに加工出来ないので美術品以上の価値は無いとされている。


『ミツビオアルマジロがポストスクスよりデカくなったと思えばいい。まあ俺も一度だけ遠くからチラッと見ただけで、後は聞いた話だけどな』

『なんだそれは。理不尽すぎるだろう。すぐここから離れた方が良いんじゃ……』

「あの~話続けてもいい?」

『――』


 スマフ達の話が脱線しそうな空気を感じたセシルが話を遮った。


『あ、ああすまない』

「と言う事で岩山の家に入れないからさ、しばらく木の上で生活するかもしれなくて。だから日中は水を汲みに行ったりして居ないかもだけど、夕方にはいると思うから商品が届いたら木の上に大声で話しかけて貰えれば」

『―――――』


『その生活する木は具体的にはどこにある?』


 これにはヨトが直接答える


『岩山からこの川方向に50mから100m程度離れた辺りだ。木に梯子がかけてあるからすぐ分かると思う』

『分かった。しかしそんな距離で大声出したら危なくないか? ほかに呼び出し方法はないか?』

『たしかに』


「アンキロドラゴンの近くで声出したら危険じゃないか? って言っているぞ?」

「たしかに僕達も危険だね。じゃあ木を登って来る事を許そう」

『――』

『分かった。木を登れば良いんだな』

「そう言えば商品届ける部隊はどこに来るの?」

『――』


 スマフ達がヤベッと言う顔をする。


『どっどうする? 後続は真っすぐ岩山を目指してくるぞ?』

『そんな事俺らに言われたってなぁ。街道に出て待ち受けるしかないんじゃないか?』

『王国と教国に繋がる分岐から曲がって来る道を通ってくれば良いが、手前から斜めに森に入って来たら捕捉出来ないぞ』

『心配なら街道に出てから道に沿って迎えに行く形を取るしかないだろう。それですれ違ったらどうしようもなかったって事だ。俺らが街道に対して斜めに向かってもあっちが真っすぐ向かえばどちらにせよすれ違うだろ? それなら危険が少ない街道から探した方が良い』

『そうなるか。すれ違いの可能性を減らすには少しでも早い方が良いな……明日朝一で出発しよう』

『ああ分かった』


 その話を聞いてヨトがセシルに流れを説明する。


「そっか。とりあえず僕たちは来るのを待つだけでいいか。あっそうだ。小汚い帝国人の冒険者みたいなのが家に来たけど、おっさん達と関係無いか聞いてみて」

『――――――』


『何? 冒険者? 第二陣の斥候の可能性もあるか? 何人だった?』

『8人くらいいたと思う。アンキロドラゴンがそいつらの方に行ったと思うから生きているか分かんないけど』

『8人なら俺らとは関係無いはずだ。斥候でそんなに人数出すはずがないからな』


「ふーん。そっか。それなら良いんだけど。僕たちの用事はこんなもんで良いかな? そっちは何か聞きたいことある?」

『――』

『アンキロドラゴンはいつ頃いなくなるか予測は付くだろうか?』


「流石に分かる訳ないよね」


 セシルは失笑する。


「なぁ、お前なら倒せるんじゃないか? あの塩魔法で」

「いや無理でしょ。あの巨体だよ? 効果あると思う?」

「木の上からさ、時間かけてじっくりやればいけるくね?」

「私もセシルさんなら倒せる気がする」

「いやいやいや…………そう?」


 セシルももしやと思い始める。


「倒せなくても損は無いし試してみたら?」

「……もし、鎧トカゲが魔法の匂いに敏感なら僕達発見されて終わりじゃない? あいつなら木なんかすぐへし折れると思うよ」

「それ怖いな」

「ほんのちょっと魔法放って様子見てみればいいんじゃない? ミツビオアルマジロもあまり敏感な感じしなかったし」

「ん~じゃあ試してみるかぁ」

「じゃ倒すかもしれないって一応伝えとくか」


『いついなくなるか分かんないけど、もしかしたらコイツが倒すかも』

『ん? ドラゴン種なんだろ? 倒せるもんなのか?』


 スマフがスルタルの方を見て確認する。


『いやいやいや、何言ってんだ。どう考えても無理だろ。どうやって倒すんだ?』


 スルタルは苦笑した後、ヨトを見て確認する。


『ちょっと待って』


「こいつらに倒す方法教えてもいいか」

「ん~それは嫌だな。いつ敵になるか分からないし」

「そうだな。じゃ秘密って事にするわ」


『秘密だ。そもそも倒せるか分かんないからあまり期待しないでくれ』

『そっそうか……』


 期待するなと言う辺り、子供の蛮勇と切り捨てるには妙に話に説得力があり倒せる可能性がある事にドン引きする。


『質問はそんなもんか? じゃ、水の補充とかさせてもらうぜ』


 セシル達が和気あいあいと水汲みなどをしている間、スマフ達は困惑したまま話し合いを始めた。


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