第195話 子供VS子供


ゼーハー ゼーハー 


「もう……大丈夫かな?」


 セシルハウス(アンキロドラゴン遭遇)から5分は走った所で、ほぼ全員がその場でへたり込み息を整える。


「全員無事?」

「ナー」


 マーモがマーモット達の確認をしていたらしく無事だと返事をする。

 マーモはあまり疲れていないようだ。


「よく皆無事だったね」

「帝国人か雑魚っさん辺りが食べられたんじゃない?」

「狙われなくて良かったよ」


 人間(帝国人)が食べられた可能性にヨトとユーナは素直に良かったと思う事は出来ず、複雑な顔をする。

 その様子を見てセシルは2人を子供を見る様な目で話しかける。


「ふふっ、2人はまだまだ大森林初心者だねぇ」

「お前よくそんなニコニコ出来るな。人が食べられたかもしれないんだぞ?」

「でも僕たちは食べられてないからね。あの人たちの代わりに食べられたかった?」

「そんな訳ないだろ。そんな極論を言っているんじゃねぇよ」


 ユーナもヨトの言葉にうんうんと頷いている。

 セシルはヤレヤレと言った雰囲気で反論する。


「はぁ~。まだそんな事言っているの? 生か死か。僕たちは極論の世界にいるんだよ。それが嫌なら早く王国を目指すべきだね。まあ肌の色で王国でも苦労するだろうけどね。ハハッ」


 王国の玄関口シルラ領には護衛で雇われた帝国冒険者が良く訪れるので帝国特有の小麦色の肌をしている人はチラホラといるが、それでもやはり目立つ。

 目立つ異物は避けられるか排除されるか利用される。

 もちろん異物に対しても平等に接する心を持っているものもいるが、助ける事で自分も村八分に合う事を恐れる。

 平民で生活が裕福な者などほんの一部だ。ただでさえ生活がキツいのに村八分にされると生きる事さえ難しくなる。

 心でどう思おうが生活が裕福でないと他人に優しくなど出来ないのだ。

 よって帝国色の異物(ヨトとユーナ)が王国で苦労するのは想像に難くない。


 ヨトやユーナもセシルに言われ、よくよく考えて見れば帝国で見る王国の肌の人間は、大多数が奴隷であったかもしれないと思い至る。


 だが、セシルの発言が正しいかどうかは今はどうでも良い。

 とりあえず先輩風を吹かせた様な嫌味ったらしい言い方と勝ち誇った様な顔が気に喰わない。


「あんっ? てめぇこら、お前はいつも偉そうにっ」パーーーン

「「イテっ何すんだよ!」」


 ヨトが『オラオラ喧嘩ならやっぞオラ!?』モードに入ったのを感じた瞬間にユーナがヨトの頭をはたいた。ついでに腹立つ顔をしていたセシルの頭も一緒にはたいていた。


「何で僕まで……」はたかれたセシルは驚いた顔をする。

「セシルさんがふざけてるからよ! 今言い合いしている場合じゃないでしょ! あんた達は隙あらば喧嘩するんだから! 馬鹿なの!? だいたいねぇあんた達っていっつもそうじゃない! 今日も――」「分かった、分かったから。まずはアンキロドラゴンの事を考えよう。なっそれでいいだろ?」


 ユーナの長い説教が始まると察したヨトはそれを慌てて止めると、話を変える。


「じゃあとりあえず現状を確認するぞ」

「ヨトが偉そうに仕切――わっ分かったから睨むなよ」


 セシルはヨトが仕切り始めた事に不満を漏らそうとするが、ユーナにキッと睨まれ大人しく引き下がる。

 セシルも別に仕切りたい訳ではないが、さっきのわだかまりを引きずって文句を言いたかっただけだ。わだかまりも何もセシルが先輩風を吹かせようとしたのが原因なのだが。


 下唇を出してムスッと幼い子供みたいな態度を取るセシルを見て、(こいつはまだまだ子供だな)と冷静になったヨトが続きを話す。


「俺が話すのは現状の確認だけだ。決断はセシルがすればいい。いいな? おい、反応しろよ。いいな?」


 セシルはそっぽを向いたまま頷く。

 ヨトはため息を吐きながら続ける。


「まず、いつ帰れるか分からないから寝床を考える必要がある。他には、水をほとんど溢してしまったから補給に行かないといけない。それとアンキロドラゴンが家の前にどれだけ居座るのか分かんねぇから拠点をもう1つ作った方が良いかもしれねぇ。こんなもんか?」

「……ちょっとあれだね。ヨトってちょっと、ほんのちょっとあれだよね」

「おい、どういう意味だコラ」

「いや、違う違う落ち着いて、良い意味でだよ、良い意味で」

「良い意味で? ほんとか?」


 ヨトはまだ王国語の言葉のニュアンスの違いがよく分かっていないので反応に困るが、セシルの顔を見るとどうも良い意味で使ってるようには見えない。


「とりあえずさ、いつ帰れるか分からないから寝床を考えるのとアンキロドラゴンがいつまで居座るか分からないから拠点をもう1つ作るってのはほぼ同じ意味だよね」

「……まあそうか……その流れで俺の事を「ちょっとあれ」って言ったのは?」

「良い意味で」

「……良い意味で?」


 ヨトはさっきのやり取りを思い返しハッとする。


「絶対良い意味じゃねぇだろ!」

「2人ともいい加減にしてっ! 特にセシルさん!! 優先順位は? 水? 寝るとこ? アンキロドラゴン倒す方法?」

「倒す? あれを? 流石に無理でしょ?」

「セシルさんなら出来るんじゃない? まあそれは後で考えるとして、一番最初にするのは水、かな? 寝るのは避難木の上でいいんじゃない?」


 万が一の避難先として梯子をかけた木が複数作ってある。

 避難木は正式名ではなくユーナが勝手に名付けただけだ。

 木の上が平べったく広がっており過ごしやすい形になっている。


「梯子を何度も往復して登るのか?」


 30匹を超えるマーモットを上まで運ぶのは時間と体力が必要になって来る。


「その方法しかないよね」

「そもそも1本の木に全員は無理じゃねぇか?」

「あー確かに。別の避難木から梯子移動させようか」

「家の一番近くの避難木は周りにも数本避難木があったよね?」

「家から近すぎない?」

「鎧トカゲが見える位置の方が家の様子が分かるから良くない?」

「ん~そうだけど大丈夫かな?」

「慎重に行けば大丈夫でしょ。水補充組と梯子運ぶ組に分かれよっか?」

「……いやぁ、それは」

「一緒がいいんじゃないかなぁ」


 ヨトとユーナは自分がセシルと違う組に入ったパターンを想像し、とんでもなく心細い事に気付き反対する。


「なんで? 別々の方が効率良くない?」

「いやぁ……えっと、ほらっ! もし魔物が出て来てバラバラになったら連絡する方法もないし……」

「ん~。それもそうか。じゃとりあえず水汲みに行こうか。シャグモンキーの所は騒がしそうだったから、帝国のやつらがいる河原に行くか。一応こっちの状況も伝えといた方が良いだろうしね」

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